平和主義の魔王様は新人冒険者🧣!? ~最強で不死身の魔王ですが、成り上がりの勇者たちが弱いので死ねないのが悩みです。そうだ、旅に出て自分で最強勇者パーティを作ろう!~
ぬがちん
魔王の旅立ち編
第1話 魔王引退
ここは悪魔が住む仏魔殿。
絵に描いたような西洋建造物の内一番高い塔の一室。赤いクラシック模様の織柄カーテンに、ゴージャスな金のフレームが付いたソファなど部屋全体がゴシック調だ。
僕はこの世界の支配者、魔王イデオ=ロギア。早速だけど、僕から重大な発表がある。
「魔王飽きた。今日で引退する」
「待ってください魔王様!!!」
僕の覚悟に異を唱えるは、執事服が凛々しい側近のアズラエルだ。褐色肌に尖った耳、そして禍々しい魔力はダークエルフの特徴である。
「そんなバイト感覚で急に魔王を降りるなんて言わないでください!」
「アズラエルの言う通りです魔王!!!」
さらに図体のでかい騎士がアズラエルに同調する。
大柄な西洋甲冑を纏う純白の騎士は、まるで童話に出て来る英雄そのもの。
しかし、頭部は骸骨。
聖騎士を思わせてそれは壮大なフェイント。実際はアンデッドの髑髏男爵だ。
「あなたはこの王国に君臨する支配者だ! 辞めると言うなればそれ相応な理由を申され!!!」
理由を言ったらさらに納得してくれないと思うが、仕方ない。正直に言ってやろう。
「飽きたから」
「「子供みたいな理由っ!!!」」
だから言いなくなかったんだ。みなまで言わさず察してくれよ。
「納得できかねますぞ!」
髑髏男爵が猛烈に反論する。ヒートアップした時の君の顔は、骨格でも紅潮するんだよね。
「いいよね。君たちは死ねて」
「「!!!!」」
僕もつい熱くなったのかな。説得を忘れて感情的になっていた。
「五百年? いや、六百年かな。不老不死になってもう何百年も生き続けている。そして強すぎるがゆえに、名を上げる冒険者たちも僕を倒せない。……つまり僕は死ねないんだ。もう、疲れたよ」
つい部下に八つ当たり気味な口調になってしまった。
高ぶっていた髑髏男爵も口を閉ざしてしまう。
「これからどうするおつもりで?」
丸め込まれた髑髏男爵と違いアズラエルは食い下がった。
「旅に出る。僕を倒せる勇者パーティを自分で育てようと思うんだ。そしてその弟子に僕を殺させる」
「まさか! そんな……!」
「できるさ。僕が育てるんだから確実だ。この方法しかない」
アズラエルは視線を落として悲痛な表情をする。
「もう待てなんだよ。成り上がりの勇者に期待はしない。僕が勇者パーティを一から作る!」
「魔王軍はどうなるのです……?」
「解散だ。君たちも足を洗うといいよ。今からでもまともに生きるんだ」
「我らの罪は消えません! 各地で統治してる大幹部たちはどうなるのです!!?」
「もう支配活動を止めるように通告を。これから僕は勇者パーティを作るんだ。残党がいたらいずれ戦う事になるからね?」
命令無視をするなら戦争する。しかも一方的な殲滅。そんな強迫まがいな説得にとうとうアズラエルも折れた。
「君たちには感謝してる。今日までありがとう。でも……これで最後だ」
僕よりも先に死んでいく同胞をたくさん見てきた。
だからつい、お別れは冷たい態度になってしまうんだ。
「魔王。もはや止めやいたしませぬ。しかし、恐れながら一つだけ忠告を……」
アズラエルだ。君は懲りないね。
「なに?」
「あなた様が思ってるよりも下界の旅は過酷です。お忘れなきように……」
強迫には強迫かい? これで僕の覚悟を試してるなら愚問だ。
「わかってるよ」
忠実なる部下よ。君のお節介も筋金入りだね。
――この日、二十六万と千三百名の勇者の挑戦を終えた。
――この日、何百年も君臨していたイデオロギーが、魔王を退いた。
――この日、何百年も王国や近隣諸国を脅かしていた魔王軍が、魔王の命令で解体された。
――この日、奇しくも世界から闇の勢力は消えた。
そして、何百年も誰も叶えられなかった一応の平和が、【魔王引退】によって実現される事になる――
――盛大なる【魔王引退】から数か月後。
珍しく初雪が遅れている冬の朝だった。
魔王を引退すると、再び世界は人の手で復興が始まった。
それでも無法地帯が多くて治安は最悪と言える。
「着いた……」
魔王城を出発してからひた歩き、僕が辿り着いた場所は『はじまりの村』だ。
田畑が広がり、のどかな里に点在するは、三角形をした個性的な家屋。ここは平和の象徴だね。
「イフンケ村っていうのか。冒険者と言ったらまずはここからだよね」
冒険者なら誰しも通る足跡を、魔王の僕も辿る。
彼らが見て来たものを僕もこの目で見たい。
あっ。さっそく第一村人発見! 憧れてたんだよね。村人との交流。
「すみません……。少々、尋ねたいことがあるのですが」
「ん?」
村人の老父が目をひん剥いて、旅人である僕を確認してくる。
ここは好意的に愛想良くだ。
「あの……、この村に宿屋はありますか?」
出だしでつまずくわけにはいかない。
だが老父の見開いた目は血走っていく。わなわなと体を震わせて様子がおかしい。
すると、老父は振り返り村に向かってこう叫んだ。
「く、黒髪に長い白いマフラー、そして黒装束の少年……! ま、魔王がきたぞおおおおおおおおお!!!!!!」
えええええ!!? なぜ? こんなにも友好的じゃないか!
「違います! 僕はもう魔王じゃない!」
こうしてる間にも集落の家屋からは住人たちが外へ出てくる。
泣き喚く者、怯えるもの、逃げ惑う者、そして……対抗する者で入り乱れる。
「勘違いしないでください!!!」
まだ間に合うか。僕は精一杯の弁明をする。
「僕はここを拠点にするため宿屋をお借りにきまして……」
伝われ。僕の想いを……!!!
「きゃああ! ここを支配して女も財産も蹂躙しに来たみたいよ!!!!」
どこかの村娘がそう解釈した。
「助けて!」
「早く逃げるぞ!!!」
「王国軍かギルドへ連絡を……」
「馬鹿! 相手は魔王だぞ! 誰が戦ってくれるんだ!!!」
「消えろ外道!!!」
「お前にこの村も、誰一人の命とて奪わせやしない!!!」
ああ……。そう言う事かアズラエル。
僕の旅で過酷と言ったのは、君はこうなる事を心配してたんだね。
我らの罪は消えない。まさにその通りだったようだ。
「
平和主義の魔王様は新人冒険者🧣!? ~最強で不死身の魔王ですが、成り上がりの勇者たちが弱いので死ねないのが悩みです。そうだ、旅に出て自分で最強勇者パーティを作ろう!~ ぬがちん @ryo1412
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