第16話 資・源・調・達 1
私達にとっても、そして恐らくは先方にとっても、色々と得るものの多かった会談やらを無事に終えることが出来。
引き続きの協力と交流を約束し、私達二人(と五感を共有しているスー)は先方の事務所ビルを後にした。
ちなみに……東北管区と近畿管区所属の二人は別件の用事を済ませた後、【
実働一課所属である【
なんでも一課にはそういった『便利な』魔法少女が纏められており、非戦闘時においても色々と活躍しているという。……私はほとんど面識が無いな。
彼女は自身を『裏方』などと称していたが、しかし彼女の持つ『転移』の魔法は非常に有用なものであろう。
魔法少女の迅速な展開に用いられるだけでなく、平時は関係者らの移送や組織内配達などに一役も二役も買っているらしい。
……苦労に見合うだけの対価を受け取っているのなら、私は何も言うまい。
さてさて。
どうなることかと不安であった会談は、凡そ最善と言えるであろう成果をもって幕を閉じた。
例によって監視を続けてくれているスーからも、特に『要警戒』の報告は上がっておらず、魔物の気配は感じられない。
つい先程まではSNSの新着アラートをポコポコ告げていた
つまりは……完全な『オフ』というわけだ。
「かあさま! かあさまっ! ワタシ『信号機』シグナル青を認識します!」
「はいはいそうだね、落ち着こうね良い子だからね。お店は逃げないからね、あと皆さんの視線が気になるよ私は。大人しくしようね」
『ご安心下さい、艦長ニグ。現在周辺環境は『屋外』であると判断致します。個体名『ディン・スタブ』による作戦名『いい子にする』習熟度は、艦長ニグのご期待に沿うものかと』
「…………まぁ確かに、お店の中で『いい子』にしてくれりゃぁ文句無いが」
「あい! ワタシ『いい子にする』おまかせください!」
「…………うん。期待してるぞ」
「エヘヘ〜〜」
かの組織によって貸与され、今や正式に私達の持ち物となった
そのうちの一つが、周囲の地形や地名等を表示する地図機能。……まあ
とはいえ、自在に拡大縮小できる高精度の地図というだけでも、充分以上に有用だろう。
目に付いたランドマークを地図と照らし合わせれば現在位置の特定は可能だし、目的地そのものを検索して探し出すことも容易い。非常に便利な文明の利器である。
『艦長ニグ。ワタシの誘導管制であれば、当該目標地点への高精度ナビゲーションが可能です。旧世代型の携行機器に依存する必要は無いかと』
「野暮なこと言うな。こうして街並み見てるだけでも……なんだろうな、楽しい? とは違うか。……新鮮? ……まぁとりあえず、いい刺激になる」
『………………そうなのですか』
ニコニコ笑顔で周囲からの視線を独占しているディンに手を引かれ、私達は目的地である複合商業施設へ向けて、仲良く歩みを進めていく。
娘を晒し者にしているようで、若干複雑な心境ではあるが……先の『ガス抜き』作戦の一環として、一定以上の効果が期待できることは確かなのだ。
……他ならぬディン自身が、前向きにゴーサインを出してくれたのだ。その意志と判断は尊重してやりたい。
無尽蔵の体力を誇る私達であれば、数十分単位の歩行であろうとも苦にはならない。
駅前のペデストリアンデッキを通過し、接続されている歩道橋を渡り、スクランブル交差点を横切り、そうこうしているうちに目的地へと到着。
見上げる程の規模を誇る複合商業施設には、様々なテナント店舗が入居している。
その中には私の目的である店舗、そしてディンの目的である店舗がそれぞれ入居していることは、既に確認済みである。
相変わらず結構な注目を浴びながらも、とりあえず入り口をくぐって館内へと足を踏み入れる。
これほどの広さと構造の複雑さは、頼れるナビゲーション担当が居れば問題ないとしても……人通りの多さも相まって、別行動はよろしく無いだろう。
うちの子は可愛いからな、攫われたりしないか心配だ。
「ディン、何階? わかるか?」
「ゥ! 3階! わかりました!」
「はい。よくできました」
そんなわけで……先にディンの用事を済ませるべく、私達はエレベーターを呼び寄せる。
上層へと向かう籠が到着し、扉が開くなり『ぎょっ』とした顔を浮かべる他の方々に会釈を返し、まずは私が籠に乗り込み――――
――――ブーーーーーーーー!!!!
「………………」
「…………ゥ?」
「すみません大丈夫です……行って下さい。失礼しました」
先に乗っていた恰幅の良い男性が、何故か周囲から睨まれていたが……どう考えても悪いのは私達なので大人しく引き下がる。
……たまに忘れそうになるのだが、私達の身体は基本的に金属の塊だ。
身長は小柄な少女相応であるが、その重量は実に150キログラムに届かんばかり。ディンは更にセンサー類を追加されているので、プラス5キロ程という総重量を誇る。
それぞれが大人二人分の重量なのだ、エレベーターの利用は控えたほうが良いだろう。
しかしながら一方で、我々の身体はほぼ無尽蔵といえるスタミナを誇るのだ。たかだか二階層程度、階段で上がることに何の痛痒も感じない。
「ほらほら、あんま跳ねるんじゃありません。跳ねるならせめてヒト並みの高さまでにしなさい。他の人に見られたらどうすんの」
「ゥ? ぱんつ?」
「そこじゃなくて! ……いやそれもだけど!」
「かあさま、ワタシ見ていいよ、許可します!」
「誰にも見せない方向で頼みたいんだよなぁ……」
……とはいえ――異常な重量である点ならまだしも――もし人間離れした跳躍程度を見られたところで、今の私達であれば『魔法少女です』で切り抜けられてしまいそうな気がしないでもない。
以前は私達がそう呼ばれることに強烈な違和感を覚えていたが、彼女たちとのわだかまりが解けた今となっては
怪我の功名というわけでもないが……私達が『どういうもの』かは、多くの人々の知るところとなっているのだ。今はその認識に甘えさせて頂こう。
「さんかい! 到達を報告します!」
「はいよくできました。目的地はどっちだ」
「ゥー…………案内表記を、捜索します」
『目的地『ファンシービレッジ』所在を確認致しました。経路案内の展開が可能です』
「そうか。じゃあ頼む」
『了解致しました。視覚情報への介入を開始致します。……艦長ニグ』
「ん? どうした?」
『…………ワタシは、艦長ニグによる……個体名『ディン・スタブ』同様の称賛表現『よくできました』を、所望致します』
「あ…………あぁ、悪い。……よくできました。優秀だな、お前さんは」
『…………恐縮です』
私からの問いに対し、回答に詰まるディンに被せるように自己の有用性をアピールし……ディン同様の称賛を求める管制思考。
……これは、まさかとは思うが……私が猫可愛がりしているディンに対し、嫉妬に近しい感情を抱いているというのだろうか。
そんなバカな、と一笑に付してしまいたいが……スーの情緒がみるみると育っていっている現状を、私は知っている。
ディンが抱いている感情を、スーが所持していないと判ずる根拠は……何処にも無いのだ。
「…………そうだな。……悪かった。私も態度を改めるとしよう」
「ゥ?」
「スーはすごいな。私達には出来ないことを補助してくれて……いつも助かっている。ありがとうな」
「ゥ! ワタシ、スーは非常に勤勉、とてもえらい、感想を共有します!」
『………………今後も、一層の献身をお約束致します』
「あぁ、頼りにしてる」「してる!」
『…………間もなく、目的地です。ご利用ありがとうございました』
わざわざ
…………これは、やはり、まさかとは思うが……照れ隠しだとでも言うのだろうか。
この無機質な母艦管制思考のことを、不覚にもちょっと『可愛いな』と感じてしまった私が居たことを。
しかしながら……そこまで予想外だとは、不思議と思わなかった。
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