第15話 状・況・俯・瞰 7




 これまで自分が考えるままに、手当り次第に活動してきた私達は、今後どういった行動を取るべきなのか。


 以前スーへと助言を依頼した、その問いに対する返答だが……なんとまぁ、思ってたのと違うというか、ひどいものだった。




『外部に位置するワタシが思考を行うよりも、当該組織より直接要望を聞き出すほうが確実であると判断致します』




 まぁ……確かに真理だろう。

 外部の者が『どうすれば喜んでくれるだろうか』など考えるよりも、本人に直接『どうすれば喜んでくれますか』と尋ねるほうが手っ取り早いし、なにより確実である。


 そういった経緯に加えて、先述の2つの目的を果たすべく接触を画策していたことも相まって。

 今回満を持して……ついに、格好の機会が訪れたわけだ。



 私達は今後どういった行動を取るのが、特に魔法少女達にとってのプラスとなり得るのか。……それを明らかにする。

 それこそが私が抱えていた、3つ目となる目的。シンプルではあるが、しかし今後の指針を探すための、重要な問いである。




「とは言ってもですね……既にアルファさんには、充分過ぎるほど良くして頂いてます。先に申しました通り、魔法少女の子らにも良い影響が多く出てますので……」


「……ぶっちゃけ『お気持ちだけで充分』ってヤツじゃねェのか? これ以上求めるってなァ、さすがにコクだろ」


「そうは言うが……現状、私らは殆ど働いていない。魔物マモノ対処もそちらに任せきりだ。自分で『動く』と決めた以上、何もせずに眺めてばかりというのは…………こう、落ち着かないというか」


「で、でも……アルファさん、確か『人が集まってくるから』って……」


「………………そうなんだよなぁ、前ディンが出たときも……百人以上いたか」


「ゥー……225名。ワタシ、証言します」




 私が魔物マモノ対処に動くとなると……展開速度のことを考えれば、必然的に『転送』を用いて現場へ急行することとなるだろう。

 しかしそれでは以前と同じ、人々を呼び寄せ危険に晒してしまう。


 それを防ぐため、現在基本的な対処を魔法少女達に一任し、私達は不慮の事態に備えて待機……といった形で分担しているのだが。


 だが……なんというか、魔法少女達が思っていた以上に優秀なのだ。

 私達が『転送』を用いてまで割って入らねばならない状況が、なかなか発生しないのだ。



 とはいえ私達が前線に出るとなると、先述の人々の流れがネックとなる。

 逆に言えば人々の誘引を抑制し、安全を確保することさえできるのならば……我々も大手を振って大暴れできるのだが。




「だが…………良い案浮かばないんだよな。もういっそ開き直って、っていうか……直接頼んだら聞いてくれんかな? なんて――」


「なるほど」「ほォ?」「……あぁ」


「えっ? あっ…………えっ」


「んゥ…………ワタシ、口は災いのもと。知識を所有します」


「…………えっ?」






…………………………




……………………………………




……………………………………………





『……政府および異聞探索省、特定害獣対策本部から大切なお知らせです』



 …………自慢という程では無いが、現在の私の身体である惑星地球地表探査用ガイノイド【Οδ-10294ARS】モデルは、その容姿もさることながら『声』のほうもなかなかに可愛カワいらしい。

 とはいえ、自身では声の良し悪しなど良くは解らないが……ほかでもない私とほぼ同一のモデルであるディンの声が、あんなにも耳心地よく可愛らしいのだ。

 つまり同型である私の声も、同様に可愛らしく……まぁ、少なくとも耳障りということは無いだろう。……たぶん。



『Mアラートは、皆さんの生命と財産を守る、とても大切な連絡です。Mアラートが発令されたときは、該当エリアから速やかに離れ、身の安全を確保してください』



 耳心地の良い声で、下手に丁寧にお願いをされたら……常識的な感覚を備えた大多数の人間は、そのお願いを聞いてやろうという思考が多少は働くことだろう。

 ましてやその『お願い』が、一般常識や法令に当て嵌めてみても至極正しいものであり……また『聞く者のことを心配して』のことであったともなれば、尚のことだ。



魔物マモノの対処現場は非常に危険なため、大けがを負ったり命を落とす可能性もあります。大切なあなたの命を守るためにも、危険を顧みず魔物マモノ対処に臨む魔法少女達を正しく応援するためにも……魔物マモノの対処現場には絶対に近付かず、速やかな避難を心掛けてください』



 私やディンの写真や、遠景での動画が出回ることは幾度かあったが……私の声がネット上に出回ることなど、かつてあっただろうか。


 盗聴や聞き耳などというお粗末な音質ではなく、最初から『聞かせる』ために語り掛けているのだ。

 滅多に姿を晒さない私の、極めて貴重であろう肉(?)声での、対象となる人々を直接指名しての『お願い』である。


 私的には、正直なところ『思いつき』程度の提案ではあったのだが……こうして見てみると、なかなか堂に入っているのではなかろうか。



『…………以上、特定害獣対策本部からの大切なお知らせ、わたくし【イノセント・アルファ】がお送りしました』




 瞼を閉じて、ゆっくりと丁寧に……それでいて可愛らしくお辞儀をひとつ。

 ……私を映した映像はそこで途切れ、改めて撮れたての動画を検分していた『特定害獣対策本部』所属のお三方は、それぞれ感心したような声を上げる。



 貸与された通信機器スマホを小さな三脚に固定し、内蔵のカメラで一発撮りしただけの、ローコスト極まりない啓発動画。

 会議室の白壁を背景に、椅子に腰掛けた私が原稿を読み上げる。そんな簡素な収録ではあったが、今回はあくまでも『個人のSNSアカウントで投稿する』ためのものであり、何も問題無いだろうとのこと。



 大切なのは、私の姿と声を届けること。

 そして……私が『やめてほしい』と感じていることを、私の声できちんと伝えること。




「……ご協力、ありがとうございます。あとはこれを投稿すれば、アルファさんの意思は彼らに届くことでしょう」


「開設間もないアカウントで、既にあの話題性だもんな。久しぶりの投稿となりゃァ注目もされるだろよ」


「アルファさん、たちは……姿を見る機会、ほぼ無い、から……押し寄せてた…………かも、しれません」



 なるほど、一理あるのかもしれない。

 要は私がこうして、こまめに姿を晒して画像や音声を提供して『ガス抜き』を行っておけば、わざわざ危険を冒して撮りに来る人々も減らせるのではないか……ということだ。


 あの『ちょっとした恐怖』を味わって以降、SNSなど触れるものかと思っていたが……よもやこんなところで世話になろうとは思ってもみなかった。

 先見の明があってのことかは判りかねるが……切っ掛けを手伝ってくれた某魔法少女には、感謝しなければならない。




「投稿した? ……したか? オッケ任せろ私も拡散するわ」


「わ、わわっ、わたしも! お手伝いしますっ!」


「……そうですね。後程、広報課のアカウントでも拡散しておきましょう」




 私一人と、異星由来の二人だけであったのなら……このような『SNSにメッセージ動画を投稿しよう』などという案は浮かばなかっただろう。

 自分たちだけで解決策を思考するよりも、色々と知識や知恵を備えた外部に刺激を求めたほうが、建設的な意見が生じやすいらしい。


 現代の地球文明に顔突っ込んで行くと決めた以上、やはり積極的に智慧を取り入れていくべきなのだろう。

 



 この一発撮りだけで、たちどころに問題が解決するとは思わないが。

 少なからず改善していくだろう、という……そんな確かな予感がしていた。



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