1章 8話呪い 2

その後すぐ先生が来たので、その場は収まったが、僕に対して視線が集まっていた。

(流石に注目されてるな〜)

2日間誰に対しても塩対応だった彼女が、3日目にしてようやくクラスメイトに挨拶。しかも周りから見れば、全く接点が無く目立たない陰キャに挨拶したとなれば目立つのは当然だ。

「ねぇ何で夜野さん、あいつに挨拶したのかな」

「本当にね、何でだろうね」

「夜野さん、あいつになんか弱みでも握られたのかな」

「そうだとしたら、最低だね」

小声で話してるつもりだろうけど、席が近いので耳に入ってくる。

(挨拶されたぐらいで大袈裟だな)

もちろん僕は、弱みをにぎるようなことはしてないし、にぎったとしても悪用する気は無い。それに、根も葉も無いことを言われて、あまりいい気分にならない。

その後何度もそんな噂を、耳にしながら過ごしていたら、放課後になっていた。

僕はいつも通りに、西館の図書室へ足を運び、中へ入った。中には夜野が、変わらずいた。

「やっぱいるんだな」

「邪魔って思うなら移動するけど」

「いいやあんな出来事があったから、もう関わろうしないだろうなって思ってたから」

普通あんな事があれば、もう関わろうとしない、会って3日目の男なら尚更。

だけど彼女は、気にすることない様子でいた。

「別にあなたが私に興味がないことはわかってるし、ここ以外静かに過ごせるとこが無いだけ」

「自分の家は、静かに過ごせないのか?」

「家族との歯切れが悪いので、家に居ても、集中出来ないだけです」

彼女の顔が少しだけ俯いた、だけどすぐに表情を直した。

「ですので、私は変わらず放課後ここにいるつもりです」

「なるほどね」

僕はそれ以上追求しなかった。誰でも知られたくない事はある。それに僕が知ったところで、他人の家族関係に口出しする権利が無いのだから。少し沈黙が流れた後突然夜野が口を開いた。

「ごめんなさい」

「何が?」

「その挨拶したせいで、あなたが悪く言われてしまって」

「いいよ、別に気にしてないから」

どうやら夜野は、僕が悪く言われているのを気にしているらしい。実際は慣れているからそこまで気にして無いのだけど。

「そいえば」

ここで僕はある疑問を口にした。

「どうして朝、僕に挨拶したの?」

彼女が挨拶する理由なんて無いし。他人との

コミュニケーションをあまり好まない彼女が、何故挨拶したのかが疑問に思い質問した。

「どうしてって」

彼女は少し困った様な顔をしながら。

「ただ挨拶したい気分だったから」

そんな彼女の返答に少し戸惑った。

「そんな理由?」

「そんな理由って言われても、そう答えるしかありません」

意外な回答と、少し考え過ぎた自分に、少し笑ってしまった。

「なんで笑ってるのですか?」

「いや可愛い理由だなと」

「別に挨拶するのに理由なんか要らないと思いますけど」

「それもそうだな」

彼女もおかしいと思ったのか少し笑っていた。

(クラス内でこんな顔されたら、クラス中の男子釘付けだろうな。)

「夜野さん、今の感じで話せばクラスに溶け込めると思うけど」

「それ遠回しにクラスに溶け込めてないって言ってるように聞こえるけど」

「実際そうじゃん」

「あなたはもう少し気を使って話すことは出来ないの?」

「あいにく無理だな」

そんなやり取りをして、互いにまた笑った。

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