第45話 保護された獣たち

 保護された獣たちをどうするかという事で改めて話し合いが行われた。

 ルスはモエの頭上を気に入っているのでそのままになっているものの、さすがに増えた獣たちは数が居る。暫定的にイジスが部屋で預かっていたのだが、さすがにこのままというわけにはいかなかった。

 モエに懐いたルスはきちんとしていたが、新たに増えた獣たちは結構好き勝手してくれている。このままでは部屋の掃除が追いつかないのだ。

「可哀想だけれど屋敷の外に小屋を建てるしかないな」

 結論としてはこうなった。

 それというのも部屋を掃除する使用人たちからいろいろと苦情が出てしまっているからだ。イジスも現ににおってきている。さすがに由々しき事態であった。

 モエが顔を出すとその胞子の効果である程度はマシになるものの、毎回それというわけにもいかないのだ。モエだってメイドである以上仕事があるのだから。

 獣たちが過ごす場所は馬小屋の近くという事になった。早速大工たちを呼んで建設作業が始まる。

 小屋ができ上がるまでの間、獣たちは建物の隅っこの方に移される事になってしまったが、いろいろ考えればやむを得なかった。

「それにしても、獣とはいってもじっくり見ると結構種類が居るな」

「そうですね」

 暫定的に移された部屋に、イジスとモがやって来ていた。

 ルスの親であるプリズムウルフについて行かずに残った獣は8体ほどだった。かなり小さい個体ばかりなので、単純に幼すぎたというのがあるだろう。

 ルス同様に助かる原因となったモエと、そのモエのにおいが強くするイジスに対して懐いているようである。

 数日経って落ち着いて見てみると、本当に種類がバラバラだった。

 この懐いている様子を見ていると、本当にあの時捕まえた違法取引の男たちを許せたものではなかった。そんな男たちは、今もなおイジスの父親であるガーティス子爵たちから取り調べを受けている真っ最中である。しかし、思うような進展がないところを見ると男たちの口は相当に堅いようだった。

「魔物たちも居るみたいだが、これだけ小さいと可愛いものだな」

「ええ、そうですね。森の中だと餌でしかなかったんですけれどね」

「……マイコニドって思ったより雑食だなんだな」

「人と変わりませんよ。大本がきのこっていうだけで」

 獣たちを撫でながら、モエは淡々と話していた。その様子に、イジスは少しだけ恐怖を感じたようだった。

 こう思ってしまうあたり、やはりモエも人外なのである。しかし、聞いたそれは人間のそれとも変わらないのだが、この時どうして恐怖を感じたのか、イジスにも分からなかった。

「イジス様?」

 いきなりイジスが黙り込んでしまったので、モエは不思議そうな顔をしてイジスに声を掛ける。その声に、イジスは体を少し震わせた。

「もう、なんなんですか。私はこの子たちを獲って食べたりなんてしませんよ。何ですか、人の事を野蛮なように見ないで下さいよ」

 モエが珍しくイジスに対して怒っている。これにはイジスもさすがに戸惑いを隠せなかった。

「イジス様」

「な、なんだい、モエ」

 改めて真面目なトーンでモエが話し掛けてきたので、イジスはちょっと身構えた。

「この子たち、名前を付けるんでしたら慎重にして下さいね。普通の動物と違って、魔物は名前は特殊な意味合いを持ちます。私の同僚となったあの人外の女性たち、名前を持った事で変化があったみたいですから」

「そ、そうなのか」

 疑問を持っているような反応をしているので、モエは言葉を続ける。

「私の居たあの森のマイコニドは、人間と同じように生まれてすぐ名前を授かりますので知りませんでしたが、あの女性たちからの証言で分かりました」

 獣たちをあやしながらモエは話している。

「ルスはあまり変化がなかったように思われますが、どのような変化が起きるか分かりませんからね。慎重に越した事はないかと思います」

 モエがこう締めくくると、イジスは少し考え込んだ。

「とはいってもな、名前がないと不便だと思うぞ。この子たちは種族が何かも分からないんだからな」

「わうっ!」

 イジスがモエに苦言を返すと、ルスが吠える。相変わらずモエの頭の上に居たようである。

 姿を現したルスは、獣たちの間を行ったり来たりしている。すると、何やら頷くような仕草を見せていた。

「……ルスってば、この子たちを説得して回っているみたいだわ」

「すっかりみんなのボスになっているな、ルスは」

 ルスと獣たちのやり取りを見て、イジスとモエはやれやれといった感じになっていた。

「わうっ」

 モエのところに戻ってくると、やり切った顔をして尻尾を振っているルス。まるで褒めてと言わんばかりの状態だった。

「もう、ルスったら」

 その可愛らしい仕草に、モエはつい笑ってしまう。そして、ルスの頭を撫でると、ルスは満足そうに目を閉じていた。

「それじゃモエ、一緒に名前を考えていこうか」

「承知致しました、イジス様」

 そんなわけで、イジスとモエは8体居る獣たちにそれぞれ名前を付けていったのだった。

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