18 ゾンビとスケルトン

 ゾンビは……説明するまでもないが……人間の死体で、顔や手足が腐り、ただれ、溶けている。スケルトンは、白骨化した死体だ。


 ご苦労にもウルフルたちは、村の墓穴からたくさんの遺体を掘り出した。そして《ねむらずの魔導師》バティスタがアンデッド化の魔法をかけ、操っているのだ。


 シュメールは剣を構え、アンデッドたちを見回した。


「オンジャ、どうすればいい?」


「ワイバーンの時と同じさ。祝福魔法で浄化してやれ!」


 シュメールはゾンビに近づいた。ゾンビもスケルトンも、動きがのろい。シュメールは左手を差し出し、ゾンビのただれた顔にむけた。


「――神聖治癒ラファライト


 浄化の光を受けたゾンビは、バティスタとのつながりを失い、がっくりと地面にうなだれた。そして悩むようにうずくまると、もとの死骸むくろに戻ってしまった。


 シュメールは次々と光を当ててゆく。ゾンビもスケルトンも、ものの数分のうちに、みな成仏じょうぶつした。


 ……あとには、腐乱した肉と骨が散らばっているだけだ。野良犬が数匹やってきて、骨をくわえてケンカをはじめた。



 ウルフルは大きなギョロ目を見ひらき、思わず呟いた。


「バティスタ、なぜこんな弱いやつらを? お前なら、ゾンビ魔法よりも召還魔法を使って、もっと強力な魔獣を召還できたはずだ……」


 バティスタは、ふぇッふぇッふぇと笑った。


「だって、あまりに強い化け物を召還したら、その化け物に、俺たちがやられちゃう可能性だってあるわけですよ。自分より魔力量の多いやつが出てくると、操れない可能性がありますからね。そういうリスクを回避した、賢い選択だったってわけです」


「……そうか……それもそうだな」と、ウルフルは素直にうなずいた。


「ブータ、行け!」


「ブオォォォォ!」


 ブータがひとりで、棍棒を持って襲いかかってくる。シュメールは創星剣スタークリエーターにむかって呪文を唱えた。


「フォルメ・クラブ」


 その途端、黄金剣が、金の棍棒に変わった。ひらりと、ブータの攻撃を交わしたシュメールは、上から一気に棍棒を叩きつけた。


 ぐわん! 金の棍棒はブータの頭に直撃! 《怪力王》は目を回しながら倒れた。



 シュメールは気を抜かず、そのまま、ウルフルと武器を打ち合わせた。小手に狙いを定めながら、数度の打ち合いの末、ウルフルの二本の剣を叩き落としてしまった。


「どうだ! まだやるか!?」


 鼻先に棍棒を突きつけられ、ウルフルは後じさりした。それでも負けん気だけは充分で、ふてぶてしく、にやりと笑った。


「いいか、シュメール! 今回も俺たちは負けちゃぁいねぇ。今日もお前の運がよかっただけよ。……というわけで、次回まで首を洗って待っていやがれ! さらば!」


 三匹は背を向けて、猛ダッシュで逃げだした。


「お決まりのパターンだな! ペールネール」


「はい。影羽刀エペリム――!」


 ペールネールが空に手を三回ふると、みっつの羽根ナイフが現れた。三本のナイフは、目にもとまらぬ速さで三匹にむかって飛んでゆき……気づいたときにはもちろん、三つの尻に正確に突き刺さっていた。


「はうッ!」


「あひッ!」


「おひょッ!」


 三匹は三メートルばかりも飛びあがった。……しかし今回はその顔に、よだれを垂らさんばかりの喜悦が浮かんでいる。


「うれしい~! ありがとう、ペールネールちゃん!」


「これは俺たちへの愛だ! 間違いない!」


「ブー!」


 昼の光のなかにきらきらと、笑いと涙をこぼしながら、三匹は走り去っていった。



 シュメールはあきれ顔で、ペールネールに尋ねた。


「ペールネールのファンクラブだってさ。うれしい?」


「『ふぁんくらぶ』って、何ですか?」


「え? あいつら、ペールネールが好きなんだって」


「怖いです」


「だよねー」


 シュメールは言って、スタークリエーターを指輪に戻した。




  ☪ ⋆ ⋆




「ナニィ!? また負けただと!?」


 黒い水晶玉から光が放射され、ダルコネーザのすらりとした肢体が、空中に立体映像で写し出されている。


 その風切羽かざきりばねの腕が三匹のほうに向けられ、ぶるぶると、ヒステリックにふるえていた。顔は見るも恐ろしい、忿怒ふんぬ形相ぎょうそうだ。


「申し訳ございませんッッッ」 


 三匹は地面に頭をこすりつけた。


「どうか! どうかもう一度だけチャンスを~~!」


「許さん!」


 ダルコネーザは牙をむきだし、右腕に瘴気の黒雲を呼び出した。


霹靂轟雷ヴァジュラ――!」


 水晶玉を通して、雷撃魔法が三匹に襲いかかった。ガリガリガリッ――!


「ぎゃびびびびびび!」


 三匹は感電し、痺れ悶えた。


 ダルコネーザは叫んだ。


「もう一度だけ、チャンスをやる。必ずシュメールを抹殺せよ!」


「ははぁ……」


 打たれ弱いバティスタは、すでに気絶している。ウルフルとブータは水晶玉に向かってひれ伏した。


(……PFCの会員証作って遊んでたとか、絶対に言えねぇな……)


 バレれば、抹殺は免れないだろう。電撃だけですんで、幸いだった。


(ふう……危ねぇとこだった……)


 次々に垂れてくる冷や汗を、ウルフルは毛むくじゃらの手でぬぐった。




✱.˚‧º‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧º·˚.✱


 生き延びた三獣士……いや、PFC……


 使命をまっとうできる日は来るのか??

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