第2話

 みっちゃんと出会ったのは、小学一年生の時だった。今はもう、うろ覚えでしかない記憶だが、確かに、みっちゃんのお誕生日会の写真に私も写っていた。


「すごくない? ばっちり写ってるし。昔、仲良かったんかねえ。覚えてないけど」


 そう言って、みっちゃんは笑った。


 私も覚えていないと言って笑ったけど、本当は、嘘。


 はっきりとは覚えてないけど、うっすらとだけなら覚えている。


 でも、みっちゃんが覚えていないのに、私だけ覚えているなんて言えないから、合わせて言っただけだ。


 私の住んでる団地に新しい小学校が出来て、途中からそちらへ移ったから、お互いのことをあまりよく覚えていないのだろう。


 中学も一緒だったけど、グル―プなんかが違っていたりしたせいもあって、みっちゃんと私は関わりのない存在だった。


「ごめ~ん!」

「遅い~」


 不機嫌そうなみっちゃんの顔を見る度に、明日こそは! っと思うのだけれど、そうそう人間の生活習慣は変えられない。もう五分でも早く起きられれば、みっちゃんの顔をそんな不機嫌にさらすこともないだろうに。なかなかそれが出来ない。


「三十一分のに乗って行くよ」


 三十五分の電車を待って乗れば乗り換えもせずに着けるのだが、三十一分に乗って一本前に出た電車に乗り換えるのには訳がある。


「今日は会えるかね」

「絶対会うよ!」


 力んでるみっちゃんを見て私は笑った。


 みっちゃんには好きな人がいる。


 でも、その人は学校も違う一つ年上の男で、同じ弓道部のため、大会などで顔を知っている程度なのだ。


 だから、毎朝同じ通行路を通るその男を一目見ようと電車の時間を計算しているのだ。


「も~、長谷さんまじかっこいい~」

「そう? 私のタイプじゃないなあ」


 毎朝のろけるみっちゃんに私はあっさりと答える。


「なんでよ~。まじかっこいいじゃん」

「まあ、人の趣味はそれぞれだしね」


 私とみっちゃんの趣味は本当に違う。まったくもって正反対だ。性格も、のんびりした私に比べて、みっちゃんはしっかりしている。


 そんな私達がどうして一緒にいるのかと言うと、同じ高校に受かったからだ。


 しかも、その学校に通う生徒が近所にみっちゃんと私しかいない。そんな私達でも、いつの間にか何でも話せる仲になっていた。


「昨日、何時間電話しよったん? 二時間以上はしてたじゃろ」


「え~? 昨日は一時間しかしてないよ」


「一時間も? それだけしたら十分すぎるよ」


 毎朝交わされる話題は、まずみっちゃんの恋ばなから始まって、私の恋ばなになったりする。


「それより、お金すごいんじゃないの? 毎日電話一時間はするんでしょ?」


「うん……。それは私も気になるけえ、聞いてみたんだけど、気にしなくていいって」


 私の毎日電話している相手は、SNSで知り合った21歳の男だ。何度か会ったこともあって、今では私の想い人となっている。


「あのさ~、今日先に帰ってもらえん?」


「なんで?」


 私がこれを言ったらみっちゃんは何て言うだろう……という不安が胸を過ぎる。


「今日の放課後、直人と会う約束しちゃったから……」


 はっ?! っと驚いたような顔をして、みっちゃんが言った。


「危ない、危ない」


「危なくないよ。そんな人じゃないもん」


「それは分からないでしょ? いつ何が起こるか分からないし」


「そりゃあそうだけど……。直人はみっちゃんが考えてるような人とは違うよ」


「なんでそう言えるの? そりゃあ、私はその人のこと何も知らないけど、奈美だってその人の全部を知ってるわけじゃないでしょ」


 ずきん。胸が痛んだ。


「それは~、そうかもだけど……」


 腑に落ちない顔をしてみせても、みっちゃんには敵わない。みっちゃんの言ってることは誰が聞いても正しいと思うだろう。


 SNSで知り合って、数回しか会ったことがない人(しかも車持ち)を、そう簡単に信じろと言う方が無理だろう。世の中が、世の中だから、本当にいつ何が起こるか分からない。


 それに、みっちゃんは私のことを本当に心から心配して言ってくれてるのだ。そこまで私のことを心配してくれる人はみっちゃんだけだろう。


 そんなみっちゃんだからこそ、私は何も言えない。


「もう告られた?」


 ずきん。また胸が痛んだ。


「ううん。告られてなんていないよ」


 最近みっちゃんは、このことばかり聞いてくる。その度に私の胸が痛んでいることを、みっちゃんは知っているのだろうか。


 私とみっちゃんはクラスが違う。主に学校の行き帰りと、部活の中だけでの関係だ。それでも、みっちゃんとは何でも話せる仲になっている。


「おはよ~」


「おはよう」


 クラスの友達とある程度あいさつを交わしてから、私の学校生活が始まる。


「どしたん? 元気ないね」


 いつも学校で一緒にいる由美が声をかけてくれる。そう、最近の私は変だ。


「うん……、なんか、ね」


 そして、今日みっちゃんに言われたことや、最近感じていることを話した。


 由美は、それを真剣に聞いていてくれた。


「だから。最近、みっちゃんといるのがちょっと、辛いんだあ……」


 みっちゃんの言っていることは正しい。


 でも、それが私を傷つけていることをみっちゃんは知らない。性格上、はっきり人にモノを言うタイプなだけであって、みっちゃんに悪気はない。それは、高校に入って1年以上も一緒にいた私にはよく解る。


 でも、最近そんなみっちゃんといると、疲れを感じてしまう自分がいる。


 それはどうしようもない事実だ。


「そっか~。みっちゃんもはっきりモノを言う人だからね~」


 由美ともまた、何でも話せる仲だ。みっちゃんとは対照的で、どちらかと言えば私の性格に近いものがある。


 だから、由美には心の奥底にあるモノまで全部うち明けることができる。私が何を言っても、由美ならそれを全部受け止めてくれるからだ。


 みっちゃんは、私が変なことを言えば、ためらいなく文句を言うだろう。もちろん、悪気があってのことじゃない。私とみっちゃんの関係だからこそ、言える事でもあるのだ。その証拠に、今までみっちゃんに言わなかったことは何もない。


 みっちゃんは、私にとって大切な友達の一人だ。


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