Psychology (朗読劇台本)
志水命言
『psychology』
人 物
僕(亡者)
鬼 神
歩く。歩いて、行く。その度に、地の底が抜け、地の底が抜け……。今、僕はどこを歩いているのだろう。見渡す限り真っ黒で、鼻を突くような生命を感じさせられる匂いがする。ここは土の中かもしれない。僕は歩くたびに地の底が抜けたのを思い出した。
僕は歩く。ただ前へ、前へ……!光は無い。目標も無い。何がそうさせるのか……ただ、足が前へ行くのだ。僕は何の疑問も不思議を持たず、その足を追いかけていた。変わらずに、地の底が抜け、地の底が抜け……。そして、瞳が閉じた。
・
黎明だろうか。眩い光がを開けさせた。誰かが……居る。
–––ようこそ、亡者様。
亡者(僕) ……な、なんなのだ?
鬼神 目覚めの悪い方ですね。
亡者(僕)(角が生えている・・・・・・某スクランブル交差点のハロウィン。いや、だった ら、なぜ僕は死装束なのだ。いつ着替えた? そして、このおぞましい空間が作り込まれ過ぎている。)
聞きたいのだが、ここは……どこなのだ?
鬼神 先程も言ったでしょう。ようこそ 地獄へ、亡者様。楽しい、愉しい地獄へ。
亡者(僕) いや、思ってないだろう、その 棒読みは……。
鬼神 楽しいですよ、地獄ライフ。
亡者(僕) それは、貴様自身が、だろう。僕 は死んでいないよ。帰ってもいいだろう?
鬼神 ……一先ず、歩きますか。
亡者(僕) ……。
鬼……鬼というより、成感が異常なため、鬼神だと直感した。僕は鬼神の後を歩く。反対に続く整地のされていない道を行けば、元居た場所に引き返せるかもしれないのに。
あの時と同じだ。僕は何の疑問も不思議を持たず、前へ行く僕の足を追いかけている。
僕は「死んでしまいたい」のだろうか。分かる。今、僕は「死」を目の当たりにしているということが。それなのに、まだ生きているという自覚がある。変な感じだ。……現世に居た時の記憶が何も思い出せないけれど。
鬼神 ……ま。亡者様。
亡者(僕) ……なんだ。
鬼神 亡者様。あちらの川が、かの有 名な三途の川になります。あちらにいらっしゃ る
亡者(僕) ……渡っては、だめだ。
鬼神 ……はい?
亡者(僕) 向こう側に行ってはいけない…… 気がする。……確か、三途の川を渡れば戻れ なくなる、だったな。それならば僕は、渡れ ない。
鬼神 ……そうですか。
・
目を覚ますと、そこは眠れる青い森の中。僕は、ナイフ片手に倒れていた。……そう。思い出した。僕は芸術を愛する、独りの画家だ。これまで僕の描いた絵画は否定され続けた。それから逃げるために、この場で命を絶とうとした。
知っている。生きてさえいれば、今の状況も何もかも変えられる。何とか出来ることも。だけれど、それすら信じられなくなって、死のうとしたんだ。
薄っすらと覚えている。「地獄」とやらを。僕は……臨死体験をしたのか。
僕 ……あははっ!描き続けてやろう、僕の世界を!
この眼で見たものしか描くことが出来ない僕にとって、これは無二の出来事だ。自傷より、自責より……清々しい。誰の代えが利かない僕だけの作品を、世界に穿ち続けよう。この生が続く限り––––。
・
その後、森も世界も、その画家の消息を知ることはありませんでした。知っているのは、あの世だけ……。
鬼神 ようこそ、亡者様。楽しい、愉しい地獄へ。 幕
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