第52話 異・界・接・触 2
「いやはや、率直にいって驚いたよ。これまで『魔法』に触れたことなど無かろうに、こうも短期間で基礎をモノにしてくれようとは」
「そうだろう。ウチの末娘は賢いからな」
「うむ。……いや、確かに『此の世界』に最適化した理論ではあるがね。まさかその再現性がヒトならざる者、しかも――」
「何を言っているのか理解できないな」
「………………すまない、確かに失言だった。我が銘において心よりお詫びしよう、どうか気を悪くしないで頂きたい」
「その反応だけで充分だ。それよりも……頑張ってるみたいだな、スー」
「……………………んっ」
仮にも行政機関に、こうも容易く部外者が入り込めるのもどうかと思うが……しかし合法的に招き入れて頂いているので、私に落ち度は無い。
事前に訪問の約束を取り決めている上、正面から堂々と訪問しているのだ。どう考えても不法侵入ではない。
局長執務室に至るまで、ものすごい数の視線を浴びていた自覚はあるが、きっとこの銀色頭が珍しいからであろう。
この胸に揺れる
この国の『魔法』関連部門の、名実ともに最高責任者である。
目の前で上機嫌にコーヒーを嗜む女性の、錚々たる肩書の数々を思い起こし……今更ながら身が引き締まる思いだ。
「……そう見つめてくれるなよ。君のような美少女に熱視線を向けられては……妊娠してしまう」
「冗談は経歴と肩書だけにしてくれ。……じゃあ報告、始めるぞ。忙しいんだろう」
「ふふ、つれないなぁ。……ステラ女史のお陰でね、こうして休憩する時間を捻り出せるようになったんだ。まさに革命だよ」
「どうなってるんだこの国の労働環境は……!」
無論私とて、この多忙極める総責任者とわざわざ歓談に来たわけではない。
私達が進めている交信計画の全貌と進捗具合に関して、報告および助言を得るための会談……意見交換の場というわけだ。
……ちなみに、応接用のソファ席にて和やかに向かい合う我々だが……私に身を預け撫でられるままのスーは、現在進行系で業務処理の真っ最中である。
プリミシア局長がこうも余裕ぶっこいて居られるのは、スーの力添えをアテにしてくれているからなのだろう。
私達が時間を貰っている側だものな、異存は無い。頑張ってくれているスーのことは、近いうちに何らかの形で労ってやらなければ。
「『アンテナ』設置地点は、以前渡した計画書のまま。最低到達目標を地殻の半分と定め……現在の進捗は、目標の二割弱ってとこだ」
「凄まじいな。どうせなら『世界一深い穴』でも掘ってみて貰いたいが……地権者に迷惑は掛けられんか」
「地権者の許可は得てるぞ。さすがに規模が規模だからな、貸借じゃなく正式に買い上げて貰ってる。私達の協力者が現在の地権者だ」
「さすが、手が早い。……掘削の方は順調かね?」
「今のところは、どうにかな。先端付近の温度は70℃前後、今はまだ問題ない。今後このペースで上がっていくと考えると……どこまで耐えられるか」
「掘削深度が、そのまま『アンテナ』の長さ……つまりは交信の精度に繋がるわけか。可能な限り稼いでおきたいだろうが……」
……難しい顔をしているプリミシア局長には申し訳ないが、正直あまり不安視はしていない。
実際に掘削を担当するのはシシナ指揮下の【イー・ライ】であり、その活動は掘削というよりは『侵食』によるものだ。
ドリルビットの刃が鈍ることもないし、シャフトの延長に伴う動力ロスも考慮せずに済む。
懸念となるのは活動限界温度の一点のみだが、とはいえ大気圏突入時の高温を耐えた彼らである。ヒト等の有機生命体よりかは高温に適応し易いだろうし……なんなら融点の極めて高い金属塊でも支給してやれば良い。
体組織の表面を
ほかでもない【イー・ライ】自身と意思疎通が行えるシシナの見解である。信憑性は高いと言える。
「…………プリミシア」
「『局長』もしくは『ちゃん』付けで呼んでくれたまえ。……どうしたね?」
「…………メッセージ、新着。……かあさま、にぐ……仲介の、要請」
「無視して構わん。……出処には予想が付く。建設的な話の出来ん奴らだ、動機などせいぜい『有名人と会いたい』程度のソレであろうよ」
「……無視…………わかった」
「………………すまない、手間を掛ける」
「何を言うか。今日此処に至るまでの貢献が凄まじかろうと、君達はあくまでも
「お遊戯、ねぇ…………何か知らんが、そんな期待されてるのか? 私らは」
「気にする必要は無いさ。私も……あと特定害獣対策本部の面々も、きちんと心得ているとも。業務外で君らの手を煩わせたりはせぬよ」
「……知り合えたのが貴女で良かった」
「ふふっ。……ありがとう、最高の褒め言葉だ」
魔法少女達の中には『広報活動』という名目で、積極的に芸能活動に勤しむ子も居るのだと、以前【
先の『メッセージ』とは、恐らくその類のもの。今日私がこうしてプリミシア局長のもとを訪ねていると聞きつけた何某が、何だかんだ理由を付けて私達と面会……懇意である画を撮りたいのだろう。
別にそういった『広報活動』が悪いと言うつもりはないが、私は誰かの人気取りに使われるなど真っ平御免だ。
そのことを、きちんと理解してくれている。恐らくは周囲の敵意を集め、嫌われることになるだろうに……そういった声を撥ね退け続けてくれているプリミシアには、頭が上がらない。
やはり彼女は――彼女の属する組織どうこうは置いておくとしても、少なくとも彼女個人は――信用するに値するだろう。
スーの力添えを始め、私達が力になれることがあれば……積極的に恩返しを図りたいところだ。
……まぁ、そのためにも……まずは。
「恐らくだが……ひと月程度あれば、目標深度まで『アンテナ』を伸ばせると思う。例の魔法、それまでに頼みたい」
「心得た。…………ふふ、久し振りに遣り甲斐のある教え子だ。私も楽しみだよ」
「……世話になるな、うちの娘が」
「何の。……私の仕事を肩代わりしてくれた上、斯様に愛らしい弟子に慕われるとあっては……もはや役得以外の何物でもあるまいよ」
「ん………………がんばる、ます」
「良い子だ」
交信作戦の前提条件は、ほぼほぼ予定通りにクリアされつつある。
万が一の際に備え、この世界における暫定最終戦力とも、良好な関係を築けている自負がある。
打つべき手は全て打って、出来る備えは全て用意して、しかし焦らず着実に……来る『そのとき』に向けて、一歩ずつ進めていこう。
……交友範囲も広がり、出来ることも増えてきて、せっかく楽しくなってきたのだ。
それがこんなところで、こんな詰まらない
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