【KAC20248】望遠鏡でみたいのは

🔨大木 げん

第1話 告白って

 僕には三分以内にやらなければならないことがあった。


 二学期最後の図工の時間中に万華鏡まんげきょうを完成させるのだ。


 急がなきゃ!

 あと1枚のフィルムをのり付けすれば完成だ。

 よしできた!

 ちょうど終わりのチャイムがなったぞ。

 間に合ったぁ!


 万華鏡、この不思議なは夜空の星をイメージして作りあげたけど、あの子にプレゼントしたら喜んでくれるかな。


 あの子、畠山 詩織はたけやま しおりちゃんは首都圏から行ける、『星が一番綺麗な里』で有名な村にあるペンション『ろくとうせい』に住む僕と同じ小6の女の子だ。文字通りの看板娘で、凄く人懐っこくてかわいい女の子なんだ。


 僕の名前は天野 弥彦あまの やひこ。東京都の郊外に住んでいる。両親は二人共天文マニアで、毎年家族で夏休み中の旧暦の7月7日と、1月の冬休み終わりに、ペンション『ろくとうせい』に星を観るために通っている。


 お父さんとお母さんが知り合ったのが、たまたま同じ日にペンション『ろくとうせい』に泊まったからなんだって。その時は先代のオーナーさんで、5年前の、僕が小1のときから今の畠山さん家族が経営してるんだそう。


 そういえば1年生になった時なんだな、詩織ちゃんと出会ったのは。毎年お盆とお正月に近い日に会っているからか、詩織ちゃんと僕はまるでいとこみたいな感覚で仲良く遊んでいたんだ。


 3年生の時に詩織ちゃんから年賀状が届いたのをきっかけに今は月に1回くらい手紙のやり取りをしている。今の時代に文通だよ。でもスマホもパソコンも持ってないから仕方ない。親のパソコンを借りてメールするのも、中を見られたら、と思うとなんとなく恥ずかしいしね。中学生になったらスマホを買ってもらいたいな。


 そういう関係だったけど、4ヶ月前の、今年(2023年)の旧暦7月7日(8月22日)に『ろくとうせい』に行った時、たまたま別の家族も泊まりに来ていて同じ年頃の男の子もいた。その男の子がやたらと詩織ちゃんに話しかけていて、詩織ちゃんがその子のことを随分とかまってあげてるのを見て、すごくモヤモヤした気持ちになった。


 そこで僕は思った。これが噂に聞く恋なんだろうか?と。友達として好きなんじゃなく、女の子として詩織ちゃんの事が好きになっているみたいだ。僕の初恋は6年生の(旧暦)7月7日からなのか、それとも出会った1年生の時になるのか、どっちなんだろう?


 二学期最後の授業は、社会の調べ物学習の発表だった。

『昔の事』を調べてみよう。というテーマでそれぞれ発表するので、星を観るのと本を読むのが好きな僕は、トリあえず・・・・・事前学習の時間に図書室で『おもしろいほんやく事典』を借りてきて調べた。


 僕の好きな『望遠鏡』は遠眼鏡(とおめがね・・・・・)や千里鏡(せんりきょう)と言われてたみたいだ。読んで一番びっくりしたのは英語の『I love you』を『月が綺麗ですね』と訳したり、ロシア語の『わたしはあなたのものよ』を『死んでもいいわ』と訳したりしてた事だ。


 その事を発表したら狙い通り大ウケした。そうだよな、今の僕たちの感覚からしたら明治の文豪って凄いな。ぶっ飛んでいるよ。でも凄く面白かった。


 終業式が終わった後に、事件がおこった。


 スポーツ万能でテストもいつも良い点を取って、おまけに顔もカッコいい山田 碧やまだ あお君が告白してふられた。皆がびっくりしている。


 告白した相手は僕と同じ図書委員の、めがねをかけたクラスで一番かわいい女の子花木 彩乃はなき あやのさん。


 ふられてしまった山田君は心がささくれて・・・・・しまって態度があらくなってしまった。無理もないよな。


 普段から仲が良くて皆がお似合いだと思っていたのにまさか山田君がふられるなんて。


 告白するのって怖いと思った。



   

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