丹生都姫(にうつひめ)、目を覚まさずの事
ひとまず危機は去ったということで、頼義たち「鬼狩り紅蓮隊」一行に思わぬ休息の時が訪れた。またいつ「
「次会うときは『山の佐伯』たちと共の来る。アイツらもまた立つ時なんだと思う」
経範少年はそう言い残して一人筑波山麓を目指して去って行った。可能性は低いかもしれぬが、あれだけの不可思議な魔術を使う「山の佐伯」たちの協力を仰ぐことができるならばこの上ない頼もしい助力ではある。
「沙汰が決まるまで手元において監視しとくんじゃなかったのかい?」
金平が皮肉交じりに頼義に言う。
「今は一人でも有用な手勢が欲しい。朝令暮改のようで我ながら手際の悪さを実感していますが致し方ありません。万が一経範どのが逃走して罪を償わないようであれば私もその責を負って腹を切りましょう。あ、もちろん腹心の配下であるお前もとうぜん追腹を切る事になりますからね」
「えっ!?」
「だからそうならないようにもし彼が二心を抱いた時は死ぬ気で追いかけてくださいね、うふっ」
「……はあ」
珍しく頼義が金平に意地悪だ。
国府に戻った頼義たちはそれぞれに独自の判断で行動を起こしていた。常陸介頼信の許可をもらって
同時に彼女は式神と呼ばれる使い魔を頻繁に飛ばして師匠である大陰陽師
頼義は父頼信に「悪路王」に関する報告をした後、父を助けて国軍の配備や「悪路王の再来襲に対する備えの手配に奔走している。
残された金平はというと、別段何をするでもなく、日がな一日
本来ならば手慣れた女房などに任せておきたいところだったが、なぜか
今も
今回の騒動が収まったら、この子の処遇はどうするべきなのか。それは金平にもわからない。まさか自分が引き取って育てるわけにもいくまい。自分のような人間の元で育てば、その先に待つのは「鬼狩り」としての修羅の人生だけだ。そんな思いをこの子に押し付けるわけにもいくまい。だから、これ以上情が移らぬうちになんとか……
「
金平は背中の少女に声をかける。返事が無い。まだ良く寝ているのか、いや……
金平はその時初めて
「おい、
金平がいくら呼びかけても体を揺すっても彼女は目を覚まさない。まさか……!?金平は慌てて彼女の口元に耳を寄せる。幸い息はしている。だがひどく浅い。身体もまるで水を浴びたように冷え切っている。金平は
金平は
「くそ。つ!!なんで俺は……そんなことにも気づかなかった!?」
自分自身に悪態をつきながら金平は医師を求めて走った。だが医師に見せたところでどうなる?普通の子供ならいざ知らず、医師に不死の仙薬の化身であるこの子を治療できるのか?考えれば考えるだけ不安の種は増すばかりだった。そんな焦りを振り払うように金平は全速力で駆け込み、
「きゃーっ!!」
中にいた医師らしき白衣の人物が子猫のような悲鳴をあげて飛び出して行った。
「あ、おっおい!!患者だ、子供が病気なんだって、おい、なんで逃げやがんだよコラ、戻って来いや殺すぞこの野郎!!」
殺すぞと脅されて戻ってくる人間もおるまい。金平は
「ほいほいほい、なんじゃいお若いの、お子がご病気かな」
逃げた若い医師と入れ替わるように髭面の老人が部屋にひょっこりと入ってきた。
「お隣で大声をあげる者がおるかと思って見てみればありゃまあこりゃあ立派な御仁で。いかがされたかな」
髭まみれの老人は黒目がちな目をクリクリと動かしながら金平と
「子供の方だ。あんた医者か!?急にぐったりとして動かねえ。いや、どこが悪いってわけじゃあねえんだがとにかく弱ってるんだ、なんとかしてやってくれ!!」
おやおや、と言いながら老人は少女を引き取ると寝台に寝かせ、額に手を当ててふーむと何やら深く考え事をしているような仕草をする。
「いかんなこれは。実にいかん、大変まずい」
「!?」
老人が金平に背を向けたままつぶやいた。
「このままではこの少女は明日にでも動かなくなるであろう。由々しき事じゃ」
「な、なんだと!?どうすりゃあいいんだ!?」
「さて困ったのう、ここでは対処してやれんわい」
「ど、どこならできる!?どこに連れて行けばいいんだ!?」
慌てた金平は声を枯らすような大声で老人に詰め寄った。
「そうさなあ、さしあたり……」
そう言いながら老人が振り返る。
「陸奥までご同行願うというのはいかがかな、坂田金平、鬼狩りの武者よ」
老人……
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