冒険者?俺を呼ぶならマテリアルハ「紙ヒコーキ作るァ!」おいやめろそれは貴重な

鍛冶屋おさふね

第1話 マテリアルハンター

 俺の仕事はマテリアルハントを生業にする冒険者。

 鍛冶、細工、彫刻、錬金術、裁縫、付与術とありとあらゆる生産活動にとって重要な「素材」をハントすることが俺の仕事だ。

 例えば鉄や銅、牛皮や羊毛ならそれらは採集や飼育で得ることができる。綿ならば畑で取れる。

 しかしドレイクの皮やサーベルアントの牙なんかはそう簡単には手に入らない。それらは冒険者からの供給が頼みの綱だ。

 そしてさらに貴重なのが、そんな危険地帯でしか発見できないような希少素材だ。

 モンスターを倒す武勇やダンジョンを踏破する実力があったとしても、それらを目利きして持ち帰る事ができなければそんなものは市場に出回らない。それらを手に入れるのが俺の仕事というわけだ。


 しかし、希少であるということは参入者が多いということでもある。

 鍵開けや道案内を主にする冒険者達たちはこぞって情報を買い、目利きの方法や採取の方法を集めてどんどん参入してくる。

 俺のようにソロをメインにするマテリアルハンターなんてのは──


「世知辛いねえ」


 財布の中には銀貨数枚と銅貨がジャラジャラ。

 そろそろ、懐に優しいものを持ち帰らないとまずい。さもないと病気でもないのに消化に優しい麦粥を食うハメになる。

 俺は胃に優しくなく力が湧いてくるようなものが食べたいのだ。

 そう思いながら、眼の前の洞窟を眺める。


 俺のフィールドは、主に鉱物分野だ。

 実家が鍛冶屋だったこともあって、ボタ山の石塊と鉱石の見分けなんか物心ついたころには当たり前だった。

 どれくらい金属が含まれてそうかの判断や、様々に変化している鉱物や金属の判別も今ではお手の物だ。


 問題は、目利きできるだけの鉱石を採取してくるのが、そもそも大変だということ。

 ピッケル片手に奥地に駆け込んで敵がやってくるまでにできるだけ採掘したり、敵を巻きながら少しずつ倒して隙を見て怪しい所で採掘したり。

 それを都度都度鑑定しながら引くか攻めるかを決める。

 

 最近は引いてばかりだ。掘れても銅、悪ければ鉄。

 鉱石山ひとついくらのものをソロで採掘なんてしても稼げるなんて言葉とは程遠い。

 それこそ防具の隙間に押し込んで駆け抜けて離脱してもそこそこに稼げるようなものでないとワリに合わない。


 この洞窟はアタリか?ハズレか?

 実は入る前からある程度は目星は付けられる。

 この洞窟は北方に卓上大地が広がる大山脈の麓にある。

 卓上台地がどうやってできたのかはどうでもいい。重要なのは、その側面は地層が露わになっていることだ。

 この洞窟はその側面部にある。

 

 何者かが掘ったわけではなく、崩落して空間の入口が開いたような様子。

 天然洞窟だろうと踏んで、希少鉱石が眠っている可能性を強く感じる。


 愛用のヘルメット手に取る。

 中骨は鋼。外装は革。擦れや汚れも愛着のうちだ。額に当たるところには魔道具のヘッドランプが取り付けられている。

 良く馴染んだそれを被って、革製の留め具を引きながらカチリと固定し、ヘッドランプに魔力を通し点灯させた。

 次に防具の上にザックを背負い、革帯で身体に固定する。

 太腿に沿わせるように身に付けている幅広のショートソードの柄を握り、鞘から一気に引き抜けるか、緩みがないかを確認。

 最後に革手袋をギュッとはめ直して拳を握り、開く。

 準備よし。


 愛用のピッケルを片手に洞窟に踏み込んで奥へ奥へと進んでいく。



 洞窟の中というのは、だいたい年中同じくらいの温度で、ジメジメとしている。

 これが異様に蒸し暑くなったりしてくると火山活動に近くなってその先に恐ろしく深い穴が開いていたり、地熱や温泉の影響があったりするものだが、ここはそうではないらしい。竜の巣という例外もあるが、それなら大型生物の痕跡がある。

 この洞窟には生物っけはなく、空気はひんやりとしていて、淀んでいるだけだ。

 最も注意すべきは、蟲の類いだろう。


 足元だけでなく壁や天井にも注意を払って鉱石を探しつつ、しばらく奥に進む。

 すると自然洞窟らしい起伏と岩盤の裂け目といった様子だったものが、広い空間に変わった。

 まるでギルドのホールのような、立派な広さの空間だ。


 妙だ。


 岩陰に身を寄せて、動きを止め、様子を伺う。

 足元に転がっている石塊を拾って、重さを確かめながら手の中で転がす。


 ここまでは石英質まじりの岩盤が主で、たまに鉱石の中にエレクトラムが含まれているのを見つけてホクホクだった。

 が、ここに来て転がっている石塊の質が変わった。

 削られたか砕かれたかしたような砂礫に、周囲とは雰囲気の違う大理石のような石。

 

 削れられていることも妙だが、この破片はなぜか、都市で使われている大理石の破片のように見えるのだ。

 

 ランプの出力を調整しながら、空間の端から端までじっくりと照らして索敵する。

 モンスターの類が出てくる様子はなさそうだが、広い空間の奥になにかの構造物があるのが見える。


 ピッケルを背中に架けて、剣に持ち替える。

 腰だめに剣を構えつつ奥へ、奥へ、と進んでいく。



 果たして、奥にあったのは石材の塊だった。

 正確には祠のようなものだ。ちょっとした小屋くらいの大きさの。


 とにかく警戒を最大にして周囲を巡って、検分をする。ついでに希少なモノがくっついていたりしないかも確かめつつ。

 そして、だんだんとその異様さがわかってきて腰が引けてきた。


「継ぎ目がねえな……。なんだ、これは……。」


 まるで一枚岩から削り出したような様子で、ここにあった大岩を削ったにしては今まで見てきた岩と質が違いすぎる。

 今度は魔法か何かの痕跡がないかを探っていく。

 魔法陣や、ルーンなどが刻まれている様子はない。

 ただのっぺりとした岩がそこに安置されているように見える。


「ワケがわからんな……」


 ため息をついて、ピッケルを手に取る。


「しかし、自然物じゃあないなこれは」


 よし。ちょっと叩いてみよう。

 何らかの意図があってここに置かれているのは間違いないのだが、意図が全くわからない。

 退路が悪いわけでもないのだから、最悪は駆け抜けて逃げよう。


 そう心に決めてピッケルを振り上げて先端を叩き込むと、ヒビが走って表面が剥がれ落ちるように崩落した。


 まさかのこの巨大な塊は、チェストなのか?!と期待に胸を膨らませながら剥がれ落ちる様子を少し離れて観察していたが……。


「んだよ。表面がごっそり剥がれただけかあ・・・」


 中には再び石。今度は大理石のような様子ではなくセメントを固めたような具合のものだ。

 あらわになった、このつまらない中身をじろじろと見ていたが表面にきらりと光るものが見えた。


 ゆっくり近づいてみた所、それは丸い部分と骨のような部分とがところどころ覗いているような様子だ。

 強いて言えば、金属っぽいスケルトンがセメントに埋まっている。


「おーーーほぅ!遺物がきたか!きたか!?」


 思わず声を出してしまってハッとした時、埋まっているスケルトンの目に紅い光が宿った。

 それを見るやいなや剣を抜いて数歩離れ、最悪は撤退だと考えながら様子を見る。


 ゴゴゴゴッという音がその壁面から聞こえ、埋まっていたスケルトンの周囲にある部分が砕けて地面に落ちてくる。

 

 今ならぶっ叩いて一撃入れられる。

 硬そうな表面を見るに歯は立たなそうだが構造を壊せれば勝てるかもしれない。

 こいつの材質次第では結構な稼ぎになる。

 よしんば出てきたところで今なら一方的に叩ける!


 引かんぞ!今日の、俺は、引かないのだ!!

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