第18話 資・源・調・達 3



 可愛いかわいい少女(型アンドロイド)が『ウチでも飼えるペットあるかもしれないよ』などと言葉巧みに連れ出される事案が、大型商業施設にて白昼堂々と発生。

 そんな事案と関係あるのかは置いておいて……ところ変わって現在我々は同じフロアの反対側、広大な売り場面積を備えた家電売り場へと足を運んでいた。



 ペットショップならまだしも、よりにもよって家電売り場で愛玩動物ペット……もちろん哺乳類や爬虫類なんかが見られるわけが無い。

 顔中に疑問符を浮かべるディンを引き連れ探し出したのは、電気をエサとする無機質な愛玩動物ペット


 卵のような胴体にペンギンのような手と、ディスプレイ表示によって表情を変える目が愛らしい、一般には『ペットロボット』と呼ばれるモノだった。




「………………ゥー?」


「どうだ? ディン。この子ならウチでも飼えるぞ」


「んゥー…………」




 しかし、まぁ。


 肝心の彼女の反応はというと。




「ゥウーー…………ほわほわ、ちがう。ワタシ、否定します」


「そっかぁー……」



 やはり、というか……芳しくはなかった。


 ……まぁそうだよな。そもそも彼女が惚れ込んだのは『猫』であり、先程までぞっこんだったのは子猫なのだ。

 いくら愛らしく振る舞ってくれるとはいえ、ロボットに生命体の代替は務まらない。


 機械由来の存在に『生命』と呼べるものが宿るのか。その切っ掛けは何なのか。再現性は有するのか。

 私でさえ難儀している命題なのだ、少なくともこの時代の惑星地球の技術力では……まだそこまでの解には、到底至れないだろう。




「んゥ…………かあさま。ありがとう」


「…………ん?」


「ワタシ、理解します。ワタシが種族名『ネコ』幼体に、多大なる興味……夢中になる、状態でした。……かあさま、ワタシのための代替提案、ワタシは理解します。全て理解し……ワタシは、ワタシの感情を制御可能です」


「………………そっか。良い子だな」


「んへへ。……ワタシ、かあさまも、スーも、一緒。『ネコ』いない、不満はありません」


「なぁスー、うちの娘最高だと思わないか?」


『当艦の全権限をもって肯定致します』



 ああ、なんて良い子なんだ。ウチの娘は間違いなく世界一だ。

 この子の望み全てを叶えてやることは出来なくとも、たまに欲求を発散させてやることくらいは出来るだろう。


 猫ちゃんを我々の拠点へと迎え入れて『飼う』ことは叶わずとも……この時代の日本国には、喫茶の傍らで猫と戯れることができる店舗が存在しているという。

 例の組織ともひと通りの和解を済ませ、真っ当な収入の目処も立ったことだし……それの世話になるのも、悪くはないだろう。




 そんな指針が得られただけでも、この家電売り場に足を運んだ甲斐はあったと思うのだが……しかし。


 運が良いのか、それとも悪かったのか……もう一つばかりの『おまけ』が付いて来ようとは。





『――外務省によりますと、昨晩ラシカ大使館から発布された声明文には『日本国が隕石と主張する物体において、虚偽の報告をもって国際社会を欺き続けている』『あれは隕石などではない、異星人による直接的アプローチである』などの内容が盛り込まれており――』


「…………………………」


『――クルガン・オレンブルク駐日大使は記者会見にて『賢明な我が国は日本国の欺瞞を正し、正確な情報を得る権利と義務がある』と主張し、先月千葉県芽田穂浦めたぼうら沖へと落着した隕石型特級災魔サイマ、通称«ロートン・シムナ»残骸の引き渡しを求めたということです』




「………………あの、スー」


『…………回答します。過日の国家単位『ラシカ連邦』所属人工衛星接触事象発生時、重戦闘機装【ロウズウェル】外観画像を捕捉された可能性は否定できません』


「…………………………」




 大小様々な大きさの、新型モデルテレビモニターの群れが、国営放送局のニュース映像を一斉に伝える。

 先の『隕石騒ぎ』に関連する推論や憶測は、これまでも多く散見されてきたものの……世界に名だたる大国が堂々と主張してきたとなると、また訳が違ってくる。


 何よりもタチが悪いのは……その指摘があながち間違いでもないどころか、ともすると事実であるという点。

 ……まぁ尤も当事者である日本国政府は、実際どこまで把握しているのかは怪しいところではあるが。



 勿論、クルガン大使およびラシカ連邦が適当なことをでっち上げているという可能性も、無くはない。

 軽率な鎌掛カマカケというか『取り敢えずつついてみよう』程度のノリで調査を名乗り出ただけかもしれないし、『確たる根拠は無いけどなんか怪しい』レベルでの声明である可能性も大いにある。


 それに……仮に日本国の発表が、国際社会に対する虚偽だったとして。

 いやまあ虚偽というか、日本国も『よく解ってない』のが正解なのだろうが……結果として、事実と異なっていたとして。

 それで他所の国に、日本国がなにか直接的な被害を与えているわけではない。罪に問われたり叱責される謂れは無いのだ。



 現状かの国の主張とは、ただ幼稚なイチャモンを付けているレベルに過ぎない。

 『あの隕石のせいで人工衛星が壊れたから、あの隕石は我が国が接収する権利がある』などという突拍子もない理屈に、さも『それっぽい』理由をでっち上げているに過ぎない。


 ……少なくとも、我々以外のほとんどの人々は、そう捉えてくれているようだ。




『――我が国は過去、同じような被害に見舞われた。しかしその際は国際社会へ向け、包み隠さず被害の全容を発布してきた。ところが日本国は真実を未だに隠したまま、被害報告さえ握り潰し、国際社会を欺き続けているのだ』


『貴国に過去落着した隕石は、大使の仰るような『異星からのアプローチ』であったと?』


『その通り。我が国は過去、同様のケースを既に経験している。今回のケースはまさにそれの再演だ。専門的な知識を培った我が国にこそ、日本国が秘匿している地球外物質を解析するに相応しい』


『お言葉ですが大使、我々は貴国に過去落着した隕石が『異星からのアプローチであった』という情報を、今日まで開示されておりませんでした。貴国は今日まで国際社会を欺き続けていたということでしょうか?』


『…………………………次の質問は?』




「………………あの、スーさん」


『…………回答します。……我々とは何の関係も持たない、異なる星系文明による極秘接触があった可能性も、完全な否定には至りません』


「……………………そっかぁー」



 ……仮に、仮にかの国の主張が全面的に正しかったとして。

 今回の«ロートン・シムナ»が異星からのアプローチであると気付いた理由として、かの国が過去同様のアプローチを既に受けていたとして。

 その場合は既に、かの国は異星文明由来の『何らかの技術』を手に入れていることになる。


 スーいわく、我々の前任者以外に惑星仮称【ARS】へと接触した調査植民艦の記録は無いとのことなので……我々が有する技術体系の文明では無いのだとしても。

 この地球文明とは異なる由来を持つ開拓者が、過去既にかの国へと接触を果たしており、文明レベルの向上及び宇宙開発技術に影響を与えた可能性も……全く無いとは言い切れない。



 惑星地球屈指の大国であるラシカ連邦とは……その強大な軍事力もさることながら、宇宙開発の分野においても一・二を争う技術力を持つ国家である。

 そんな強者が、異星文明由来の技術力を密かに手に入れていたとなれば。

 異星文明のもたらす恩恵の大きさを、既にその身をもって熟知しているのだとしたら。


 今回の『隕石騒ぎ』による自国の損害を盾に、何らかの強硬手段に出る可能性も……ゼロとは言い難い。




(…………スー、悪い。か?)


『可能です。国家単位『ラシカ連邦』ネットワークプロテクトレベル、既に算定済です』


(脅威レベルは?)


『脅威レベル算定。国家単位『日本国』比にてⅡ段階上位ではありますが、当艦管制思考の妨げとなるものでは御座いません』


(そうか。……なら、頼む。くれぐれも安全第一で……な)


『…………必ずや、吉報をお届け致します』




 大使館がここまで堂々と宣言してきたということは、既に水面下では活発に動き回っているのだろう。


 日本国政府が首を縦に振らない以上、かの国が『隕石』の残骸を手にする機会は無い。

 EEZの外縁でならともかく、奥深くで大々的な海底探査などさすがに出来ぬだろうし……そもそも艦砲射撃にて機密該当部位は消却済だ。

 どれ程入念に浚ったところで、せいぜいが装甲片……もとい『隕石の欠片』程度しか出て来ないだろう。



 ……よって、動くとしたらの部分。

 あまり考えたくはないが……先方が何を仕出かすかは、現状ではまだ想像が付かない状況である。



 とりあえずは、スーの『潜入調査』に期待するとして。

 私の方でも……出来る備えは、しておこうか。




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