第33話 悠・々・平・穏 1




 私達の主たる『おシゴト』にして、大きな存在理由である行動目標こそ、何を隠そう特定害獣『魔物マモノ』の討滅である。



 比較的脅威度の低い魔物マモノ出現時は、先輩である『魔法少女』達に直接対処して貰い、私達は高高度の揚星艇キャンプ船外カメラにて状況俯瞰に徹する。

 周辺や魔法少女達に被害が生じそうになれば、速やかに加勢するように用意はしているのだが……実際のところ、この国の魔法少女達、そしてその援護体制はなかなかに優秀である。

 当初こそ脇目も振らずモニタリングしていたが、最近は専らスーに任せっきりで、私は目を離してしまっていることが多い。


 彼女達とて存在する以上は『おシゴト』を期待されているわけで、あまり私が出しゃばり過ぎても彼女らの活躍の場を奪ってしまうだけだろう。

 ……度し難いことだが、人気度やら注目度やらランキングポイントやらを高めるためには、何よりも『目立つ活躍』こそが求められる。

 それらを重要視する子らにとっては、魔物マモノの出現は待ちに待ったアピールタイムでもあるのだ。



 ただし……スーの有視覚索敵によって『高純度ΛD-ARK反応の集束現象』とやらが観測された際には、話が変わってくる。

 それによって現出するのは、危険度が一回り以上増した『変異種』の魔物マモノであり、魔法少女が小隊を組んで対処に当たるような敵個体である。


 日本全国を(晴天・昼間に限り)リアルタイムで監視しているスーによって、私達は(晴天・昼間に限り)魔物マモノの出現に先んじて行動することができる。

 『変異種』出現の兆候が見られた際には、こちらから『対策本部』へと一報を入れた後、私達が前面に立って対処に臨む形となる(※ただし晴天・昼間に限る)。


 ……後手に回ってしまった際は、それはそれで仕方無い。

 連絡を貰ってから慌てて馳せ参じて、魔法少女達に被害が出ないようにお手伝いをさせて頂く。……そんな感じだ。




 シシナが我々の一味として加わったことで、また色々と調整が必要になるかもしれないが……まぁ、要するに。

 一部の例外的な『変異種』への先行対処を除けば、私とディン(とシシナ)はほぼほぼノータッチで済んでいるというわけだ。スーの貢献が半端ない。


 そうだな。やはりこれは……入念に労っておかなくては。




「ゥあい! ワタシ、任せてください! たくさんいっぱい『ねぎらい』します! テテちゃんこっち〜!」


「……じゃあ私は…………おいで、ススちゃん。……ほら、よしよし」


『……あっ、あっ…………あっ、あっ』


「ふふっ。…………そんなに良いか? 二匹同時だもんな」


『じ、じゅっ、充足に値する療養効果であっ、あっ、あると判断あっ、判断致しあっ、あっ、致します』


「………………なんか面白いな」


『あっ、あっ、あっ、あっ、』


「んふふふ〜〜。テテちゃん、気持ちよさそう。感情表現『かわいい』共有します!」


「……意外と愛嬌あるんだな、鳥って。こんなじっくり撫で回したこと無かったわ」




 情報収集を自らの主任務と定義しているスーにとって、地表での視覚を街頭や施設の監視カメラに頼らざるを得ないことは、一つの懸念であったらしい。


 普段は揚星艇キャンプの高感度対地探査カメラによる俯瞰にて、基本的な観察任務を処理しているわけなのだが……それだけでは色々と限界がある。

 雲に阻まれたりアーケードに覆われていたり、建物の影だったり建物の中であったり、これまでそういった場面ではあちこちに点在する防犯カメラを拝借して視覚を得ていたのだが……やはりそれらはどうしても、配置場所と画角に制限が生じてしまう。


 ならばと自前の索敵用無人機ドローンを持ち出してみても、やはり地表ギリギリや建物内での情報収集は困難であろう。

 隠蔽状態での潜航が可能とはいえ、無人機ドローンではせいぜいが視覚的や電波的な隠蔽が限界だろう。あのサイズでは動作音や排熱等の、いわゆる『気配』を完全に消すことは出来ないのだ。



 そんな諸問題を解消するため、私達【Οδヒト】型やミミちゃんたち【Λγネコ】型で培ったノウハウを基に、スーおよび母艦ファクトリーは新たなる自律探査機をロールアウトした。

 先日のラシカ連邦侵入作戦の折、私とシシナが地下研究施設へと潜入しているときに、ついでとばかりに『素材』を回収していたらしい。



 そういった経緯で誕生した、2機の【Λψトリ】型探査機。

 『街中の景観に溶け込む鳥類』としてスーが立案し、その中でも高性能な種をと考察を進めた結果行き着いた、しかし街中の景観からは多少浮いてしまっている気がしなくもない、立派な体躯のその姿。

 艷やかな漆黒の羽毛に身を包み、ヒト種の幼児程の知能処理能力を持つと言われる、本来は北国を生息圏とする大柄な『ワタリガラス』のペア。


 私が撫でているのが、高性能な視覚素子カメラと高精度な指向性環境集音器マイクロフォンを搭載した、遠距離精密索敵用の個体……名付けて『ススちゃん』。

 ディンが撫でているのが、本体構造を強化し多少の荒事もこなせるよう調整を行った、近距離強行偵察用の個体……名付けて『テテちゃん』。


 どちらもスーの常用を視野に入れて設計され、またカラスとしての習性を再現したオペレーティングシステムも組み込まれた二羽。

 スーの専用機でありながら、直属の部下とも言えるであろう存在である。




「んゥー? ミミちゃんもなでなでほしい? いいよ、おいでおいで」


「どうしたニニちゃん。ニニちゃんも撫でてほし……ほしいのは枕かぁ。私の太腿で満足か?」



 まだまだ母艦工廠ファクトリー区にてロールアウトした直後、重力下試験も済ませていない『赤ん坊』ではあるが……目的の一つでもあった『スーとの感覚同期』に関しては、問題無く行えているようだ。

 これまでは身体らしい身体を持っておらず、私とディンとの間で少なからず疎外感を感じていたのであろうが……これからは思う存分、スキンシップで労ってやることができるのだ。


 とはいえスー本人は、ここまでのことは考えていなかったことだろう。

 あくまで索敵任務の効率を上げるため、任意の地点に送り込める『目』と『耳』を得るため、私に対して『索敵用子機の製造』を具申したのだろう。


 それを利用し、スーをこうして可愛がるための機能を捻じ込んだのは……完全に私の独断であり、職権乱用にも当たるのだろうが。

 しかし…………私は断じて、後悔も反省もしていない。




「んっ! ……かあさま、すまほ、ぶるぶるきた! シシナおねえちゃん『大丈夫です』回答しました!」


「まぁーた挑発的なトコにスマホ仕舞ってんなぁお前さんは! …………まぁ良いけどな。じゃあ、行くぞ皆。はぐれるなよ?」


「んゥ! ミミちゃんもオッケーです!」


『はい。個体名『ススちゃん』『テテちゃん』準備完了を報告致します』


「……ほら、ニニちゃんも行くよ、シシナさん。…………だっこ? しょうがないなぁ、もう…………ほら」




 このニニちゃんのように小型の重力制御機構を備えているとしても、とはいえ鳥類の身体構造バランスとは非常に繊細なものである。

 鳥類にしては重過ぎるであろう、十キロを超すその身体機体で……果たして自在に宙を舞うことが出来るのか。


 これから行われるシシナさんでの、有重力下での評価試験に期待が高まるところだ。




 期待と歓喜に心を震わせた私達、二人と二匹と二羽……なかなか大所帯になった我々一行は、仲良く『転送』の光に包まれていった。



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