めがね③。多重人格美少女(20歳)再び。
崔 梨遙(再)
1話完結:1700字。
研修会社で、研修の講師をやっていた頃のお話。その娘(こ)は若手向け就職支援研修の受講生だった。その受講生の名は竹原小春(20歳)。小柄で華奢な眼鏡っ子だった。ロリコン趣味の男性や眼鏡フェチの男性からモテていたらしい。頭の回転は速い娘だった。研修内容を習得して実践するのが得意だった。だが、考え方などは、当然、まだ若かった。
研修の内容としては、企業が新入社員研修でやるような、報連相、名刺の渡し方・受け取り方、電話応対、ディベートなどが多かった。また、業種や職種によって求められるスキルを考えさせたり、履歴書や職務経歴書の書き方を考えさせたり、模擬面接などもした。それらを懐かしいと感じる方も多いのではないだろうか?
会社の中では、小春は“あの娘は多重人格だから、ちょっと注意するように!”と言われていた。だが、何を注意すればいいのかわからない。研修の数時間の間に人格が入れ替わることもあるのだ、後手後手に回った対応をするしかない。
優しく明るい優等生キャラ、すさんで斜に構えた皮肉屋な不良キャラ、細かいことに妙にうるさいガミガミキャラ、ふてくされてずっと喋らないキャラ、僕が喋る隙を与えないほど雄弁なキャラ等々、幾つものキャラが出て来る。キャラによって目つきが変わった。
そんな小春も、研修の修了で、仕事で会うことは無くなってしまった。と思ったら、研修修了後に連絡があった。僕が渡した名刺から、僕の番号を見つけたらしい。
ネットラジオをやっているので、リスナーになってほしいということだった。小春は、中古の漫画本(テニス〇王子様)の最初の5巻を持ってきてくれたり(お返しに、他のみんなの分も忘れずケーキを差し入れた)していたから、まあ、ネットラジオを聞くくらいはいいかな? と思い聴き始めた。
やがて、スカ〇プでのネットラジオへの参加を求められた。まあ、そんなに長時間じゃないしいいかな? と思ってネットラジオに僕も参加するようになった。
小春は声優志望だった。なので、バイトにもこだわりがあった。イベントMCやテーマパークのアトラクションMCなどに応募しては不採用になっていた。我流で声優の勉強をしていて、何故か声優事務所のオーディションには行っていないようだった。出来れば、専門学校などの声優学科をオススメしたかったが、専門学校は授業料が高いので、結局、僕の方からオススメすることは無かった。
どうして小春が僕に好意的だったのか?多分、僕は否定的なことを言わないからだと思う。それは誰に対しても同じだ。僕は、基本的に他人を否定しない。それが、いつも受講者から好意的に受け取られる。結果、研修修了後も連絡が来たわけだが、小春は病んでいるので、突き放せなかったのだ。本当は、研修が終わった後は連絡をしてほしくなかった。こいうところが、僕の甘さなのかもしれない。
ネットラジオの話に戻る。小春は声優志望だったので、ネットラジオでもラジオ劇を披露することが多かった。僕以外にも数人、小春のネットラジオの参加者がいて、役割を与えられて劇をやる。だが、僕は台詞が棒読みになる。それをわかっていたので、1番台詞が少ない役(村人Aとか)にしてもらっていた。
ところが、或る日、ヒロインの相手役を僕に振られた。準主役。台詞が多い。放課後の学園モノだったと記憶している。僕は自信が無かったので断った。だが、
「順番に準主役をやってもらっているので、やってもらわないと困ります」
と言われて断れなかった。
で、結果……最初の1行で猛烈なダメ出しをされた。反論すると話が長くなると思い、僕は無言だったが、小春の説教は1時間以上続いた。僕は声優志望ではないのに。その日の小春は、“細かいことにうるさいガミガミキャラ”だった。僕にとっては不運だった。
その後もネットラジオに招待され続けて参加していたが、ありがたいことに徐々にフェイドアウトすることが出来た。
数年後、24~25歳になったはずの小春のツイ〇ターに、結婚の報告が記してあった。多重人格の女性を受け止められる、器の大きい男性がいたことと、その器の大きな男性と出会えたことを、僕は祝福した。
めがね③。多重人格美少女(20歳)再び。 崔 梨遙(再) @sairiyousai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます