第42話 スライムはスライムでしかなく、やはりスライムなのか?(その1)
数日後、雫斗は無事”トオルハンマー”を手にする事が出来た。元の大ハンマーからはだいぶ様変わりしていてほとんど作り直されていた、値段もそこそこしたが無事支払う事が出来た。
なぜ支払う事が出来たかというと、ダンジョンカードの収納機能を発見した事への報奨金が振り込まれて居た為だ、しかもかなりの大金で引いてしまったが、しかし収納を使ってのパフォーマンスの分は含まれて居ないらしく、まだまだ増えそうだと恐ろしい事を悠美母さんから聞かされた。
”チームSDS”の他のメンバーにしても報奨金の多さにかなり驚愕していたが、一人だけ素直に「これで刀を打ってもらえる」と喜んでいた。百花がせっせっと金策に励んでいたのは武器の調達資金のためだった、これで少しは落ち着くかと思ったが、いつにも増してダンジョンでの鍛錬と魔物の討伐に励み始めた。
雫斗は相変わらずスライムの討伐に余念がない、最近では時間の許す限り倒していた。新調したトオルハンマーの使い勝手はすこぶる良い、中間の重りの移動でハンマーヘッドの威力の加減が出来るのが斬新ではあるが、今までよりも倍の威力に感じる。
変わった事といえば、カード収納の覚醒の事が探索者協会の発表前に週刊誌にばれた。誰かからのタレコミらしいのだ。探索者協会の職員なのか、ダンジョン庁の上役なのかは分からないが、かなりの騒ぎとなった。
当然発見者は誰か? とマスコミの連日の情報開示の要求に未成年であることを理由に隠し通した、したがって雑賀村はいたって平和である。しかし世間では混乱が生じた、”スライムバスタ”の制作が間に合わず協会は苦し紛れに、本来は数日懸けて徐々に力をつけていき、それからスライムを50匹倒すのが本来のやり方だと、ハンマーなどの鈍器でのスライム討伐を奨励した。
自力のある深層を探索している人たちが、いとも簡単にスライムを倒してダンジョンカードの収納を開放するのを見て、それなら自分たちもと挑戦する人が増えて、事なきを得たが、暫く雫斗は発見者としてハラハラする日を送っていたのだった。
もう一つ起こったことは、スライムを倒す花火を、ほかの製作所数社が製造に名乗りを上げたのだ。色々なネーミングが乱立しそうになったので協会が規制を掛けた、最初の花火製作所を入れて5社に限定したのには訳がある。収納を覚醒させると探索者はスライムを倒すことが無くなると協会が予測した為だ、いくら倒してもうまみの無いスライムを倒し続ける探索者は確かにいなさそうだった。
雫斗達にしても,花火は使わずに収納の攻撃力で倒しているのだから、その収納を使った投擲や打撃が広まると、花火を使う必要が無くなる。ただ最初の会社との商標権の書類と同じものに名前を書くとき、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。需要は有るけれどそれほど必要でもないものを作らなければいけないとは、気の毒に思えたのだ。
今雫斗達はホームダンジョンを沼ダンジョンに変えている、無いとは思うが週刊誌の記者の無茶な取材を避けるためと、村の人達からうるさいから鍛錬ならほかでやりなさいと釘を刺されたからだ。確かに採集している人達からしたら、近くで岩や壁に大きな音で物を投げているのは迷惑でしかないだろう。
今日も雫斗達は沼ダンジョンへと来ていた、入ダン手続きは村のダンジョン前受付で行う。それからここ迄走って来るのだ、準備運動には丁度いいランニングになった。沼ダンジョンも村のダンジョンと同じで入り口にゲートが有る、違いが有るとしたらゲートの中に緊急用の連絡装置が有るくらいだ。
ダンジョンに入ると弥生が雫斗に聞いてきた「またスライムを倒しに行くの?」。最近では百花も雫斗を3階層に誘わなくなっていた。
「もうすぐ10万匹の大台に乗るんだ、ここまで来たらとことん調べたいじゃないか?」と当然だと雫斗が言うと。
「そうね、雫斗がやりたい事をしたらいいわ、でもスライムはやっぱラスライムでしかないと思うわよ」と百花が呆れたように言う。
「分かっているよ何もなければ適当に切り上げるから」と雫斗は何とか気持ちを奮い立たせてそう言うと、”雫斗って結構頑固よね~”と言いながら百花達はそのまま、2階層へ降りる階段に向かって歩いて行った。
皆と別れた雫斗自身思い悩んでいた、今までスライムを倒し続けてきて何のリアクションも無いのだ、最初は何かのスライムの属性スキルとかが、発現するかも知れないと思っていていたのだが何もないのだ。確かに誰もスライムだけの討伐をする人がいないわけだ。
此の4カ月弱スライムだけを倒し続けて分かった事は、苦痛の連続だったと言う事だけだ。今ではスライムを一撃で倒せることが出来るようになったとはいっても、自分のスペック的に何の変化も自覚できないのだからなおさらである。
「取り敢えず、10万匹を目指して倒してみるか」と独り言を残してスライムを倒し始めた。スライムを倒すのに手馴れてきた雫斗は、収納の攻撃力を使うことなく、トオルハンマーの破壊力だけで倒していた。確かに雫斗自身ダンジョンでスライム相手にハンマーを叩き続けている為、力が付いたわけだがそれだけではない気がする、トオルハンマーにスライム特化のダメージが入っている気がするのだ。
1万匹を倒した前後で、いきなり変わったのだ。それは雫斗の感覚でしかない為なんとも言えないが、確かに手応えとして残っている。そしてもう一つは、スライムの気配がつかめるようになったのだ。スライムを一撃で倒している現在、一番の問題はスライムを探す事にある、広間に居るスライムを殲滅するのに、数分でこなしている今の雫斗には、移動の時間さえ煩わしいのだ。
ある日、広間を殲滅して移動して来た雫斗の感覚に、殲滅して来た数個先の広間のスライムがリポップした感覚があった。一瞬何の感覚なのか分からなかったが、それがスライムだと認識出来た瞬間その範囲に居るスライムが知覚できるようになったのだ。
その時は小躍りして喜んだ雫斗だったが、それ以外では何の成果も無いまま今に至っているのだ。しかし良い事も有った。そのころから広間のスライムを殲滅するのに5分とかからなくなっていた雫斗にとって、広間から広間への移動がネックになっていた。
当然通路としての洞窟を移動していくのだが、その長さが一定では無いのだ。無駄に長い洞窟も有れば短い洞窟もある、そこで雫斗は地図上で短い通路をひとまとめにしたユニットを設定して其処を回って効率化を図る事にした。
今では、高速で移動しながらの時間当たりの討伐数が400を超えているのだ、流石に動きっぱなしだと疲労がたまるので、時折休憩を兼ねて移動する時は歩いたりしているのだが。それでも最初の頃の時間当たりの討伐数と比べても段違いに良くなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます