ご胞子します!マイコニメイド
未羊
第1話 赤い笠のマイコニド
とある森の奥。そこには頭に笠をかぶったキノコの亜人であるマイコニドが暮らす集落があった。
彼らが人間とは隔絶した環境でのんびりと暮らすのには訳がある。
それは、マイコニドたちは他の種族から酷い扱いを受けているからである。その理由の一つは、マイコニドのかぶる笠に原因があった。
マイコニドの笠からは常に胞子が飛んでいるのである。その胞子を吸い込むと、毒だったり麻痺だったり蕁麻疹だったり、とにかく体に異常をきたしてしまう。それゆえに、マイコニドは他の種族から疫病神扱いをされているのだった。
そんな外界から切り離されたマイコニドたちの日常は、非常に穏やかなものだった。
日の出とともに起き、日の入りの少し後に眠る。その間は農耕などに精を出す、実に悠々自適な日々を送っているのだ。幼い頃から外は危険だと教えられて育つので、村から外へ出ようとする者もほとんど皆無で、その集落だけですべてが完結していた。
ところが、そんな集落にちょっと変わったマイコニドが誕生していた。
「おい、モエ。本当に外の世界に行くつもりか?」
「うん、私は広い世界を見てみたいの」
赤い笠をかぶった赤い長髪の少女型マイコニド。その名前をモエといった。
彼女は引きこもりのマイコニドにしては珍しく、外界に興味を持っていた。過去にも何度も外の世界へ行こうとしては、他のマイコニドに見つかって失敗して連れ戻されている。それでもモエの外の世界への情熱は消せなかった。
そんなモエは、ある日幼馴染みの止めるのも聞かずに、ついにこっそり外の世界へと出ていく事を実行する。幼馴染みもついに止めるのを諦め、集落の外へと走っていくのを黙って見送った。
(ああ、ついに私は外の世界へと出られるのね。うふふ、一体どんな世界が待っているのかしら)
森の中を駆けていくモエの瞳には、きっと希望に満ちあふれた世界が映っていたのだろう。その表情は明らかに輝いており、その足取りは実に軽やかだった。
ところが、ある程度進んだところでモエは気が付いてしまった。
「あれ? 外の世界とは言ったけれど、どっちに行けばいいんだっけ?」
そう、外の世界の事もよく知らずに飛び出してきてしまったのだ。気が付いたら迷子である。
大失態をかましたモエだったが、外の世界へと出ていくと決めてしまった以上、今さら集落に戻る事はできなかった。もし戻ってしまえば、集落の中に閉じ込められて、二度と外に出る事はできなくなるかも知れない、そういう恐怖があったのだ。
(よし、勘で進みましょう。私はマイコニド。森の中での暮らしはお手の物だもの)
モエは改めて決意して、森の中を自分の勘を頼りに適当に進み始めた。
「あれ? 辺りが真っ暗だわ」
知らない間にとっぷり日が暮れてしまっていた。結局森の中で迷子のまま、どこにもたどり着けないモエである。森で暮らすマイコニドだというのに、森の中で迷子になって野垂れ死ぬような事になれば笑い話だ。正直焦りを覚えるモエである。
「ふええーん、ここ、どこよう~?」
モエは半泣きになりながら、森の中をさまよっている。どこを歩いているのかも分からず、もはや諦めかけていた。
そんな時だった。
「あっ、明かりだ!」
突如として、何やら明るいものがモエの視界に入った。モエはその明るい何かに向けて走り出す。
「すみませーん。道に迷っちゃったんですけ……ど?」
そこでモエは固まってしまった。目に入ってきたのは予想だにしないものだったのだから。
「何だあ、お前はよ?」
そこに居たのは見るからに悪そうな人相と服装の男二人組だった。その足元には何かが転がっている。
「わ、私、森の中を歩いていたら迷っちゃったみたいで……。えへ、えへへへ……」
モエの中の勘が告げている。ここに居ちゃいけないと。
笑いながら後退りをするモエだったが、男たちはモエを見ている。
「こいつあ、なかなかな上玉だな。これは思わぬ拾いものをしたかも知れねえな」
モエの姿を見ながらにやついている男たち。正直気持ち悪いし怖いし、モエはこの場からさっさと逃げたい気持ちになった。
男たちが執拗にモエに視線を向けるのは、実は理由があった。それはモエの服装である。
マイコニドの服装は、基本的に植物の蔓などを編んだだけのものであるので、思ったよりも肌の露出が多い。そのために男たちを刺激する結果となってしまったのだった。
「こいつを売っ払えば、しばらく遊んで暮らせそうだな。ぐへへへへ……」
「いやああっ、気持ち悪い、近付かないで!」
じりじりと寄ってくる男たちに対して、大声を出して抵抗するモエ。
(外ってこんな怖い世界だったの? ふええ、こんな事なら集落でおとなしくしてるんだった……)
外に出て最初にこんな目に遭ってしまったがために、自分の行動を後悔するモエ。そのモエにじわじわと男たちが寄ってくる。
もうダメだ、モエがそう思った次の瞬間だった。
「ぐえっ!」
「がはっ!」
突如として男たちが倒れたのである。一体何が起こったのか、恐怖で固まるモエにはまったく分からなかった。
「大丈夫か!」
そして、呆然とするモエに対して呼び掛ける声が聞こえてきたのだった。
モエが声のする方を振り向くと、別の人間の男性がやって来た。
果たしてモエは助かったのか否か。怯えたように男性たちを見るモエだった。
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