メガネの男の逃走先

ヤミヲミルメ

第1話 メガネの男の逃走先

 親愛なる我が読者よ!

 梅本殺害の犯人でり、梅本の宝探しの仲間だった酒井が逃走した!


 梅本が調べていた鬼瓦は、中が空洞で宝を隠せるようになっていたが、宝はなかった。

 おそらく酒井が持ち去ったのだろう。


 酒井の顔の特徴は、島では珍しくメガネをかけていること。

 それ以外に特徴はない!

 島民は酒井をメガネで認識している!

 なぜならメガネ屋のないこの島では、メガネの着用者は酒井ただ一人だけだからだ!


 しかし今は島祭りの影響で、複数のメガネ着用者が島外から島に来ている。

 そして島民はすべてのメガネ着用者を酒井だと認識している。


 ゆえに酒井らしき人物の目撃情報が、島の六ヶ所から別々に届いているのだ。





目撃情報その1


 酒井の家の酒屋。

 慣れた場所に立てこもる気か?

 そういえば酒井は時限爆弾を作っていたな。




目撃情報その2


 フェリー乗り場。

 島外に逃げる気だな。

 私と大松のお嬢様が島に来るのに乗ったフェリーに、酒井は時限爆弾を仕掛けていたんだ。

 島と本土を行き来するフェリーは、一日に午前と午後の一便ずつ。

 たった一隻で近隣の複数の島々と本土を結ぶ大切な船に、ひどいことをしようとしたもんだ。




目撃情報その3


 駐在所。

 自首するのか?

 しかし大松のお嬢様が言うには、ここの警察官はボンク……のどかなお人柄なので、酒井は警察官から銃を奪うつもりなのかもしれない。




目撃情報その4


 小学校の前。

 子供を人質にするつもりか?

 大松のお嬢様が言うには、酒井ならやりかねないとのことだ。




目撃情報その5


 崖。

 竹宮の殺害現場だ。

 まさか……




目撃情報その6


 大松家の屋敷付近。

 こちらの理由はいくらでも考えられる、と、大松のお嬢様がおっしゃっておられる。

 お嬢様の考えでは、フェリーの爆弾魔が祭りを中止しろと要求したのはミスリードで、本当の狙いはお嬢様の生命だったのだそうだ。




 メガネの男の目撃地点は六ヶ所。

 酒井は一人。

 はたしてどこに酒井はいるのか?

 ヒントは『かき氷屋への手紙』!

 シンキングタイム・スタート!



  ↓



  ↓



  ↓



  ↓



  ↓



 正解発表。

 大松のお嬢様の言葉から察するに、酒井は利己的で残酷な性格。

 それならばなぜ、爆弾の解除方法を示した手紙をかき氷屋の店内に仕込んだのか?


 大松の狙いが祭りの中止でもお嬢様の殺害でも、脅迫状なんか出さずに黙ってフェリーを爆破してしまえば達成できるのに。


 答えは一つ。

 酒井はフェリーで島を出ることを、最初から計画に入れていたんだ!

 手に入れた宝を売却するのは本土でしかできないからな。

 酒井がいるのはフェリー乗り場だ!!



 ◆



 ◆



 ◆



 容疑者確保!

 なお、酒井は変装のつもりなのか、メガネを外していた。

 目撃情報にあったのは無関係な観光客のメガネだが、結果オーライだ。


 さて、酒井君。

 鬼瓦の中に隠されていた島の宝とやらを出してもらおうか?


 これはまた……ずいぶんとクラシカルなメガネだね。


 まあ、島に伝わるわらべ歌の内容から予想はついていたよ。

 このメガネは数百年前の梅本家の当主の愛用品。

 当主の死後も一族を見守ってほしいとの願いから、遺族によって屋敷のもっとも高い場所に納められた。

 当時はメガネは高級品だったので、泥棒に盗まれないよう一族の間だけの秘密にされたが、子どもたちは黙っていられず歌にしてしまい、よその家の子供にも広まっていったのだろう。



 ……骨董品としてそこそこの価値はありそうだが、人を殺してまで独占するようなホウモツではないね。

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