第8話 いや1泊ですから

 いつき君がお皿を荒い、ワタシが拭くという謎のコンビネーションの後、リビングへ行き話し合いをした。


「樹君、キミはワタシの事を知っているようだ……それは認める。でも、今日初めて……いや、再会?よく分かんないけど、急に男の人を家に泊めるなんて怖いことだし、まして同棲なんて変でしょ?そういう事で、一泊したら明日帰って下さい」


 何故かワタシは、正座して頭を下げた。


雫玖しずくさん、ボクのこと男として見てくれるんだ?!嬉しいなぁ。分かったよ、明日不動産屋さんに行ってみるね」


 ヤケにアッサリと話し合いは終わった。

 明日は仕事だし早めに寝よう……用心しながら。


「ワタシお風呂入ってくるけど、絶対覗かないでよ?」


 バスタオルの間に下着を隠し、両手で抱えて樹君に警告した。若い男の人だ、油断は出来ない。


「覗かないよ、雫玖さんじゃあるまいし」


 くっ……言い返せない。


 ワタシは、モヤモヤしながらお風呂へ入った。


 怒涛のような今日を振り返りながら、超絶美少年の樹君が何者なのかを改めて考えた。


 しかし、今日は頭もカラダもヘトヘトなのだ。とりあえず今日は頭もカラダも休めよう。

 どうせ明日にはここを出て行くのだし。


 リビングへ戻ると樹君が居ない。

 え?帰った?それともトイレ?


 キャリーバッグは置いたままだし、トイレか。


 ワタシはスマートフォンの充電器を取りに、寝室へ入った。


 「え……?」


 ワ、ワタシのベッドに眠れる森の美少年……寝顔も超絶可愛い。


 いや、そうじゃない……


「ちょっと!なんでココで寝てるのよ!」


 ワタシの怒鳴り声に、樹君は不機嫌そうに半目を開いた。


「大きな声を出さないでよ。近所迷惑だよ、集合住宅マンションなんだから」


 何なのよ、その正論は?!


「とにかくキミはソファーで寝て!女の人の寝室に勝手に入るなんて失礼だよ!」


 樹君は「ハイ、ハイ」とムカつく返事をすると、|欠伸(あくび)をしながら寝室を出て行った。


 ったくもう。

 


 RRRRR……


 ため息を着くと同時に、伽椰子かやこからの着信。ワタシはビクビクしながらグリーンの通話マークをスワイプした。


『雫玖!その後どうだった?あのイケメン君をちゃんと追い払えた?』


「えっと……あの……彼は今、リビングに居ます」


 お風呂から上がったばかりなのに、ワタシは変な汗をかいていた。


『…………はぁあ?一体どういう事?彼が誰だか分かったって事?家に泊めるような男だったって事?』


 ワタシは洗いざらい伽椰子に話した。

 彼女はワタシを暗闇から救ってくれた人、生命いのちの恩人と言っても過言では無い。

 何時いつだってワタシの味方、ワタシ以上にワタシを想ってくれる大切な親友なんだ。


『キャハハッ、それマジ?ウケるんですけど?今度の休みにまた彼に会わせてよ!じゃ、またね〜おやすみ』


 ツーツーツー……


 えっと……お、面白がってる?

 てか、樹君には明日出て行ってもらうのですが……


 これから何が起こるのだろう?

 不安を抱えたまま……何故かグッスリ、たっぷりと深い眠りに落ちた。

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