月姫、天翔するの事(その一)
「私が……天界から『
「かぐや姫」の告白に、金平だけでなく
「私は……
「かぐや姫」の恐るべき罪の告白を、一同は固唾を飲んで聞き続ける。
「あとわずかのところでヴィシュヌ神に阻まれ、その首を切り落とされた私でしたが、その時にはもう私は
「もういい……!そんな事、わざわざ口にする事ぁねえ!そんな事……俺は……」
堪り兼ねて金平が叫ぶ。これ以上聞きたくはなかった。これ以上彼女の罪の告白を聞いたところで何になるというのだ。
「いいえ……これは皆様にもぜひ聞いていただきたい事。私の罪を、私の醜さをご理解いただいた上で、それでもなお私の願いを聞き届けてくださるか、これは私にとって最後の試練なのです」
「だけど!だけどよお……」
「金平……」
歯が折れんばかりに食いしばりながら固く拳を握る金平に、目を閉じた頼義がそっと自分の手を金平の拳に添える。
「お前……」
「金平、聞いてあげて。彼女の言葉を……!」
「…………」
「姫よ、話の続きを」
頼義の促しに「かぐや姫」は謝意を述べつつ話を続ける。
「次の千年、私たちはひたすら嘆き続けた。流した涙が
姫が金平を見つめながら言った。
「
「そ、それが……『かぐや姫』の前世の契り……!では、世界中に広まる
「そう、その全てが私。だから、生まれ、生まれ、生まれ、生まれて生の始まりに
「……空海聖人は、高野山であなたを見つけたのですね、
「はい……」
「それが『竹取の翁とかぐや姫』の伝説として語り継がれるようになった。いや、『竹取物語』自体が空海聖人の著作だったのかもしれない!?」
影道の独り言のような仮説に「かぐや姫」は沈黙して答えない。それはそうだろう、『竹取物語』が書かれ、世間に広まる頃、彼女はずっと眠りについていたのだから、その起源を彼女が知る由もない。
「そうか、
「そんな事はどうでもいい!!どうでもいいんだよくだらねえ!!」
影道の言葉を遮って金平が怒鳴った。
「過去の罪だか贖罪だか知らねえが、いや知るかそんなモン、犬にでも食わせやがれってんだ。そんなくだらねえ因果に引きずられて生きる必要なんてお前には
「金平……」
「いやいやいや、金ちゃん今の話ちゃんと聞いてましたか?彼女は過去の罪を償うために因果に組み込まれて転生を繰り返しているんですよ、私たちがどうこう言える筋合いじゃ……」
「うるせえっ、俺はバカだから前世の因縁だか宿業だかなんざ知ったこっちゃねえ。俺は、過去の罪のせいで今いるお前が幸せになっちゃいけねえって言う理屈が気に食わねえんだよ!ふざけんな、そんな神様なんざ俺がぶっ飛ばしてやらあ、俺は……今のお前に幸せになってもらいてえんだ!!」
「……」
「俺は……それだけ、なんだ……それだけ……」
そこまで言い切ると、金平はもうそれ以上何も言葉が出なかった。仁王立ちになって真っ直ぐに
「ありがとう、
「かぐや姫」が、いや
「私の事を人間として、人の子として愛し、慈しんでくださった方がいる……その思い出だけで私は十分に満たされております。この数千年に渡る呪いと贖罪の輪廻も何を恐れることやありましょう。ですから
「……どうあっても、お前は
「はい。私は
「お前……!?身体が……」
涙ながらに語る彼女の全身が、今再びあの金色の光に包まれていく。光の粒子はゆっくりと天を舞い、後ろにそびえる
「道を開きし者よ、源氏の子よ。どうか、お願いします……私を、『彼方』へ……!」
その言葉に金平は振り向く。背後にいた頼義は七星剣をかざして一心に
「テメエ、何やってやがんだ!?やめろ、こいつは……」
「だめ、金ちゃん!!」
頼義を止めようとする金平の巨体に影道仙が子猫のように引っ付いて遮った。
「行かせてあげて、
影道の説得に金平もそれ以上暴れることができない。頼義は静かに告げる。
「『彼方』でのお迎えは『八幡神』が致しまする。現世からのお送りはこの頼義がお引き受け申す。術式はすでに『彼方』より啓示を受けているゆえご安心召されよ。どうか……心安らかにあれ……かぐや姫!」
それでもなお必死になってなんとか頼義を止めようとする金平の動きが止まった。彼を押さえ込もうと力の限りに抱きついていた影道仙も動きを止めて、金平と同じく虚空を見上げて呆然としている。
頼義の叫びが天に轟く。
その声が静まると同時に、金平たちの視線の先にある空に、今宵の空にあるはずのない「満月」が、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます