第5話 ディナー

前菜から主菜までさすがは一流ホテル

従業員の身のこなしも綺麗で無駄な動きが一つもない。


俺みたいな短期間宿泊でもこんな可愛いお世話係さんをつけてくれて感謝する。

というかこの子αだよな?


生まれつき童顔なのか、幼い顔をしている。


「澤田様、料理は口にあいましたでしょうか?」


「うん、おいしいよ」


目の前に出されたのはシャーベットだった。

「お口直しにどうぞ」


「ありがとう」

口に含むと柚子の香りが広がり、さきほど口にした、にんにくのきいたお肉の残りを和らげた。


「そうだ!」

というと、こちらを振り向き


「なんでしょうか?」

優しい表情がこちらを向いた。


「柊さんの特技ってなに?」


「そうですね、澤田様、ワインはお好きですか?」

「ワインは甘くてほんのり辛いのが好き」


「かしこまりました、少しお待ちください」

部屋から出て行ってしまった。


まぁワインを取りに行ったのだろうと思い、待っていると


「お待たせしました」

と帰ってきた。


4種類ほどワインボトルを持っている。


「では、白ワインと赤ワインどちらがお好きですか?」


「んー今お肉食べたので赤がいいかな」

「かしこまりました」


ん? なにしてるんだ?


コポコポとワインをブレンドしている。

もしかしてバーテンダーさん?


ブレンドされた一杯を目の前に出された。

「俺、味にはうるさいよ」

と皮肉な言葉をいうと


「お口にあいますと嬉しいです」

と返ってきた。

作り笑顔だが癒しだ。



こくっと飲み込むと

まるでぶどう畑に迷い込んだ子犬のように駆け巡った、と思ったらピリッと崖から落ちそうになった。


なんだこのブレンド、飲んだことがないこんなパワフルなワイン

ばっと顔を見ると、子犬の様な顔でこちらを見ている。


「これ気に入ったかも」

「お口にあいよかったです」


「悪いがもう1杯いただけるか?」

さすがに同じブレンドはできないだろうと少し意地悪をしてみた。


「かしこまりました」

こくっと飲む、同じ味だ…。


「澤田様、もしよろしければこちらご購入されますか?」


「実は私がブレンドしたワインをお気に召したお客様がワインボトルで持ち帰りたいと仰ってからそのようなサービスを行っているのですが」


「ぜ…ぜひ」

「かしこまりました」


コポコポとワインが混ざり、1本のボトルが出来上がった。

「部屋に置いておきます」


こんな逸材見たことがない。

全国各地、いやフランスで探してもいないと思う。


「もしよろしければ29階のバーにお越しください。水曜日限定にはなってしまいますが私も夜18時~24時まではいますので」


「そうなのか、って水曜日は俺の世話はしてくれないのか?」


「はい、申し訳ございませんが…」

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