はんぶん怪談②『赤ん坊』

@tsutanai_kouta

第1話


私の住む安アパートは防音がなってない。

だから猫にさかりがつく時期は、夜になると鳴き声がうるさくて仕方ない。


今日も猫がしきりに鳴いてる。

あまりにうるさくて窓を勢いよく開けて外をめ回した。


猫は窓を開けた瞬間、ピタリと鳴くのを止めた。姿も見えない。というか1階の私の部屋の窓からは、嫌がらせのように間近まぢかに立つブロック塀しか見えない。

…家賃が安いだけのことはある。


私は溜め息をつきながら窓を閉めようとしてブロック塀と窓の間の地面にいくつもの足跡があるのに気づいた。


猫の足跡とは違うような?と思い、しばらく見ていて気づいた。それが小さな人の足跡、つまり赤ん坊の足くらいの大きさの足跡だと。そのどれも裸足はだしだった。


そう言えば、さきほどまで聞こえていた猫の鳴き声、あれは猫というか赤ん坊の泣き声だったんじゃ…。


そこまで考えて猛烈もうれつに怖くなった私は窓を閉めようとしたが、何かに引っかかり途中で止まった。


私の視線が引きつけられるように窓の下の方にある“それ”を見た。

“それ”は窓を強くつかむ、赤ん坊特有の丸くて小さな手だった。


私が固まっている間に、赤ん坊の手は1つ2つと増えていき、その全てが窓の端をつかんだ。


私は弾かれたように飛び退き、振り向きざまにドアに飛びつく。もどかしく解錠すると、外に転がり出た。そして裸足のまま走って逃げた。


 ********


私は近くの交番まで裸足で走った。

常駐していた警察官は驚き、何があったか聞いてきたが、私は説明する気力もなく電話代だけ借りた。だってスマホも財布も部屋に置いてきたから。


私は警官に礼を言って交番を出ると公衆電話を探し回り、ようやく見つけた後、友人に連絡して迎えに来てもらった。



その後は、もちろん引っ越した。

後になって私が住んでたアパートは水子供養みずこくようの塔を取り壊して建てたことを知った。





 ─了─


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はんぶん怪談②『赤ん坊』 @tsutanai_kouta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ