はんぶん怪談①『2人乗り』

@tsutanai_kouta

第1話


俺が夜道を帰っていると向かいから自転車が来た。若い男が乗っており、荷台の髪の長い女は男の腰に両腕を回している。


やっかみ半分に「2人乗りはダメだろ」と、つぶやきながら脇に寄り、自転車が通り過ぎるのを待った。


自転車とすれ違いさま、後ろの女と目が合う。女の両眼は洞窟どうくつのように真っ黒で、青白い肌からは反対側が透けて見えた。


腕に鳥肌が立ってるのがわかる。

アレは明らかに生きた人間じゃない…!

その場を足早あしばやに離れた。


しばらく競歩きょうほのように歩いていたが、その足がピタリと止まる。


何故ならコンビニのガラスに真っ黒い眼をした女を背中に乗せた自分の姿が映っていたから。


 **********


俺は回れ右して駅に向かって戻り始めた。

背中の“アレ”は目が合ったら、こちらに移動した。てことは他の誰かと目が合えば、その誰かに移動するってことだ。

ならば、人が多い駅前が確立は高くなる。


駅前を右往左往うおうさおうした結果、1人の女性が俺をおびえた目で見て、すぐに顔をそむけた。そして足早あしばやに歩いて行く。


俺は見た。その女性がカーブミラーの下を横切った時、ミラーには肩車された“アレ”が映っていたのを。


悪いが小さくガッツポーズした。

これで安心して帰宅できる…と思った時、俺の横をごつい四駆よんくが通り過ぎた。

四駆よんくの窓ガラスには“アレ”を背負った俺のシルエットが映っていた…。


俺はまたしても立ち尽くす。

口からは思わずボヤキがもれた。


「クソッ、移動じゃなくて増殖ぞうしょくしてやがる…!」




 ─了─

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