インターミッション The Intermission

インターミッション ~ 夜のリンネ1

 夜の国――


 とある廃墟の村に、月が煌々と輝いている。


 そこはかつて、人間たちが住む、地上の楽園だった。気候はおだやかで暖かく、田畑の実りは豊かだった。


 今、幼い少年が、恐ろしい闇のなかを必死に走っていた。その腕には、うさぎのぬいぐるみを抱えている。


 行く手を塞ぐように、突然、闇のなかから黒装束の小人たちが現れた!


「ハッハーーーッ! 逃げられると思ってんのか!」


「狩りだ! 狩りだ!」


 黒い小人たちは野蛮な雄たけびをあげながら、じりじりと少年を廃屋に追い詰めてゆく。


「た、たすけて……」


「助けてなんかやるもんかよ!」


 小人たちが投げ槍をふりあげた、その瞬間――


 闇のなかに白刃がひらめき、黒小人たちは次々と倒れていった。


 ふるえながら少年が顔をあげると、まぶしい月光を背負って、一人の戦士が立っていた。


「大丈夫か、坊主ぼうず


 男は剣をさやに収めた。背は低いが、体はがっちり鍛えられている。太い黒眉、若い精力的な顔。ノクターナル騎士、半小人のジャックだ。


 少年は、ふるえる声で言った。


「ぼく……妹が大切にしてたうさぎの人形を取りに来たんだ……避難した時に置いてきちゃって……妹はずっと泣いてるから、元気づけてやろうと思って……」


 ジャックは笑って、少年の頭を手のひらで包み込んだ。


「そうか、でも危険だから、この村に戻ってきちゃいけねぇ」


「うん」


 少年はうなずいて、涙をふいた。


「隊長!」


 ノクターナルの兵たちが、ジャックに注意をうながした。みんな殺気立っている。


 村道の先から、魔獣の集団が押し寄せてくる。


「ちぃ! もう来やがった!」


 部下の一人に少年を預け、急いで避難させると、ジャックはふたたび剣を引き抜いた。


 すると突然、


「うわーーーーーッ!」


 前方を守っていたノクターナルの兵たちが叫び、空中に吹っ飛ばされた。


 地面が急激に盛りあがり、そこから爆発するように躍り出て来たのは、巨大なミミズ型の魔獣・サンドワームだ!


「退避! 退避――!」


 ジャックが必死の形相で叫ぶ。


「ヒーッヒッヒッ、貴様らのヒンジャクな戦闘力で、我らの攻撃が止められるかよぅ!」


 サンドワームの後方に、小人の兵団がいる。魔法でサンドワームを操っているのだ。彼らは『黒小人』と呼ばれる、常闇とこやみの領域に住む小人だ。ディスアスター軍に加わっている。


 その兵団の中央で、黒小人の王・ニトログリムが、ねじけた顔、ひねくれた唇で、ダミ声をふるわせた。


「千年以上も昔……われらはこの《夜の国》に生まれた。しかし激しい戦いによって、この地を追放され、常闇の領域に追い出されたのだ。――今こそ、この土地を奪還するのだ!」


「おぉぉぉう!」


 黒小人たちは鞭をふりあげ、サンドワームを突進させてきた。


 ジャックは剣を身構えた。


「ちぃっ、こんなデケェ敵、どうすれば!?」


 サンドワームの全長は十メートル以上あり、胴回りはまるで、巨大な柱だ。


 ……ふいに、何もないところから、ざっくばらんな少女の声が響いてきた。


「ジャック、アタイを使うときが来たよ!」


 二本の牙を光らせながら、ソウルイーターの黒い妖精が元気に現れた。肌は蒼ざめるように白いが、髪も瞳も、服も羽根も、黒色だ。


「ナルサスは東のローリンダ川の会戦で、大金星だいきんぼしをあげたんでしょ? アタイ、あの『腐れピンク』には、絶対負けたくない! アタイらも大金星あげようよーーっ」


「俺だって、ナルサスに負けたくねぇけど……」


「じゃ、早く、早く!」


 黒い妖精はジャックの腕をつかみ、激しくゆさぶったが、ジャックはぜんぜん乗り気ではない。


(うーむ、どうしよっかな……。こいつに生命力吸われんの、つらいんだよね……)


 だから、背中にしょったソウルイーターとは別に、腰に差したブロードソード(大剣)を抜いている。


「ジャック、最近あんたが抜いてくれないから、アタイ淋しくって淋しくって……」


「『アタイで』じゃなくて、『』だろ!? 部下たち(と読者様)が誤解すんじゃねぇか!」


 ジャックはブロードソードをふりあげると、サンドワームの胴体にまともに打ちかかった。


 パッキーン!


 剣は途中でポキリと折れて、弾け飛んだ。


「だぁーっ、かってぇ!」


 サンドワームの外皮は、硬い外殻に覆われているのだ。ソウルイーターの妖精がケッケッケと愉快そうに笑うのを見て、ジャックはピンときた。


「てんめぇ! 剣になんかしやがったか?」


「え!? してないってば!」


 ソウルイーターはあわてて首をふった。


 ……と言いつつも……実はソウルイーターの妖精は、ジャックの見ていないスキに、ガジガジガジガジ……ブロードソードを弱らせるため、同じ箇所に噛みついて弱らせていたのだ。まさに魔剣である。ジャックが敵のほうを向いたスキに、ソウルイーターは、べぇっと舌を出した。


「しょうがねぇ、おまえを抜いてやる!」


 ついにジャックは、背中のソウルイーターを抜き放った。


「きゃー! 嬉しい! 思いっきり突っ込んで!」


 と、黒い妖精少女が、目をキラキラと輝かせながら叫ぶ。


「……だっから、みんなが誤解するっつーの! まぎらわしい発言すんな!」


「えへ!」


「ん? 『突っ込む』? どうすんだ!?」


「サンドワームの口のなかに、アタイを突っ込むの! アタイが内部から喰い荒らしてやる!」


「たのむぜ!」


 ジャックはサンドワームに走り寄ると、飛びあがり、黒剣を突き出した。


「うりゃぁぁぁ! 貪魔双顎剣テラサゴニ!」


 ガイィィィィィン!


 衝撃を受けたサンドワームは、身もだえし、口を大きくひらいた。


「……からの……って来い! ソウルイーター!」


 瘴気を吐き出す真っ黒な口内に、ジャックはソウルイーターを投げ込んだ!


 ソウルイーターの剣身が、ぱっくりとふたつに裂ける。びっしりと牙の並んだ顎を大きくひらいた魔剣が、サンドワームの体内をあっというまに食い散らしてゆく。


「ぎゃはははは! 激しいの大好きーー!」


 震動に激しくふるえるさやの上に腰かけて、黒い妖精は笑い叫びながら、剣を自在に操縦した。


 サンドワームは内部からどんどん喰いむしられ、じたばたと苦しげに、壮絶な身悶えをはじめた。その姿はまるで、のたうちまわる大樹だ。魔法で操っていた黒小人たちも、サンドワームの暴走を止められない。


「ぐわーっ」


「ぎゃーーーッ」


 黒小人たちが次々と巻き込まれ、サンドワームの下敷きになってゆく。


「逃げろ! 逃げろ!」


 ニトログリム王の叫びとともに、敵軍はみな撤退していった。



 動かなくなったサンドワームの体内から、ソウルイーターが緑色の体液をふり乱しながら飛び出してきた。


「うわーー、汚ぇ……」


 ジャックはつかを握り、鼻をしかめながら、臓物まみれの剣をしげしげと眺めた。


「へっへーっ、アタイの責め技、どう? 気に入ってくれた?」


「ああ、悪くねぇ……」


 言い終わりもしないうちに、黒い妖精はサッと胸元をよぎり、かぷっと、ジャックの首にかじりついた。


「ジャックエキス補充しなきゃ!」


 言いながら、上機嫌でちゅーちゅーと生命力を吸いはじめる。


「あふっ」


 思わず声が出てしまう、ジャック。


(くぅ、これさえなけりゃな……)


 ジャックはめまいに襲われながら、ため息をつき、肩をすくめた。




 東部戦線――


「くしゅっっ」


 ピンク色のフェアリーのロージアが、両手を口に当て、お上品にくしゃみをした。


「む、どうした、ロージア? 風邪か?」


 ナルサスが美声で尋ねる。


「誰かはんが、のウワサしてはる。きっと、うちとこの兵隊はんたちやわぁ。あて、うちの軍のアイドルやさかいに」


 えっへんと、ロージアは小さな胸をそらし、自慢げに腰に手を当てた。





✱.˚‧º‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧º·˚.✱


 残念! ウワサの主は、黒い妖精でした笑 ケッケッケ



 少年の命を救い、黒小人の兵団を追い払った、ジャック&ソウルイーター!

 相性はバッチリ!?


 ジャック「……んなこた、ねーよ!」←吸われすぎて真っ青

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