眼鏡の世界

歩弥丸

企画編 ってそれ此処で良くね?

「眼鏡の世界?」

 新世界旅行社の事務室で、代表はすっとんきょうな声を挙げた。

「見たいんですよ。眼鏡の世界を」

 客はそう言って、をくいっと上げた。

「ってお客様ね、私らもしてるじゃないですか。メガネ」

 代表は自分の顔を指さす。

「そうじゃないんですよ! ホログラフ操作補助用のメガネじゃなくてですね! 天然自然の眼鏡がまだ生きてる世界を見たいんですよ」

「天然……自然……?」

 この時代、基軸世界において『メガネ』という場合、通常はホログラフ操作補助用の視覚投影端末スマートグラスを指す。視力を光学補正するだけであれば、そもそも眼鏡をかけるまでもなく、レンズ代程度の医療費があればどうにかできる時代だ。

「狭義の眼鏡――視覚用光学補正レンズは今やすっかり絶滅危惧種になってしまいました。そう考えれば、『眼鏡の使われている世界』を見たいと思うのは自然ではありませんか? 光学レンズ故の、レンズ越しに歪む顔の輪郭! 自信なさげに俯く眼鏡女子! 紙の書籍! 光の反射!」

「ああまあ、うん……」

 代表も顔をやや背け気味である。

「同好の士を募って資金は充分用意しました! どうか、どうか『眼鏡の世界』への旅行を我らに御提案願いたい!」

「……まあ要するに……眼科の技術水準テックレベルが基軸世界の19世紀から21世紀程度にあたる世界、ってことでいいんですかね?」

 代表は困惑気味にホログラフを操作し検索する。

 そういう世界が存在しない訳ではない。『近い』世界であるので、旅行の難易度も高くはない。ただ、基軸世界の近過去にあたる世界は、余程の『ifの歴史』を辿っているというのでない限り、異世界旅行先としては人気は無い。そもそも、再現可能な程度の近過去なら、基軸世界内のテーマパークとしてあちこちで営業中であり、わざわざ航界機を使うことなど無いのだ。

「眼鏡女子多めの世界が良いですね」

「性別の偏りまでは特定できませんよ……」

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