八幡神逆落としの事
「馬鹿野郎、簡単に挑発に乗るんじゃねえ、こっちから打って出て戦力を分散させてみろ、相手の思うツボじゃねえか。あっちがどういう理由でこっちを攻めくるかは知らねえが、長期戦になりゃあ不利になるのはあちらさんだ。ここは亀よろしく手足引っ込めて動勢を伺うのが得策よ」
そんな恐慌状態に陥った
「ふん、篝火を消して灯りを最小限に止めたか。さあ連中どう出るかな?こちらに攻めにくるもよし、下の本隊を攻めるもよし、そのまま籠城するもよし。ふふ、こちらを攻めれば下から本隊が押し寄せる。下を攻めればその時はこちらが逆落としで一気に砦を抜くまでよ。籠城するなら……その間に下の村々をごっそり蹂躙するとしようか。
頼義の姿をした「
「ところで、何でお主はわざわざこんな所にまでノコノコついてきたのだ?女子供が来て見て楽しい場でもあるまい」
「八幡神」が青白く光る瞳で、なぜか自分について来た彼女を見つめた。影道はその妖しさに吸い込まれるような気分になりながらそれでも平然と正気を保って答えた。
「そうですねー、そりゃまあ金ちゃんも
「心配?たかが方術士ふぜいが『神』の身を案じるなぞ笑い草だわ」
「ちがいますー、頼義さまは暫定ご主人さまで、
「…………」
あまりにその答えが予想外だったのか、「八幡神」は一瞬あっけに取られた顔をしたが、やがて
「いつから
「今からです」
自分で言っておきながらなぜか照れ顔で真っ赤になる影道を見て、「八幡神」は今度は皮肉抜きに心の底から笑い声を上げた。
「なんですかそのカカタイショウぶりは、友達の心配するのがそんなにおかしいですかブーブー」
「いやすまんすまん、笑って悪かった。そうか、そういうふうに言ってくれる人間がおるのだな、この娘にも……そうか、それは良かった……」
急に「八幡神」が真顔になってしみじみとした表情になる。
「うむ、では心配してくれる友のためにもここは一丁こちらから仕掛けるとするかな。
そう言って「八幡神」は立ち上がる。
「って、一体なにをするんですか?」
「こちらから打って出る」
「はあ?」
「あちらの様子をのんびり眺めていてはラチがあかぬからな。そうともなればこちらから動いてサッサとカタをつけてしまおう。あやつらに少し痛い目に見てもらい、小僧と
「いやいやいや、なに言ってるんですか?打って出るって、コッチはハチマンさまと私の
影道が白々しい涙目で慌てたそぶりを見せる。そもそも攻城戦において戦力を二分するなど愚の骨頂である。物量で押し切らねば堅牢な砦は落とせない。なので今回「
結局下手な人数で行くよりは「八幡神」単独で行動したほうが早いという結論にいたり、今ここにこうして「八幡神」と影道の二人で砦の陸奥軍の気を引くべく奮闘していたのである。単身だった故に頂上への到達も敵に気づかれる事なく素早く済み、ここまでの所は無事作戦通りに進んでいる。
それも「八幡神」という超常の破壊力を持つ神威があってこその陽動である。ところが「八幡神」はさらに攻め入ると言う。こちらからたった二人で関を落とすなぞ正気の沙汰では無い。
「何を言うか。お前がついてきてくれたからこその攻勢ではないか。大陰陽師
「ええー、そこでその切り札を使いますかフツー?そんなこと言われたらポンちゃん本気出しちゃいますよう?」
「おう、存分にその魔導の力を見せつけてやるがいい。というわけで後詰めは任せたぞ」
そう言うや否や頼義……「八幡神」は切り立った岩肌を駆け下り、勿来関目掛けて真っ逆さまに飛び込んでいった。
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