【KAC20248】吸血鬼世界の暗視鏡【めがね】
あんどこいぢ
家路
エルフ、ドワーフといった妖精たち、ゴブリン、コボルトといった妖魔たち、そして何よりこの世界の支配種族たるヴァンパイアたち……。
皆一ようにインフラヴィジョンを持った種族たちだ。
従がって普通のヒトは肩身が狭い。
いまもイザリは暗がりで石に躓き、一緒に家路を急いでいたジラとウルアに援け起こされたところだった。その彼が悲鳴混じりに叫ぶ。
「めっ、眼鏡っ──。眼鏡が吹っ飛んだっ。うっ、動かないでっ。踏んづけないでっ」
肩を貸してくれている女子二人は当然非難囂々である。
「モオウッ! 援けてやってんのにそりゃないでしょ!」
「私が血をあげるっていってんじゃん! イザリも早く、お仲間になっちゃえばいいんだよ!」
やがてブツブツいいながらも、ウルアが小走りに駆け、青方偏移の魔法がかかった眼鏡を拾ってきてくれた。それでイザリのような普通のヒトでも赤外線を観ることができるようになるのだが……。
はいっ、といって彼女が手ずからその眼鏡をかけてくれたのだが、その際、小走りした直後の彼女の吐息がかかった。
「ウッ……!」
暗闇の貴公子、ノーライフ・キングのドラキュラ公爵にも息がクサイという伝承がある。他ほうでウルアは二十歳そこそこでヴァンパイアになった永遠の美女──。彼女のものなら多少の口臭ぐらいは、といったところなのだが、そのニオイはヒトに、本能的恐怖を感じさせるものなのだった。
ウルアは本当に儚げで、透明感いっぱいの美女なのだが……。
仄白い美貌が哀し気にゆがんだ。さらにその額に亀裂が走り、……と見えたものが、それは実は、眼鏡のほうに罅が入ってしまっていたのだ。
そしてもう一人のヴァンパイア美女──。ジラのほうは肉感的かつ健康的ヴァンパイア……。しかしアンデッドに対し健康的というのも字義上奇妙な表現かもしれない。にも拘らずヴァンパイアが支配種族となって以降、そんな彼らのなかにあって活動的部分を占める彼女のような存在を、健康的と表するのはごくごく自然なことだった。
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