メガネ萌えがメガネキャラを書こうと思った結果

水瀬 由良

メガネ萌えがメガネキャラを書こうと思った結果

 よし。

 私はパソコンに向かった。

 小説投稿サイトに登録して3カ月。読む専だった私はついに自分でも小説を書こうと決心し、題名を決め、あらすじも決めた。

 とりあえず、書くことが大事だと思った私は王道中の王道。異世界ファンタジー物。主人公は平凡な女の子。周りを取り巻くのは王子様、騎士団長や財務卿の息子。ライバルは公爵でもなんでもいいから、とにかく令嬢。少し考えただけでワクワクする。


 もちろん、剣と魔法の世界なので、魔法はかかせない。どんな魔法にしようか、王道をいくなら、光魔法だが、水魔法も捨てがたい。いやいや、少し変化球で風魔法でもいい。ただ、若干の変化球を交えるのであれば、最初から悪役令嬢物にした方がいいのだから、ここは王道でいこう。使える魔法が光魔法でも水魔法でも大きくは変わらない。治癒魔法が使えればいいのだ。


 そして、財務卿の息子にはメガネをかけさせる。

 これは必須だ。

 私はメガネ萌えなのだ。理知的な雰囲気のキャラが恥ずかし気にメガネを直しながら、ヒロインに向かって、『ありがとう』なんて言っちゃうのだ。

 

 ウホホホォォオォ。

 小説を書く時の楽しみとはまさにこれにある。

 私の私による私のための小説を書くのだ。

 そう。

 メガネ萌えのメガネ萌えによるメガネ萌えのための小説。


 さて、書くぞ!


 私はとにかくメガネキャラを書きたい一心で書き進める。ここで、メガネキャラ……と思ったところで、筆が止まってしまった。


 書きたいキャラは決まっているのだ。ところが、私はふとした疑問にぶちあたってしまったのだ。


 メガネって文明レベル的に大丈夫なのか?


 こう見えて私は時代的な裏づけは丁寧にして欲しいタイプだ。時代考証がおかしいとどうも入り込めない。異世界ファンタジーの世界とは概ね中世ヨーロッパぐらいの文明レベル。そのぐらいのレベルでメガネはあるのだろうか。


 私は気になってしまった。どうして、今まで気にならなかったのかが不思議なくらい気になってしまったのだ。メガネへの愛が私の目を曇らせていたのだろうか。

 「気にするな。そんなものを気にしてはメガネキャラは書けないぞ!」

という心の声も聞こえてきたが、無視するにしても知りたいと思ってしまった。


 えっと、メガネは……

 おおっ、ちゃんと10世紀ぐらいには登場しているのか、なら大丈夫と思ったのもつかの間、現在のメガネの形とは違って、手に持たなければならなかったらしく、現在で言うと虫メガネに近かったらしい。


 ……虫メガネを手に持つメガネキャラ。

 こんなの私の求めるメガネキャラではない!

 あってたまるか!


 えっと、今のメガネの形になったのは……17世紀頃……ちょっと遅いな。これで紐で耳にかけるタイプになって、さらに改良を加えたのは……

 ???

 次の瞬間、私は驚いた。

 え? 今の形にしたのは日本人による改良?

 もともとメガネには鼻あてはなく、使いづらかったそうだ。それを改良して、使いやすくしたのは日本人らしい。メガネの歴史の陰に日本人がいたとは意外な話だ。


 ふ~む。どうしたものか。

 17世紀となると、中世から近世の移行期かぁ。

 鼻あてがないと、メガネがずれるよなぁ……戦闘シーンでメガネがずれにずれまくるメガネキャラ。

 これも却下だ。


 かといって、これより時代を進めてしまうと、銃火器が出てくる時代になって、これもまたおかしい話になる。魔法、魔法があるから、余計にクールっぽさが増すんだ。これは譲れないぞ。


 私は逡巡したあげく、この問題を棚上げにすることにした。

 あれだけ普段、時代考証についてどうのこうの言っているのに、このていたらく。

 小説を丁寧に書くとはなんと難しいことか。


 でも、私にとってメガネキャラのキャラ設定は時代をも乗り越えさせるものなのだ。

 メガネ君、私は君が大好きなのだ。

 自分で作った自分のキャラにそう言いつつ、私は時代のことなど無視してメガネキャラを書き綴っていくのであった。

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