保安官と農民 その8

「イーハー! 美しい町だな…流石はこの国の中心だぜ。」

 ユウキリスは東武国の武京を崖の上から見下ろしていた。

「さて、喧嘩売るか。」

 ユウキリスはそう言いながら、右手を上に上げた。

「宿れ、破滅の太陽!」

 ユウキリスが唱えると、たちまち自身の数倍の大きさの炎の球体が発生した。

「名付けて、煉獄太陽ヘルサン!」

 ユウキリスは狙いを最も大きな建物に狙いを定めた。

「滅びろ、武京! 滅びろ、秩序! 滅びろおお、この国の王、天皇よおお!」

雷襲プラズマ猪突タックル!」

 翼を引っ込めて、雷を帯びた状態で宙光は高速でユウキリスに突進した。

「グハアア!」

 大きな炎はあっさり消えた。

「ぐっ、翼よ生えやがれ! 怪翼怪放かいよくかいほう!」

「グア!」

ユウキリスが背中から歪な翼を無理矢理生やしたことで、宙光はぶっ飛ばされました。それでも大男は冷静だった。

「なるほど、そういう技名なのか! 私もそう叫んでみよう!」

 宙光は魔力を背中に集中させた。

「いでよ、私を導き、守り抜く黄金の翼よ! 怪翼怪放かいよくかいほう!」

宙光は翼を展開させると、ピタッと勢いを止めた。ユウキリスは少し苛立っていた。

「ケッ、この後出しジャンケン野郎が! 我よりかっこいいセリフ言ってんじゃねえよ!」

「君はこの国を滅ぼしに、海を渡って、わざわざ来たのか?」

 宙光は堂々と歩み寄りながら、ユウキリスに問い詰めた。ユウキリスはニヤけながら応答する。

「さあな……あんたのは綺麗な翼だな。それに比べて我のは禍々しくて醜い。あんたはそう思っているんだろ?」

ユウキリスの問いに宙光は黙っていたので、細身の男は足に雷を宿した。

雷迷の斧サンダー・アックス!」

(かわせない! ならば防ぐ!)

宙光は即座に自分の翼を盾になるように自分を覆わせた。

「黄金の盾!」

 斬撃のように弧を描くような紫の雷は宙光の翼に触れた瞬間、打ち消された。

「ならこれならどうだ! 鎧ごと消すぞ!

 ユウキリスは宙光に向かって急接近した。

「|邪波滅拳〈ジャバ・フィスト》!」

 ユウキリスの滅びの拳が宙光に触れた瞬間。

「ざ、残像⁉︎」

「上だ、恩人よ!」

 宙光は上から拳を構えた。

隕石メテオを彷彿とさせる破壊の拳・インフィニティ・ブラスト!」

「イーハー! こいつは…やべええ!」

 ユウキリスはかわしたつもりが気がついたらぶっ飛ばされていた。それどころか戦っていた崖が崩壊していってしまっていた。しばらく仰向けに倒れていたユウキリスは空を仰いで、思考を巡らせていた。

(すげえのはあいつの拳だけじゃねえ! 拳が地面に触れた瞬間に崩壊へと繋がる衝撃だ! 平べったい地面ならでっかい穴が空いてたな! ちょっと殴り合いに持ち込むか。心配ねえ、相手は喧嘩より農業経験が多い農民、対して我は喧嘩上等の保安官。勝つのは我だ。)

そう確信すると、ユウキリスはばっと起き上がり、ボクシングの構えで不動のユウキリスに近づいた。

「こいよ、木偶の坊! 俺をやっつけたいんだろ!」

「断じて違う!」

「ぶべべべべ!」

 宙光の拳がユウキリスの頬に直撃して、ユウキリスの首が高速回転した。

(このままじゃ回転で、我の頭と胴体がもぎ取れてしまう!)

「ふん!」

 ユウキリスは両手で頭を抑えて、回転を止めた。

「再生しろ首の切り筋!」

 ユウキリスは自身の体に命令すると、その通りになった。そして、宙光を赤い瞳で睨みつけた。

「うおおお!」

 ユウキリスは助走を付けてから、足を浮かせてそのまま、宙光に向かって突進した。

邪波ジャバ紅弾丸スピアー!」

「うわああ!」

 ユウキリスは宙光を森の奥へと押し込んだ。しばらくすると、取っ組み合いの末、保安官は農民の上に乗っかって、拳を構えていた。

「顔がぐちゃぐちゃになるまで、殴り続けてやんよ! 歯あ食いしばれ! オラオラオラオラ〜!」

 連続の拳が宙光の顔を襲った。だが宙光は冷静に、なんとかユウキリスの手首をガブリと噛んだ。

「あああああ!」

 ユウキリスは叫ぶと、今度は空いた手で魔力を標的の鎧に注ぎ込もうとした。だがそれを見逃す宙光ではなかった。

(鎧をサビに⁉︎ させぬ!)

「私を万の握力の持ち主にしたのは他でもない君だ!」

 宙光はそう言いながら、ユウキリスの首を絞めて、そこから関節技をお返しした。

「うわあああ! 痛えええ! 腕がもげるううう! やめろおおお!」

「これは正当防衛…君が話を聞いてくれるなら辞めよう。」

「先に攻撃したのはお前だろうが!」

「あの時私がやめて欲しいとお願いしたらやめていたのか? 否!」

 二人の吸血鬼が言い合っている時にある声が乱入してきた。

「よーし、そのまま抑えていてね〜。宙光君。」

 その声は木々の中から現れた。

「蜜国殿! なぜここに⁉︎」

「そりゃいるよ〜。」

 蜜国は片手を開いた状態で前に伸ばした。

「君のおかげでね。」

「なっ!」

 宙光は侍が言っていることを理解できずに唖然としているところ、ユウキリスは腕を彼から振り解き、立ち上がった。

「我を探す手掛かりがあんた。そのあんたに接触した後に、行動に出ると踏んだんだ。そして、後を追えば我に辿り着くと思ったんだろう。イーハー! 見事なビンゴだぜ。」

 ユウキリスは不敵に代わった標的を睨みつけた。

「だが…我の強さは計算に入れていなかっただろ!」

 ユウキリスは前に手をかざした。

邪波の魔の手ジャバ・ザ・ハンド!」

「巨大な悍ましい手がユウキリスの前に現れた。」

 宙光は唖然としていたが、時は、この状況ではユウキリスが許してくれなかった。

「ぶっ飛べ、魔の手で、ほいデコピン!」

 ドカーンという衝撃と共に、宙光は魔の手のデコピンによってぶっ飛ばされてしまった。

「宙光君!」

 ぶっ飛ばされた宙光を見て、思わず叫んでしまった。だがすぐに冷静になり、ユウキリスを睨みつける。

「彼はいい人だぞ! 君を心配して止めようとしたんだ。」

「その善意を利用しやがったのはどこのどいつだ?」

 ユウキリスはニヤけながら問い詰めると、侍は黙ったままだったので、ユウキリスは話を続けることにした。

「デコピンであの威力の邪波の魔の手ジャバ・ザ・ハンド! 本気のはっけい喰らっときな!」

 ユウキリスの手の合図と共に、大きな魔の手は蜜国に向かって飛んで行った。だが蜜国はとても冷静だった。

「グーにはパー、パーには…チョキだ!」

 蜜国はもう一つの刀を抜いて、二つの刀がハサミみたいに形で交差するように身構えた。

「二刀流、超禁ちょっきん挟み撃ち!」

「ぎゃあああ! 双方の横腹がああ!」

 気がついたら、不気味な魔力が消え、高速接近した 蜜国にユウキリスは二段攻撃の斬撃を喰らっていた。

「うわああああ! 意味わからん! 回復できねえ!」

 ユウキリスは想像を絶する痛みに、後ろに倒れてしまった。蜜国は刀を一旦鞘に納めてから、容赦なく吸血鬼の腹を踏みつけた。

「グエッ!」

 踏まれた痛みで思わず叫んだユウキリスはすぐにニヤけた。

「我のもう一つの姿、みせてやる…」

「させないよ、変身。」

 蜜国は宣言するように即座に何かを引き上げるように手を動かして、技を唱えた。当然ユウキリスは慌てる。

「なっ、地面がベタベタして、気持ち悪ぃ! 黒いベタベタで自由に動けねえ!」

「捕縛念術、黒蜜!」

 蜜国は技を言い終えると、再び刀を抜いて、吸血鬼の心臓を刺した。

「ぐああああああ! ぎゃああああ! うわああ!」

 森中に響いたユウキリスの悲鳴に対して、蜜国は極めて冷静だった。

「確実に仕留めるよ。」

雷襲プラズマ猪突タックル!」

 遠くから宙光が叫びながら、接近した。だが蜜国の視線はユウキリスに集中していた。だがあくまで視線だけの話である。

「グーには、パーだ!」

 蜜国はそう言いながら、空いてる腕を宙光の方に伸ばした。

「うう! 動けん!」

 宙光は地面に体がつかないまま、蜜国の力によって浮かされてしまった。蜜国は申し訳なさそうな表情を宙光にみせた。

「ごめんね。でも僕はユウキリスを確実に倒さなきゃいけないんだ。」

 しばらくすると羽山 宙光は気絶したので、蜜国は彼を優しく地面に下ろした。 だがその作業を終えるとすぐさま、ユウキリスを睨みつけた。それに対してユウキリスは全力で問いただした。

「お前は怪人じゃねえ! 匂いでわかる! だがなぜ強い!」

「鍛錬、修行、瞑想のおかげだよ。」

「嘘つけえ! お前の強さは人の次元じゃねえ!」

 ユウキリスは魔力を引き出そうとして、ジタバタしたが、どうにもならなかった。

「畜生があ! 我は世界に混沌をもたらすのだ! このような終わり方をするために吸血鬼になったのではない!」

「いや、君は今日岩本の手によってあの世に行くんだ。」

 その堂々とした発言に、ユウキリスは逆に思わずニヤけてしまった。

「もしかしてそいつは、預言って奴かい?」

 その問いに蜜国は答えなかったので、ユウキリスは話を続けることにした。

「我も預言を貰っている。我の破滅の預言をな。我を倒すのはお前みたいな人の子じゃない。我に破滅をもたらすのは角の生えた我以上の化け物だ!」

(こやつ!)

 蜜国は少し焦っていた。

(ずっと心臓を刺しているのなかなか息絶えない! 念と殺意を全力で込めてるんだぞ! こいつの預言の方が正しいというのか⁉︎ いや、空いた手でさらに斬り刻むか?)

  蜜国はそう思ってもう一つ刀を抜いた。

「これでおしまいだー!」

 蜜国のもう一つの刀がユウキリスの肌に触れようとした瞬間、ユウキリスの身体は跡形もなく消えてしまった。当然蜜国は驚いたが、すぐさま横を向いた。

「宙光君もいない⁉︎ ……こんな神のような力を扱えるのは、この国だと一人しか想像できない!」

 蜜国はそう言いながら、視線は木々を抜けて、都の城を見据えていた。

「東武皇帝、都近くの怪異的な二つの力を感じ取って、引き寄せたのか? 大変だ。最悪の流れだ。ユウキリスを見くびり過ぎだ。今なら間に合う! 僕が駆けつけてトドメを…」

「行かせません!」

「えっ?」 

 蜜国はその意志の固く可愛らしい声に思わず振り向いてしまった。その者は小柄で素手で蜜国に挑んだので、蜜国も刀を納めて素手で応戦した。

(追っていた三つの気配の内、二つは急に消えていた。その一つがずっと潜んでいたんだ。この子は知っている! …)

「……! 宙光君の妹か⁉︎」

(瞳が赤い! まさかこの子も⁉︎)

「ええ。 私も吸血鬼になりました。」

(…! 心も読めるのかい? 怪人の中でも極めて珍しい特殊能力なのに! 不幸から解放されて強運になったというのかい⁉︎ だから僕の動きが読めるのかい? だったら……殺せず倒せる!)

蜜国はニヤけながら心の中で目の前の吸血鬼に訴えかけた。

(太もも大好き! 交尾! 太もも大好き! 交尾! 太もも大好き! 交尾!)

「ううううう!」

 由紀は赤面して拳も蹴りも鈍くなってしまった。

「悪いけど少し眠ってね。」

 蜜国はそい言いながら、念を込めて、腕を伸ばした。

「させないよ!」

 その言葉の後に、ドンという音と共に蜜国の背中に衝撃が走った。

「いいさ、これで。ユウキリスを手中から奪われた時点で、奴を倒すのは僕の代じゃなかったんだ。」

 岩本 蜜国はそう言いながら、前に倒れて意識を失った。由紀は、蜜国を倒した宙の元に駆けつけた。

「母上。……やりましたね。」

 由紀と宙はしばらく抱き合ってから、お互いに赤い瞳を光らせた。

「アタシの息子、お前の兄が、目の前で消えた。取り戻しにいくよ。」

 少し前まで蜜国が向いていた方向に二人の吸血鬼は視線を向けた。

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