メガネ売りの少女

DRy0

第1話


「めがね、めがねはいりませんか?」


 季節は真冬。雪が降り、冷たい風がふく中、少女は街行く人に声をかけている。


「近視、遠視、伊達だってあります。」

 めがね屋以外で眼鏡を買う人なんていない。

 それでも、少女は声をかけ続ける。


「近視は、-1.0から-8.0まで、揃えています。めがねはいりませんか?」

 別にそれは訴求ポイントではないし、興味を持つ人なんていないだろう。

 それでも、少女は声をかけ続ける。


「お願い、一本でもいいんです。誰か、めがねを買ってくれませんか。」

 今日はまだ、一本も売れていません。


 街を歩いていると、お肉の焼けるいい匂いがします。

「おなか空いたなぁ、どうして売れないんだろう。」

 めがねが売れないまま帰っても、彼女のお父さんは家に入れてくれません。

 だから、少女は声を出し続けないといけないのです。


「みんな楽しそうにしてる。妬ましい。

 そうだ、私がこのめがねをかけて、広告塔も兼ねればいいんだわ。」

 そう言って、めがねをかけました。


「サンドイッチ、カレー、ラーメン。」

 視界が広がった少女には、街行く人がご飯にみえるようです。

 驚いた少女は、一度めがねを外しました。

 そうすると、街行く人は元の人間に戻りました。

 少女はがっかりして、もう一度、今度は別のめがねをかけます。


 するとどうでしょう。今度は街行く人はサンタに、道行く車はトナカイにみえたのです。

 少女は、また、別のめがねをかける。

 色とりどりの広告、人の上に浮かぶ数字、

 めがねをかけなおすたびに変わる景色に、少女は目を奪われ、憧れました。


「もう夜も遅くなる。これで最後のめがね。」

 少女は最後に残った真っ赤なフルフレームのめがねをかけました。


「あれ?もうなにも変わらない。」

 少女の目には、なにも変わらない、いつもの景色がうつります。

 

「あっこれ伊達じゃん。

 もういいや、殴られようが、とっとと帰るべ。」


 いつもと同じ景色。それでも少女の気は、少しは晴れたようでした。

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メガネ売りの少女 DRy0 @Qwsend

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