住み込みのアルバイトの札束が黒歴史

逢坂 純(おうさかあつし)

住み込みの新聞配達で渡されそうになった札束が黒歴史

僕は統合失調症という精神障害を抱えています。統合失調症と言うのは、100人に1人の割合で疾病する脳の病気なのだそうです。

そんな100人に1人の割合で疾病する統合失調症にまつわるお話です。

僕は20代から30代に掛けて、手足の指の数では数えられないほど多くのアルバイトをしてきました。やっては辞め、またやっては辞めの繰り返しでした。仕事ができなかったのです。それは、今思い返せば、統合失調症の認知機能障害という障害のせいらしいのです。そんな状況の中でも、僕は20代の頃には何が何でも家を出て、上京したい!と思っていました。でも、お金がない、ということで、上京して住み込みで新聞配達のアルバイトをしていました。その住み込みのアルバイトでは、ワンルームを一つ、与えてくれました。僕は家具もテレビもない小さなワンルームでの生活がそこから始まったのです。入社してすぐのある日、僕はその新聞配達の所長に呼ばれ、一室で二人きりになりました。

机には大きなバッグがあったように記憶します。僕がそのバッグを何となく見ていると、所長はバッグからおもむろに、札束を取り出したのです。

「え?」

と僕は思いながら、日ごろ縁のない札の束をボンヤリ見つめていました。

すると、所長は僕の顔色を見て、その札束をすぐに仕舞いました。それで何もなかったかのように、札束バッグを脇に置いて、何やら話始めました。何の話だったのかは覚えていません。新聞配達の仕事をする契約の話だったのか、何だったのか、今となってはもう思い出せません。しかし、僕は確かにその札束を見たのです。統合失調症の症状なんかではありません。すぐさま僕は何とか理由を付けて、そのアルバイトを辞めることにしました。あとで、両親には「その札束を貰っていたら、何をさせられてたか、分からないよねー。やっぱり東京は怖いねー」と言われました。あの時、所長はどうして僕にあの札束を見せたのか、謎でしかありません。

友人に話すと、初めは僕の言うことを信じてくれていた友人でしたが、そのうち、「それ、もしかして、統合失調症の症状なんじゃないの?」と言われました。

確かにあの新聞屋のアルバイトは慣れない一人暮らしで、心細かったのを覚えています。

所長の奥さんは、一人暮らしの僕のことを心配して、朝ごはんに賄いとして、みそ汁とご飯、焼き魚に野菜などなど、とても有り難い栄養の行き届いた食事を提供してくれていました。しかし、僕はその食事に毒が入っているんじゃないかと、一口も食べずに残していました。おそらくその「食事に毒混入」は今考えれば僕の被害妄想だと思います。本当に失礼な馬鹿者だった思います。

しかし、所長の見せたバッグの札束は、本当なんです。信じてください。そして、僕はあの札束を受け取っていたら、どうなっていたでしょうか。今となっては、あの住み込みのアルバイトは黒歴史でしかありません。

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住み込みのアルバイトの札束が黒歴史 逢坂 純(おうさかあつし) @ousaka0808

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