月と龍でおぼろヤマト
京極 道真
第1話 箱のヤマト再来
「起きろ、リク。」ヤマトの鋭い爪が僕の頭をゲームキーボードのように叩く。
「やめろ。」僕は右腕で龍のヤマトの頭を叩く。
「ゴツン。」
まだ寝てたいが。もう寝れない。
「ヤマト、なんでまた来たんだ。
『俺様は、大地に戻る』と決めセリフを言って
夕日と共に消えたんじゃないのか。
もう一度来るなんてかっこ悪いぞ。ヤマト。」
「リク、そんな意地悪言わなくてもいいじゃないか?友達だろう?」
「えっ?いつから友達だ。勝手に餅の入って封印されていた、いやしい龍の友達なんかいないぞ。』
「俺様は高貴な龍だ。それにリクを背中にのせて飛んだじゃないか。なかなかできないぞ。」
「誰も頼んでいないぞ。」
「リク、もう朝だ。どうせ、昨日から春休みなんだろう。午後の塾しかやることないって昨日いってたよな。俺様は記憶力だけはいいんだ。龍の寿命はかなり長い、かれこれ千年は軽く生きてるが、だいたいのことは覚えているぞ。」
「ゴツン。」僕はヤマトの頭を叩く。「ヤマト、朝からそんなにマシンガンのように話すな。起きるから少し静かにしてくれ。それにせっかくの春休み、できれば昼までこのままグタグタと寝ておきたかった。ヤマトこれは貸だぞ。」
ヤマトは龍のくせに横を向いて口笛を吹く。まるで僕の”貸だぞ”の言葉を聞こえないふりしているようだ。
再び「ゴツン。」
「痛いなリク。高貴な龍の頭を気安く叩くんじゃない。鱗が落ちてしまうだろう。」
「ヤマト、僕のゲンコツぐらいで落ちる鱗か、弱っちいな。」
ヤマトがとがった牙をむいて「リク、俺様は強い。」「はい。はい。」なぜか僕は、ヤマトの怒った牙を見ても不思議とこわくはなかった。
僕はベットから起きて自慢のゲーム専用シート、椅子に深く座った。
「でヤマト、何の用事なんだ。朝早くから僕を起こした理由は?」
「それが、大変なんだ。リクの力を貸してくれ。助けてほしい。」
「えっ?人間の僕なんか弱っちいのに。力ないぞ。」
「ぷっ。」ヤマトが笑う。「当たり前だ。力、パワーは求めていない。リクの知恵を貸して欲しい。」
「どういうことか話してくれ。話の内容によっては助けるけど、内容によっては助けない。基本、面倒ごとは嫌いなんだ。」
「まあいいから、リク聞いてくれ。昨日、リクと遊んで俺様は大地の箱に帰った。
そしたらなくなっていたんだ。俺様の玉が。」「玉?」
「ヤマト玉を失くしたらお前は女子か?」
ヤマトが一瞬固まる。数秒後に顔を赤くして僕の頭をバシバシ叩く。
なんか反応が中学生の女子レベル。「ヤマト大丈夫か?」
「リク、お前こそ、勘違いをするな。恥ずかしいぞ。玉は心臓のことだ。龍の喉の奥にコバルトより濃い青。そうだな石で例えるとラピスラズリのような強い青の玉が
ある。俺様達、龍の心臓だ。この心臓は便利なことに取りだすことができる。」
「ヤマト、心臓の出し入れ自由って?聞いただけで冗談だろうって思うよ。人間なんか、心臓がカラダから出たら即消滅。龍の心臓?ありえない。」
「そのありえないがあるのが龍さ。で本題だ。龍の習性で大事なものは基本箱の中に入れる。心臓も大事なものだ。もちろん喉にしまうこともあるが、基本は箱の中。昨日も箱の中に入れて人間界に出てきた。そして帰ると箱の中の心臓の玉は、なくなっていた。
代わりにメッセージが。”俺様は7番目の龍”と書かれていた。
「7番目の龍?ヤマト心当たりは?」
「ある。俺様のように大地を箱にする龍は全部6龍だ。7番目の龍は存在しない龍だと聞いている。正確には以前はいたが今はいない。
7番目の龍が動き出すとき世界が動く。それは大地、大陸が動くことを意味している。そしてもう一つの世界がひらくときだと。そのためには6大陸の龍の心臓が必要だとか。伝説レベルの話だと思ってたんだが。居たんだな。7番目の龍が。」
「おい。ヤマト他人事のように言ってるが、お前のことだぞ。心臓なくて、大丈夫なのか?」
「それは問題ない。リク、トカゲと一緒さ。しっぽを切ってもまたはえるみたいな感じ。ほら、喉の奥に青い玉が見えないか?」
「見える。あれは?」
「仮の心臓の玉だ。」
「なんだか、トカゲと言い、爬虫類系は案外都合よくカラダができているんだな。」
「そうだ。」ヤマトは偉そうに言う。
「じゃあ、早く取り戻しに行かなきゃな、ヤマト。」
「リク、付き合ってくれるのか?」
「そうだな、春休みだし。しかし、さすがに長いこと留守にはできない。母さんにバレそうだ。」
「リク、髪の毛を一本くれ。」「痛い。」
ヤマトは僕の髪の毛と自分の龍のひげを編み込み息をかけた。僕ができた。
ヤマトは「10日くらいはこの人形で大丈夫だ。」
「じゃ、行くか。」僕らは6大陸の龍をめぐりヤマトの心臓を奪った7番目の龍を捕まえることにした。
ヤマトの背中に乗る。「ビューン。」
足元に町の家家々がたくさんの箱が見えた。
「リク、空はどうだ?やっぱりいい眺めだろう。」
「いいな。やっぱりいい。空の青と太陽の赤。眩しい。」
「リク、箱の外には無限の時空が存在する。」
足元リクの箱の町と、しばらく離れる。
あっ、クレープ屋。」
「ヤマト、いやしい龍になってるぞ。お前は
高貴な龍だ。帰った時の楽しみにしろ。」
「そうだな。」
僕は終わりのない広い空に目を凝らす。
無限の時空か・・・
ヤマトの背中の鱗をつかみ直す。
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