メガネカイマンに運命を(月光カレンと聖マリオ29)

せとかぜ染鞠

メガネカイマンに運命を

 毒薬トリあえ酢を食し瀑布に飛んだ俺さまは秘境ゴールデパングにいざなわれ,トリあえ酢の解毒剤を生成した科学者ゴールドが動物を意のままに操る共鳴薬の開発者でもあったと知る。共鳴薬とは養女の特別視する魔導まどうが入手に奔走する御法度薬だ。その生みの親が秘境を去ったのち三條さんじょうという男が彼女を捜しにきたという。

 詮索は無用だ。

 だが直感された――怪盗月光カレンの宿敵でありシスター聖マリオの信者でもある三條公瞠こうどう巡査とゴールドには深い繫がりがある。ゴールドを探ることは,自身を7歳児だと思い俺を叔母として見ている三條の記憶障害を改善する糸口となるはずだ。

「脳内に刺激を与えて正常な状態に治せるかもしれないが――」天才医師黒医くろい滋薬じやくが瀑布に落ちて意識のない三條を診ている。「新たな刺激が加われば再度スイッチが入り7歳児の精神状態に転換される可能性もある」

「しばらく坊やをお預かりいただけますか」

「というと外界へ出てまた戻るつもりですか。やめるべきです。ここに辿りつけたのは運がよかったんだ。普通は滝壺に落ちたら死ぬ」

「外界へ出て戻った例はあるでしょう」

 滋薬と目があう。

「いかにも世を騒がせた私はここに辿りつき,長年生活してから再び外界へ出てまた戻った。2度も秘境へ繫がる滝壺に身投げしたわけだ。死ぬ覚悟でした。無免許だと分かった途端に色眼鏡で人を見る世間の人間に愛想が尽きてね」

「……何と言っていいか。ただ決して死にません。必ず戻りますので外界へ出る方法を教えてください」

 滋薬が溜め息をつく。「共鳴薬を使います。開発中途のせいか服用すると癌を発症しますけど。薬をのんで 河にむかい 外へ出たいと念じれば メガネカイマンが 現れます。その口中に飛びこむんです。そしたら俗世あちら側へ連れだしてくれる。しかしワニの一種ですよ,食われることもある。硫酸性の濃い河流に放りすてられることも。死ぬ確率のほうが高いんだ」

 俺はメガネカイマンに運命を託すと決めた。

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