保安官と農民 その14

 皇帝の死が確認されてから数日後のことである。東武国は地域によっては大混乱だったが、安口村は極めて平和だった。ユウキリス、宙光、そして由紀までもが安口村を外敵から守る抑止力だった。実を言うと、3人の中だと由紀が最も吸血鬼としての素質が高かったのだ。しばらく3人で一つ屋根の下で暮らしていたということである。だが今日、羽山家でしばらくお世話になっていたユウキリスは再び旅立つことにした。

「あばよ、相棒。」

「またな、カウボーイ!」

「さようなら、ユウキリスさん。」

 最初はユウキリスが苦手だった由紀もお別れの挨拶を言った。ユウキリスは微笑んだ。

「おう、あんたは病気で苦しんだ分、幸せになれよ。」

 ユウキリスはそう言いながら、森の中へと消えていった。由紀は宙光の方を振り向いた。

「兄様、一緒に行かないでよかったの?」

「君は兄に言って欲しいのか。」

「絶対嫌!」

 由紀は堂々と答えた。

「でも、兄様が私に縛られるのはもっと嫌!」

「由紀……。む? 気配が複数来る。」

 すぐさま、無数の役人が輿と共に現れた表らしき者が話しかける。

「岩本殿の知人の者です。新たな天皇をお迎えにあがりました。」

宙光は戸惑っていた。だが逆に由紀は状況を理解していた。

「一体どういうことだ…一体…」

「はい。新たなこの国の王は私です。」

 由紀はそう言うと、堂々と輿に乗った。

「私がなぜ吸血鬼になったか、ずっと考えていました。答えはやってきたみたいです。」

 宙光の目にはかつての病弱の妹の姿はなく、王の器の強者そのものだった。

「私は前に進みます。この世での役目を果たします。」

「由紀。…いや、東武の女帝よ。さようなら。」

「さようなら、羽山 宙光兄様。彼は速いです。急いで。」

 こうして東武国には東武皇帝に代わり、新たな女帝由紀が誕生して、東武国はしばらくは平和になった。

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