見知らぬ美少年はワタシの婚約者らしいです

をりあゆうすけ

第1話 ワタシが婚約者?

 吐く息が白くなった。


 街はグリーンやレッドで飾り付けられ、やけにカップルが目立つ。


 この街の定番の待ち合わせ場所は、駅構内にある壁一面のステンドグラス前。

 まるで神聖な教会に居るような錯覚に陥る。


 「お待たせ」「うぅん、私も今来たとこ」と言うテンプレが何度も耳に入ってくる。


 麻宮雫玖ワタシの待ち人は女友達の伽椰子かやこ

 ワタシは恋人がいない。と言うか、いらない。

 決して強がりとかでは無く、男運の無さが男性を拒絶するのだ。


 つまるところ、経験が邪魔をするってやつ。



「お待たせ」


 またひとつ、男性の幸せに満ちた掛け声が後ろから聞こえる。


「お待たせってば……」


 どうやら彼女の方は待たされてムッとしているようだ。


「おー待ーたーせっ」


「え?」


 ワタシの背後から、ひとりの男性が顔を覗き込んで来た。


「あの、すみません……人違いでは?」


 ワタシは、愛想笑いで男性に視線を向けた。


 え?超絶美少年!

 カッコイイというか、可愛いというか……

 背はそんなに高くはけど、整った顔立ちでサラサラな栗毛、薄い唇に色気のあるひとえ瞼。              

 まるで韓国の俳優さんのよう……こりゃ彼女さんは自慢の彼氏だろう。


 美少年君は、少し不思議そうにワタシから視線を外さない。


「えっと?あの……だから人違い……」


 いや、待てよ……まさか新手のナンパか?!


 オバチャンだからとでも思われてる?

 それとも、着いて行ったら宗教に入信させられるパターンか?!

 このワタシを舐めるなよ、美少年君!


「人違い?……麻宮雫玖あさみやしずくさんでしょ?!」



 な、何ィ!何故なぜ名前を知っている?


 ワタシの心臓は、矢で射抜かれたようにドキッとした。


 まさか仕事関係の人?いや、遠い親戚にいたような……?

 兎に角とにかく知らん顔だ……失礼を承知で聞くしかない。


 「あのぉ……ごめんなさい。どちら様だったでしょうか?」


 ワタシは、ドキドキしながら引きった顔で口角を上げた。


「え?ボクのこと忘れたの?」


 謎の美少年君は、悲しそうな……そして、少しイラついた顔を見せた。


「雫玖さん、ひっどいなぁ……普通のこと忘れる?」


 片目をつぶり前髪をクシャッとした彼は、妙に色っぽくて少年とは思えない。


「こここ、婚約者?」


 ワタシは、開いた口が塞がらなかった。

 きっと今、ワタシは酷くブスな顔をしているに違いない。


 この瞬間から、美少年君カレとワタシの物語が始まるとは……この時は想像も出来なかった。

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