頼義、徐福について語るの事
「
頼義の問いに「山の佐伯」たちは答えない。鬱蒼とした「森」の中に重苦しい霧が立ち込めるだけである。
「いかがした、答えよ山の佐伯よ!!」
「無駄だよ、これ以上はもう答えないだろ。なんせコイツらは
「はあ?眠たがりって、なんだよコイツら人と話しながら眠りこけちまったっていうのか!?ンなアホな話があるか出てこいよコラ顔|見せやがれ!」
金平が怒ってそこらじゅうの木々に向かって隠れているであろう「彼ら」に悪態をつく。経範はそんな金平を冷ややかに眺めながら、
「そのために彼らの真意をアンタらに取り継ぐためにわざわざオレがこうして来てやったたんだ。あいつらはな、まあ何と言うか
経範がそう説明するが、金平にはどうにも腑に落ちない。
「経範どのと申されましたね、あなたは本当は『佐伯』の民では無いのではありませんか?」
頼義の問いに佐伯経範はうなずく。
「へえ、よくわかったな。オレの本名は『
「藤原秀郷……
眼前にいる少年の意外な出自に頼義も金平も驚いた。なるほど身なりこそ当世風らしからぬいでたちではあったが、その顔つきは確かに倭人のそれであった。俵藤太こと藤原秀郷公は言うまでもなく承平の乱においてあの
「佐伯」とは本来はこの地方に古くから根付いていた土着の豪族たちを示す呼び名であったらしく、「常陸国風土記」にも「
「佐伯」の一族は「まつろわぬ民」の中でも比較的朝廷に対し友好的であったらしい。それでも彼らと積極的に縁を結んだのは経範の一族くらいのものだったという。そのため、地元の民たちも「佐伯」という民がどのような姿で、どのような風習を持っているものなのかを知っている者はほとんどいないまま現在まで至っている。
「彼らはあまり積極的に人間と……いや倭人と関わり合いを持ちたがらない。あまりにも風習が違いすぎるのでな。そこでその橋渡し役として我が一族がこうして骨を折っておるわけなんだけど、まあそれでも今回のような
「悪路王を止めるために……!?それが、経範どのの一族が負った『使命』だと?」
「そうだ。そのために我が一族は都への望郷を捨て、この地に……」
「おうおうおう、それなんだけどよう、お前らさっきからソイツの事を知ってる前提で話を進めてるけどよう、そもそもその『徐福』ってのは
金平が二人の長話についていけず、とうとう口を挟んだ。
「…………」
「…………」
「……あ、そこからか」
頼義が今更のように言う。
「悪かったな!!どうせ俺はロクに書も読まねえ勉強もしねえ無知で愚かな
金平は子供のようにふてくされて草むらに転がり回る。頼義は拗ねる金平をハイハイとなだめながら「徐福」という人物についての説明を始めた。
歴史上、広大な中国大陸において初めて
だがそれでも満足のいかぬ皇帝は「徐福」という方術士を招き、伝説にある不老不死の仙薬を手に入れるために「
命令を受けた徐福は三千人の童子童女、多くの職工を率い、また金銀財宝や五穀の種籾を携えて「蓬莱山」を目指して出航したのだという。
「ふんふん、それでその徐福ってオッサンは手に入れたのかよ、不老不死の仙薬とやらは」
金平が耳をほじくりながら言う。あんなに大人気ない態度で説明を求めたくせにまるで興味なさげな態度である。
「それはわからないわ。でも徐福は少なくとも『蓬莱山』には辿り着いたと言われているの。それは各地に残る言い伝えがそれを示している」
「あん?どういうこった?」
金平がキョトンとした顔をする。頼義は笑って、
「わからない?この国が……
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