アストレイ・ピースキーパー 〜異星文明製ガイノイドとして蘇生された私は、個性的すぎる身内と概ね平和な日々を送っています〜

えう

第0話 概ね平和な日々を送っています



 私はかつて……ごくごく普遍的な、どこにでも居るような男だった。



 おおむね平和な世界に生まれ、周囲と同様に教育を受け、生まれ育った国のために役立てる職を志願し、厳しくもおおむりた日々を過ごし。


 私自身詳しくは覚えていないし、恐らく誰の記憶にも残っていないだろうが……職務中に何らかの形で、命を落とした。



 それが少なくとも、半世紀は昔のこと。

 なんともはや呆れるしかないのだが……どうやら一度『死』を迎えた私は、第三者の手によって蘇生される運びとなったのだ。





「かあさま〜〜!」


「はいはい待って待って」



 何だっけ…………そう、蘇生されたのだ、私は。


 しかし私を蘇生した第三者は、断じて善意を持ち合わせていたわけじゃない。

 いやむしろ真逆の、混じりっけのない純粋な害意に由来するのだろう。この惑星の人々を効率的かつ効果的に害し、また徹底的に活用するために、一度死んだ私を蘇らせたのだ。


 得体の知れない侵略者……宇宙人エイリアンの魔の手が、すぐそこまで迫っていただなんて。

 それどころじゃない苦難に見舞われているこの惑星の人々にとっては、到底想像もつかなかったことだろう。



「ゥ? えいりあ……んゥー?」


「気にしない気にしない。もう無い無いなったからな、それな」


「ないなーい!」



 奴らに魂を回収され、蘇生された私に与えられた役割とは……侵略対象たる原生ヒト種の生活圏へと潜入し、多くの情報を持ち帰ること。

 また同時に、侵略者どもがヒト種の社会を都合よく操るため、その機体カラダをもって多角的な工作活動を行うこと。


 そのために誂えられた、いわくの『警戒感を抱かれづらい造形の機体』こそが、今の私の身体である異星探査機【MODEL-Οδ-10294ARS】……タイプ・ヴォイジャーと呼称される、ヒト型アンドロイドである。

 小柄で儚げ、可憐な少女を模した、機械仕掛けの毒婦。女性型なので呼称としては『ガイノイド』が正しいのだろうが……まぁ、そのあたりはどうでも良いだろう。



 凡そ半世紀前、お国のためにと生きて、そして次代に命を繋ぐことなく死んだ私は。

 小柄で儚げで可憐な少女を模したガイノイドとして、惑星地球に住まう人類に仇なすために、再びの命を得ることとなったのだ。



 …………が。


 そんな『地球侵略』を企む宇宙人の現在はといえば……航宙植民艦スー・デスタ10294号艦内深層の高次圧消却炉にて、ひとり残らずオネンネである。

 艦内で生じたを跡形も無く処分する、オーバーテクノロジーを遺憾なく用いた消却炉ゴミ捨て場。その常識外れの処理能力によって……まぁ、塵ひとつ残っちゃいないだろうな。



「スー、スー、かあさまがワタシかまってくれません! ワタシはかあさまによる積極的な『なでなで』行為、優先度【高】にて要求します!」


『回答。現在艦長ニグ思考演算中枢において、センテンスロジック形成の兆候が確認できます。比喩表現『日記』あるいは、それに類する保存形式データの作成中であると判断します』


「スー、作戦立案。かあさまをニッキから呼び戻す方法。上位支配者権限です」


『回答。本管制思考に対する艦長ニグの心象パラメータ変化予測を鑑みるに、思考処理の強制中断は推奨できません。表現引用、艦長ニグに怒られたくありません』


「じゃあしょうがないね」



 …………まぁ、そんなわけで。


 外宇宙からの侵略者の魔の手は、他でもない私が既に握り潰し、人知れず消却処分した後だ。

 奴らの置き土産であるこの身体と、母艦にして拠点であった航宙植民艦スー・デスタ10294号、ならびに付随する管制思考AIは、今や私達の拠点として有効活用させて貰っている。


 只人にとっては、様々な点において持て余すであろう宇宙船。それは私と、私に恭順を刷り込まれた管制思考、そして私が生み出した愛娘の、とても他人ヒトには言えない秘密だらけの生活拠点であり。

 ……だいぶ小っ恥ずかしくはあるが、この国の平和を守るための、秘密基地なのである。




「んゥー、にみつぴち。秘匿状態にて維持された戦略拠点、ヒトビトにはナイショの基地! ワタシたち、積極的マモノ対処の準備しますによって、スーの有視覚索敵はオリコウサンなので、いつでも即応可能です!」


「そうだな、ヒミツキチな。……まぁ夜間や曇天だと弱いんだけどなぁ、所詮は望遠カメラだもんなぁ」


『肯定。本艦スー・デスタ10294ならびに所属揚星艇ベースキャンプ船外視覚素子による直接光学走査は、時間帯と環境による精度低下を懸念事項として認識しております。現在抜本的な対策、ならびに前提条件の打破を立案中です』


「まぁ『あのら』にも「無理すんな」って伝えてあるし、なんなら信号を撃ち上げるよう共有して貰ってるからな。……そのへんの感知は、期待してるぞ」


『回答。艦長ニグのご期待に応えることをお約束致します』



 こんなオーバーテクノロジーの塊である宇宙船やら、異常発達した科学技術の結晶である我々アンドロイドが、わざわざ『平和を守る』ために活動している理由。

 それこそが、この現代の惑星地球で頻発している『一種の公害』ともいえる事象……負の感情が局所的に集束することによって顕現する、『災魔サイマ』と呼ばれる害敵生物である。


 本来の用途とは異なるのだろうが、私達の機体カラダはある程度の戦闘行動が可能な性能を秘めている。

 そしてその『ある程度』とは……現代のこの惑星において災魔サイマの対処を一任されている存在、『魔法少女』と呼ばれる娘らよりも、数段上をゆくものであるらしい。


 紆余曲折を経て、共同関係を結んだ彼女らの力となるよう、私達も目を光らせておかなければならないだろう。



「かあさま、かあさま、ワタシは訂正します。目を光らせる、ワタシたちの視覚素子に光学的スペクトル照射機能は搭載されていません」


「今度『ことわざ辞典』借りてこような、ディン。……それとさっきから私の思考、当たり前のように反応すんのな。思考の盗聴とかちょっと勘弁して欲しいんだが」


「はいはい! ワタシは知っています! 頭部にフィルム状に延展したアルミニウム、まきまきすると安心! 情報をありました!」


「今度『ネットリテラシー』もお勉強しような。ソノダさんに相談してみような」


「じゃあはやく行こう! ワタシは要求します!」


「いや、だから………………まぁ、良っか」


「んへゥ〜〜〜〜!」




 市井の人々にはシンプルに『魔物マモノ』と呼ばれたりもする『災魔サイマ』と、それと戦う『魔法少女』と、彼女らを守ろうと奮闘する私達。

 かつて私が生きていた時代より、色々と複雑になっている気はするが……とりあえずコレが基本情報、現代における背景ってわけだ。


 そんでもって、そんな私達の奔走というか、賑やかで行きあたりばったりな日々の記録をば……まぁ私の可能な範囲で、つれづれなるままに保存していこうと思う。




――――――――――――――――――――



何処かの何かの続き的な何かです。


宜しければ前の何か共々、またしばらく宜しくお願いします。


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