悪路王、沈黙するの事
「あのガキんちょめ……」
金平が頼義の姿を見ながら毒づいた。彼女の全身が青白い燐光に包まれていく。
「……!?これは、一体!?」
頼義の尋常ではない超自然的な姿を初めて目の当たりにして
「おおっ、あれこそが……なるほど興味深い。その力が
まるで他人事のようにその様を眺める陰陽師とは裏腹に、「
「にゃあ、襟首を摘むなオレは猫じゃない!っていうかなんだアイツは!?こんなのセーメーからは聞いてねえぞ!」
「話は後だ、いいからずらかるぞ!!うかうかしてたら巻き添えくらっちまう!!」
「!?」
金平の様子に経範ももわけがわからぬまま巨人の足元から走り出した。ギシギシと巨人の身体が音を立てて冷え固まった表面の岩盤を落とす。悪路王は再び動き始めようとしていた。
「神の
頼義が
「
「おおっ!!」
光の矢は寸分違わず悪路王の顔のない顔面を貫き、
「止まった……?やった、のか?」
振り返った金平は動かなくなった悪路王を見上げる。溶岩の巨人は今は音一つ出すこともなく、四つの手足を利根川の内海につけている。
「いやいやいや。これはこれは素晴らしい。噂に名高き『
安全な場所で見物していた影道仙がノコノコと調子良く悪路王の立つ海岸線までやって来て、拍手をしながら言った。
「八幡神……?」
佐伯経範が訝しげな顔で聞き返す。
「いかにも、源氏の守護聖霊たる『八幡大菩薩』をその身に降ろし、超常の神力をこの世に顕現させる神秘の技、このポンちゃんも初めてお目にかかりましたが、いやいやいや大したものですね〜。さすが我がお師匠様、いい仕事しておられる」
影道仙が物騒な事を言った。
「ああ?今なんつったテメエ?」
金平が陰陽師の言葉を聞き捉えて彼女に詰め寄って脅すように言う。影道仙はきょとんとした顔で答えた。
「おや、ご存知でなかった?彼女があのようなお身体になったご事情を」
「……!?テメエに、あいつの何がわかるってんだよ!?」
「いやいやいや、
「アレも……晴明のクソジジイの差し金だったって事かよ!?」
金平が影道仙の襟を掴んで凄む。
「なーにをそんなに騒ぐんですか。そもそもお師匠様が手を施さねば頼義どのはあのまま『鬼』になってしまう所だったんですから、感謝しこそすれ、このような扱いをするいわれはないでしょう。まったく、ポンちゃん怒り心頭激おこぷんぷんですぞ」
影道仙がふざけているのか挑発しているのかわからない態度で金平に反論する。それを言われては金平もそれ以上詰め寄りようもないのだが、それでもどうにも胸の内に収まりきれない憤懣を抑えられないでいた。
「そうその娘を責めるな。別段陰陽師どのに非があるわけで無かろう。いい迷惑だろうて可哀想に」
そう冷ややかに皮肉交じりの言葉を発しながら「彼女」はふわりと金平の前に降りて来た。
「テメエ……俺の前に顔を出すんじゃねえ、何度言ったらわかるんだこの野郎!!」
金平が頼義に向かって睨みつけながら怒鳴った。頼義の方は涼しい顔で金平の怒声を聞き流す。
「まったく。お前の方こそ何度説明したら理解するのだ
「な!?おま、この……!!」
顔を真っ赤にして口ごもる金平に向かって、頼義の中に顕現した「八幡神」ニヤリと悪戯っ子のような笑みを見せた。
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