【KAC20248】失恋

夏木

【KAC20248】失恋


「眼鏡のくせにな」


 たまたま耳にしたその一言で、私の中にあった彼への気持ちはあっさりと消えた。

 教室の外。扉の前で立ち尽くす私に気づかず彼らは私を笑いものにする。

 優しい人だと思ってた。

 でも違った。

 付き合えるなんて、元々思ってなかった。

 気持ちを伝えたのは、知ってもらいたいという気持ちよりも、自分の中でけじめをつけたかったから。

 好きだったから。彼が誰をその瞳で追っているか気づいてしまった。だから、自分自身の思いを終わらせようと思ってた。

 結果は、当然振られた。でも、それは分かっていた事だったから。

 だから泣かなかった。諦めてたから。

 でも、これは無いよ。

 彼らの笑い声が、耳に、心に刺さる。

 音を立てないようにそこから離れて、階段を降りる。

 振られた時に出なかった涙は、今、笑われる原因となった眼鏡に落ちていく。

 私だって、眼鏡はない方が良い。

 ラーメンとか食べるともれなく曇るし、傘を持ってない雨の日とか、雨粒がついて拭いても視界は良好にならないから最悪だし。手で直接触っちゃったら指紋がついちゃったり、気づけば、汚れてて視界が薄く曇ったりもするし……。

 それでも、私はこれからも眼鏡と付き合っていくしか無いのだ。

 それに彼が好きな彼女だって、コンタクトなだけで、休みの日は眼鏡のはずだ。

 いや、そもそも、眼鏡のくせにって何!?

 性格とか容姿とかじゃなく、眼鏡だから!?

 私の全ては、眼鏡なの!?

 眼鏡を取ったら美少女かもしれないでしょ!? 実際は違うけど。

 でも、眼鏡だからって笑うことはないよね!?

 ……つまりは、外面だけが良いだけの性格の悪い人だったのだ。

 私が、勝手に優しいって思い違いしてただけで。

 悲しみが怒りになり、そして嫌悪になった。

 私は、仲の良い友達に、告白して振られた事と、そして影で眼鏡であることを馬鹿にして笑っていたことを報告した。

 彼が好きな彼女もその中に入っているけど、それぐらいの仕返しはきっと許されるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20248】失恋 夏木 @blue_b_natuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ