顔が良い皮肉屋の男と不思議な美少女とちょっとダークなファンタジー

野良ねこ

第1話 開幕の鐘はエールと共に。

「ギャー」


片手に持った剣で放った一撃が胸元を裂くとゴブリンは悲鳴をあげて倒れた。

倒れてすぐは身体がビクビクと動いていたが次第に動かなくなり、またたくまに全身は灰となり風に飛ばされていった、身体があった場所にゴブリンが身に着けていたぼろの腰巻に棒切れと小さな虹石が残された。


「…ふぅ、これで依頼は完了か。」


洞窟内を見渡し倒し残しが無いかを確認すると俺は剣を鞘に納め落ちている小さな虹石を拾い、腰に付けた小袋に入れてその場を後にした。


アイランド王国、建国から900年近くになるこの国は積極的な外交で隣国とは良好な関係を気付いており、国と国とに挟まれていることから中継地として物流が盛んで人の動きの絶えない国だ、領土自体はそこまで大きくはない。


衛兵の立つ門を通ると夕方で大通りは人で溢れていた、夕方のこの時間は仕事帰りの人間、行商人や帰宅中の子どもたちで賑やかになる。


俺は大通りを入るとすぐ細い路地へと移った、大通りの喧騒を背に家が立ち並ぶ路地の更に奥へ行くと途端に廃墟やぼろ家が増え始め、道路の脇には路上に座り込む汚れた服を着た子どもや何もない場所を指さし笑っている老人などが現れる薄暗い場所にたどり着いた、その中に明らかに雰囲気の違う大きな建物あり、そこへと入っていった。


「邪魔するぞ」


「これはこれはアイルさん、もうお仕事終わりですか。」


「ああ、洞窟には5匹しか居なかったがあれだけで大丈夫なのか?」


「ええ問題ありません、対した数では無かったので新人に回そうかとも思ったのですがあそこらへんは少し地形が危なかったので身軽な方に任せようと思いましてね、お疲れ様です。」


中に入り声をかけると暗い眼をした表情の読めない男は答えた、この組織からの仕事は何度か受けたことがあるが未だにこの男の名前を知らない、聞こうとも思わないが。


「ああ、お疲れさん、拾った虹石は貰っていくぞ」


「構いません、それではこちらで依頼完了の印を押しておきます」


「分かった、じゃあ帰るから報酬は今度また取りに来るよ」


「あれ、もう帰られるんですか?今日は他の客もいらっしゃるのでアイルさんも飲んで行きましょうよ」


「今日はルタールで飲むから遠慮しておくよ」


そう言って軽く手を振り建物を出た、大通りを脇にそれて奥の更に奥にあるこの地域はスラム街となっており、表の華やかさから一変暗くよどんだ空気となる。

その中で明らかに綺麗で大きなこの建物の主人がどう言う人物なのかはあまり考えないほうが良いだろう、仕事さえ貰えるのならいいのだ。


泥や汚物などのすえた匂いのするスラム街から民家の並ぶ住宅街を結ぶ道に目的のルタールはあった、ドアを開けると夕暮れが過ぎ暗くなった外とは違う人工的な光と喧騒があふれ出てき、少し顔をしかめた。


「いらっしゃい、おお!アイルか!今日は早いじゃねぇか!」


いつものカウンターに座ると奥で常連客と話していたオームドがこちらに来た、彼はルタールの店主で腹もデカければ声も顔もデカい大男だ。


「よぉ、一杯目だけ付き合えよオームド、どうせまだそこまで忙しくはないだろ」


「忙しくないとは耳がいてぇじゃねぇか、これでも最近は繁盛してきて従業員雇い始めたくらいなんだぞ。」


そういってカウンター内に戻ったオームドはエールを注ぎ始めた、開店間もない時間のエールは良く冷えており空気になじむ前なので匂いもまた別格なのだ、オームドはエールを入れたジョッキを二つ持って正面まで来て、渡されたジョッキを掲げると互いに杯を合わせた。


会話をしながら一杯目を飲み切ったタイミングでドアベルが鳴って斜め後ろにあるドアから人が入って来て視線を移した、従業員のリズだ。


「おはようございまーす!まだぜーんぜんお客さん来てないですねオームドさん、あれ?アイルさんじゃないですか!最初から居るなんて珍しいですね、そんなに私

が恋しかったんですか?」


「そんなわけないだろ、速く着替えて準備してこい」


「おうリズ、まだ客入りは殆どねぇからそのままちょっとアイルの相手してやれ、こいつが寂しがってて仕込みが進まねぇんだ」


「分かりました~寂しい寂しいアイムさんの話し相手になってあげますね!」


「寂しがってねぇよ…」


俺の声は無視されオームドは厨房へと戻っていき、リズはそのままカウンターに入って来て二人分のエールをジョッキに注ぎ始めた、リズはオームドの娘であり最近

ここで従業員兼お手伝いとして出入りしはじめている。


ジョッキを持つ手は白く透明で、細い指からは女性特有の色気を感じる。

オームドの子どもとは思えないほどにスタイルが良い美人で、垂れ目気味の優しい眼から短めな茶色の髪を後ろで縛っている、親のガタイの良さをすべて胸に吸収したかのような大きな物を持っており、最近この酒場が繁盛しだした理由は説明の必要も無いだろう。


渡されたエールを持つとリズが杯を合わせてきた。


「乾杯、結局今日はどうしたの?普段なら人が減り始めた夜中にふらっと現れるのに、ついに仕事無くなった?」


「逆だ逆、仕事が終わったからそのまま来たんだよ、スラム街にあるリーリエ商会からの帰りだ」


「え!リーリエ商会ってスラム街にあるあのリーリエ商会!」


「いやだからそうだって言ってるだろ」


「あそこって相当ろくでもないって聞くけどアイルは大丈夫なの?いくら何でも屋だからって取引相手くらいは選ばないと危ないよ」


「金さえきっちり払ってくれるならかまわない」


「旦那の仕事は安全安定がいいな~私」


「誰が旦那だ」


先ほど訪れた建物は表向きはリーリエ商会と言ってよそから流れてきたものを売り買いして設けている、ただし扱っているものは食べ物や金品だけではなく非合法なものまであると噂されている。店主のリーリエはあまり表に出てこないがかなりの切れ者らしい


「リズは最近料理の方はどうだ」


「あははーいやーあはーこれまた全然で…いや、頑張ってるんだよ!でも親父みたいに細かいことするの苦手なんだよね、あの図体でなんであんなに動けるんだろう」


「聞こえてるぞ!お前だって俺の血を継いでんだからやりゃ出来るんだしさっさと覚えて楽させてくれ」


調理室からオームドの声が聞こえた。


「まぁがんばれ、酒のましときゃ味なんて気にしなくなるしな」


「うぬぬ…そのうち習得してぎゃふんと言わせてやる…」


「おう、楽しみにしておくよ、そういえば―――」


その瞬間バン!という音と共にルタールの扉が開き、一人の男が転がり込んできた。


男は必死に店内を見回し俺と目が合った瞬間声をかけながら近寄ってきた、何処かで見た顔かと思ったらリーリエの受付に居た暗い眼をした無表情の男だった。


「アイルさん!アイルさん!まずいです!今すぐルタールに来てください!」


「どうしたいきなり」


「いきなりじゃないですよ何やってくれたんですか!面倒くさいもの持ち込みやがりまして!」


「何のことだ?」


「何って洞窟で女の子捨てて来たでしょうが!」


「は?」


「えええええええええ!!!」


俺の疑問の声とリズの驚愕の声が同時に響き渡った。

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