第49話 審・全・試・合 2



(……さて、試合開始から間もなく十分が経過しようかというところですが……どう思いますか? 解説のディンさん)


『あいっ! スーもプリミシアも元気いっぱい、楽しそうと判断します!』


(…………まぁ、そりゃ確かにそうだろうが……というか、はさすがに『楽しそう』の域を超えてる気が)


『あいっ! ユシアの魔法技能によって周辺被害抑止、完全に封殺を達成しています! スーとプリミシアにこにこ、被害無し、楽しいであると判断します!』


(…………えっと、あの…………はい)




 これは私の個人的な感覚なのかもしれないが……絶対的な防御を展開しながら強力な攻撃を垂れ流すのは、ハッキリ言って反則だと思う。


 攻撃は攻撃、防御は防御。普通はであるべきだろう。

 どちらか片方だけ捉えてみても『なかなか』以上に強力なそれらを、遠慮なく両立させてしまっている。

 ……これを反則と言わずして、何と言えばいいのだ。




「……はっは! やはり【蝕花アスフォデロス】程度では止まらぬか! よもや呼吸器を用いていないのか? 一体どういう身体構造なのだろうな!」


「………………もく、ひ」


「くくく……良いぞ、次はどうする? どう打ってくる? 何を試してくれるのだ? 存分に足掻いて見せてくれたまえよ!」


「………………こわ」




 ……うん、私もそう思う。


 スーも『魔王』プリミシアも、ビュンビュンと目まぐるしく動き回るような戦い方は、どちらかというと性には合わないらしい。

 距離を詰めて殴りに行くのではなく、投射系の攻撃手段を放ち、遠距離から高火力で畳み掛け。

 避けるのではなく、迎撃あるいは防御の手段をもって、放たれた攻撃の無力化を図る。

 両者の立ち浮かび位置はほぼそのまま、多種多様な攻撃が目まぐるしく飛び交い、周囲の地面に盛大な破壊を振る舞っていく。



 蔦を召喚しての物理攻撃やら、魔力を集めたものであろう集束光線やら、嵐のような連射速度のつぶての猛雨やら、何らかの状態異常を齎すであろう毒の粉塵やら。

 手を変え品を変え降り注ぐ攻撃を、スーは防御態勢の【マーキュリー】にて器用に防ぎ。


 流体金属【マーキュリー】を放ち、あるいは鞭状に変化させて殴り付けたり、ときには指先からの集束光学兵器パルスレーザーや、果ては極小型無人兵器ドローンを用いた物量攻撃を仕掛け。

 しかしながらそれらは全て、絡み合う根のように複雑なプリミシアの魔法紋によって阻まれる。




『んゥー……スー、すごく楽しそう。表現拝借、よゆーぶっこいてやがる、判断します』


(あの不良魔法少女どもの口真似は止めなさい。……まぁ、余裕ぶっこいてるのは確かだろうけどな)


『同意します。防御にわざわざ【マーキュリー】利用する、非効率的です、判断します。スーの演算処理速度、空間防壁の展開速度、強度、展開枚数、全てにおいてワタシより高水準です』


(防御運用時のデータ収集でもしてんのかね。……実際のところ、貴重な戦闘データであることは確かなわけで)


『んゥ……肯定します。防護障壁、許容量以下の衝撃全てを遮断する性質を持ちます。流体金属の【マーキュリー】に擬似的な感覚器を構築、被弾時に敵攻撃パラメータの収集を『ついで』していると推測します』


(ちゃっかりしてるなぁ、ウチの末っ子は)


『同意します。ちゃっかりで、しっかりしてる、むっつりさんです。ワタシのいもうと、スーは可愛いいもうとです。……んへへ』




 周囲への被害を考慮せずに済み、また生半可な攻撃では破損しないマトが立っているとなれば、それは攻撃手段の『実戦試験』として理想的な状況といえる。

 今回が初の戦闘稼働となるスーにとっては、それこそ恰好の試運転と言えるだろう。両手指からの集束光学兵器パルスレーザー指向性放電機構ディスチャージャー等、機体固定武装の使用感を確かめるように、入念に試行を重ねていく。


 また同様に、その有り余る情報処理能力を活かした特殊装備――昆虫を模した極小型無人攻撃機ドローン――の大規模運用に関しても、ここぞとばかりに実戦試験ならびにデータ収集を行っていく。

 空間干渉力場を纏うことでそこそこの防御力を備えておきつつ、それそのものを大量に吶喊させることで物量での制圧を行う。隠蔽機能をオミットすることで大幅な小型化を実現させた『新型』は、ローコストでの大量配備が可能なのだとか。




(いや、でも…………拾われて解析とかされたら、マズくないか?)


『ご安心を、艦長ニグ。当該攻撃端末【MODEL-LOCUST】は、稼働全機に自滅機構を設定しております。こちらは端末機能停止時、極小範囲に空間破砕処理を実行するものであり、物的証拠隠滅に加えて非常時には特攻兵器としての用途も期待できます』


(今後は絶対にヒトに向けて使うなよ!? 今回だけだからな!?)


『当然です。ワタシは艦長ニグの『いいつけ』を遵守致します。……いい子、ですので』


(………………そう、だな。……あぁ、そうだった)




 自らの機体の長所を活かしつつ、私の意に沿う形で試行錯誤を繰り返し、私の思っていた以上の完成度を誇る戦闘パターンを示してみせた、我らの末っ子。

 ここまで見事な運用を見ることができただけでも、今回の模擬戦闘は充分な成果であったと言えるだろう。


 発起人であるプリミシア局長は、尤もらしい大言壮語を述べていた気もするが……それはあくまで後付け理由の一つでしかないということ、単純に『思う存分暴れたかった』のだろうということは、なんとなくだが想像がつく。

 つまり我々は『良いように使われた』だけだと言えるのかもしれないが……まぁ、実戦投入前に試験運用ができたことと、攻撃および空間干渉魔法のデータが幾つか回収できたことなど、得るものもなかなかに多かった。不満は言うまい。



 ……あとは、この……イイ感じに盛り上がっている『魔王』に、どうやって正気に戻って貰うかというところなのだが。

 ここまで楽しそうに騒がれていては、ちょっと窘めてみた程度で引き下がってはくれまい。満足させてやるしかないだろう。




「……ユシア課長」


「はい、何でしょう? アルファ様」


「えー、っと…………周辺被害を防ぐ魔法、って……どれ程まで『大丈夫』なのでしょうか? 私とディン以外の……その、『観覧客』の皆さんの安全も含めて」


「…………そう、ですね。…………こと『封殺』のみに絞れば、ですが……核弾頭の一つ二つ程度であれば、無効化してしまえる程度には」


「……………………凄い、ですね」


「恐れ入ります。……まぁ、その分制限も多いですがね。私も魔王様も……詳しくは申せませんが、さほど国土から離れられません」


「……この場にいる限りであれば、つまりくらいなら被害無しで抑えられる……と」


「っ、………………その……どうか、お手柔らかに」


「善処します」




 特定の地点に特化させることで防御効果を大きく高める運用手法は、私達の技術要綱にも存在している。

 ユシア課長の行使する魔法とは、恐らくその類のものなのだろう。


 この国の首都東京の、政治中枢をなんとしても守るため。考えたくもない『最悪の事態』に備えるための、拠点防衛魔法。

 汎用性を犠牲に一芸を求めたその能力は、本人いわく『核爆発の一つや二つを抑えきる程度』とのことではあるが……とはいえ、十中八九過小証言だろう。

 スーが私の手の内を晒すまいとしているように……ユシア課長や『魔王』のほうにも、まだまだ伏せている手札があるに違いない。


 ……まぁ、そのあたりは別にどうでも良い。私はこの国の侵略を企てるつもりは無い。

 要するに『核爆発ふたつ』以下の破壊であれば、彼は抑えきってくれるということ。そこさえ確実なのであれば、問題は無い。




「…………ユシア課長、心の準備をお願いします」


「ぇええええ…………承知しました」


(っというわけで……そうだぞ、スー)


『了解致しました。……大型転送ゲート、構築開始』


「……ははっ! 今度は何を見せてくれるのかね!?」


「…………いち、げき、きょうだ。……ぼうぎょ、すいしょ」


「………………ほう」




 頭上に構築されたのは、直径五メートル程度であろう転送ゲート。戦略資材搬送に用いられるものの中では最大規模の代物とはいえ、それそのものは決して『強打』できるモノではない。

 現実世界への被害を抑制する魔法結界が張り巡らされ、練兵場として仕立て上げられたスタジアム内……荒れ果てた地表面から十メートルほど上空、真下を向くように開かれた亜空間。


 そこより現れるを迎え討たんとプリミシアは動きを止め、それによって不気味に静まり返った練兵場。

 私とディンがいそいそと場所を変え、また只ならぬ気配に見物客が固唾を呑んで見守る中。




『――機械励起アクティベート限定出力リミットベース。対地攻撃砲【アポロ】、発射トリガー




 そこへやがて、『強打』の撃鉄が振り降ろされ。



 光の柱が、突き立った。




――――――――――――――――――――




模擬戦もう一話くらいで終わります(すごいあっさり風味)


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