グラシズブリッヂの四倒
水白 建人
第1話
これらの半円、上下を合わせて並べたさまは、
ゆえにこれなる石橋を
あるいは彼なら――。
乾いた
「誰が呼んだか
かくもうろんにうそぶこうとも不思議はない。
これこそ
「おいらはふつうに
三時の方角、四歩先にて。
そびえ立つは
知人友人、ましてや
あれなるは
「
「ここがただの石橋だったことを俺は覚えているぞ」
「よくご存じで」
「だのに
「当たらずとも遠からずっす。
「ふん。現実味がない話だ」
「ありうべからざる
「我らが
敵視の男が
「気に入らないが、ふん。
(見抜かなくたってわかるっすよ)
彼ら《
ゆえに
進んで《
(おいらのうわさをたどってきたんだったら、ふつう、気づきそうなもんなんすけどねえ……。《
「だが
「そりゃこっちのせりふっす」
「いい口ぶりだ!」
しかして敵視の男が人いきれもかくやの極熱を放つ。
《
(……
宝や功名がためでなく。
現代とても、やぶさかならざり。
「《
「そう
「誰が呼んだか
「て、
「《
「おお……、ならばおまえは?」
「有名無実の二代目ってとこっすかねえ」
「ふん。せっかくの
銃刀法なにするものぞと言わんばかりである。
「おまえも武器を手に取れ」
「もう取ってるっす」
「そんな釣り竿ごときで俺に挑むのか?」
代わりに片笑みをもって応ずる。
火に油を注ぐとはまさにこのこと。
しぶくは血ならず、冷たい玉の音――。
「ところがどっこい」
まずは一合、
「ん、結構重いっすね」
ハーフグローブの右手が握りし竿の背にて、
(たかがっ、竿ごときに!? これも
負けじと
されどもあぐらかきたる釣り師は無傷。
ついには自ら後転し、
「こりゃまじめに
「……違う。
「特注なんすよ、これ。糸もそうっす」
「ふん、おもしろい……」
「だが竿には攻勢に転ずる
「おたくの大太刀よりは長くて便利っすよ。八番台さん」
「斬れなばしょせん武器ではない!」
大太刀を十全に振るえる位置で
「我らが
改められし構えは
上段かつ互いの正中線に
狙うは腕や胴にあらず。
砕けば必殺の
これぞ《
「行くぞ
(さらに力んで、高ぶり、《
《
かくなる《
太刀筋を読まれようと、構わず一合、また一合、
「受け方を!! 変えようと!! 消耗していくばかりだぞぉ!?」
「反撃……、するっすよ」
「
またも一合受けたところで、
右手同様、竿に携えていたはずの左手でリールを巻きて、にこりほほえむ狐眼。
釣り針には
「ほら、長くて便利っす」
「……守勢に甘んずることなく、よくも……!」
「おいらは
しかして、
「優勝劣敗は
「よくも、よくも俺の福耳を……、
「さすがに高ぶりすぎじゃないっすかねえ。途中でバテるっすよ?」
「その前に勝つすべを俺は心得ている!」
《
「
瞬間、宵の空より
これなるはしかし《
「…………焦がれる」
天罰がごとき光を受け、なおそびえ立つ。
「焦がれるぞ、
(まだ動く……! 今の、失敗じゃなかったってことすか)
「『迷わぬ強さ』に俺は目がくらみそうだ!! ふふははは、はぁーっはっはっはぁっ!!」
「おたく、ずいぶん怖いことするんすねえ」
「勝つためだっ!!」
すかさず
「なっ――づぅ――――……っ!?」
代わりに太刀先より分かたれし飛電が、
(な、なんすか今のは……?)
「
「帯電……、へえ、さっきの雷はパワーアップのため、だったんすねえ」
目で追えぬ太刀先の
竿より間合いに優れ、威力も並ならず。
(あんなの素で何発も食らえないっす)
(……じゃあ、
「
八双の構えから、
相前後して
竿の穂先を向こう正面に突き出して。
「む、飛電刃がそれたか?」
(キャッチ成功っす)
ずばり避雷針である。
「……ちょこざいな。だが!」
筋肉とは脳の電気信号にて動く
要するに電気、電気さえあれば事足りる。
《
「笑止、笑止、笑止ぃーーーーっ!! 竿が焼け切れるまで大太刀を振るうまでだ!!」
「だからこうやって! なるべく避けたりもしてるんすよ!」
(大太刀をまっすぐ振り下ろすだけなのが幸いしてるっすね)
《
こだわればこそ、
(くう、雷を受けすぎて竿が熱いっす……!)
先に竿が壊れるか、ハーフグローブが燃えだすか。
――否や、反撃だ。
大太刀本来の間合いに今、
「ようやく……、届くっす!」
「ならばこのままたたき斬る!!」
高ぶる
これぞ
一寸の
(仕込み杖ならぬ仕込み竿っす)
ただの部品にあらず。
「うぐぉ!?」
(刺さった――)
飛電ほとばしる白刃は竿にて反発。
後ろ飛びから息を整え、ついに
「ここまでっすよ、八番台さん」
「――……
(……血が、出てないっすね……?)
「し…………、……笑止」
直後、
「――笑止千万!! 帯電体状態であれば傷のひとつやふたつ、焦がしてふさぐことを俺はためらわない! 俺に見えざる
「ありゃま」
「
「おっと、そりゃこっちのせりふっすねえ」
「ふん?」
「そっちに転がってる鞘っすよ、大太刀の鞘」
「昔の剣豪、
「かつての敗北者を俺と重ねるか」
「
「笑止。いや、
「そっすか」
「おしゃべりはここまでだ!」
だが、八双どころか中段にさえ構えられない。
「……なんだ? 動きがっ……、で、できない!?」
「いったいいつから、これほどに……!?」
「おたくがおいらの結界に
「ばかなっ!?」
「わかりっこないっすよ。
ぼうずより脱却せし釣り師が苔むす欄干に背を預ける。
「
「おまえ、なにを言って――」
「
「
「細かい部分は割愛するとして、
釣り糸をリールに固定したのち、
「あ、重要なのは条件じゃなくて人数のほうっす。おいらはしょせん有名無実の二代目
「ふん……、まるでこのまま俺を倒せるかのような口ぶりだな」
「その糸は切れないっすよ。もともと丈夫で、しかもおいらの《
「……《気魄》を込めた、だと……?」
数回程度の
「それじゃ最後にもうひとつだけ教えておくっす」
破れたハーフグローブの右手が
握られしは飛電刃にさんざ焼かれた竿一本、
「この竿、実は十六トンあるんすよ」
実にすげなく手放された。
助けがなくば恐怖せしめるのもむべなるかな。
釣り糸でくくられし
――さてもそののち
おぼろになりゆく
グラシズブリッヂの四倒 水白 建人 @misirowo
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