東京風情
東杜寺 鍄彁
発熱
甲信越某所の山奥にある平屋、私は久しぶりに書斎兼寝室から出て、隣室の和室から、廊下から、縁側から、庭へと出た。夏を惜しむかのように、ほんのりと葉が紅くなった紅葉と、天井が高くなったように見える青空に、季節の移り変わりを悟る。
残暑は疾うに過ぎ、夕になると、夏を未だ忘れぬ、と言いたげな服装から露わになった皮を、薄寒い風が撫でていく季節。秋の匂いがどこからともなく漂う、この時季に私は決まって或ることを思い出す。
今となっては遠い昔の、大学三回生の、不思議な一日のことだ。
先に記しておくが、この不思議な一日はあくまで夢、或いは、私の長いこと脳病院で医者に診てもらっている、病に起因する妄想、幻覚、幻想の類だ。そう思いたい。
少なくとも、これから記すようなことは実際には、私が何度もしつこく新聞やらラヂヲ、その他の媒体で確認した限り起こっていない。
恐らくこんなことは起きていない。起きていない筈だ。それは確かだ。
そのため、この冊子を手にしている、貴方又は諸君には、しつこくはなるが「非現実」ということを充分に頭にいれて、読み進めて行って欲しい。
それだけが、何よりの救いなのだ————
私はふと気づくと、学食で眠りこけていた。配膳口と返却口の近くの、四人掛けのテーブルに突っ伏していた。
意識がある程度明瞭になり、自分がどこで何をしているのかを理解すると、私は急いで左腕の時計を見る。
「十一時四十五分」不味い、これは大顰蹙を買った。あとで何を言われても仕方ないぞ。私の寝ぼけた頭も、少し霞んでいる目も、一気に醒めた。
この時間はちょうど二限終りの昼休憩で、教授も学生も皆、学食やら周りの商店やらに押し掛ける、いわゆるラッシュ帯だ。
そんな時間に、タッタ一人で大きな四人掛けのテーブルを占領し、しかも眠っていたのだ。
ギコチナイ動きをしながら、急いで席を離れ、恐らく、周りで冷たい視線を浴びせてきているであろう、群衆に頭を下げようとする。そこであることに気づいた。
周りに誰もいない、いや、学食に誰もいないのだ。どのテーブルにも、席にも、通路、出入口、そして配膳口、調理場にも。
人がいないことに安堵しながらも、私はこの明らかな異変に首を傾げた。
もう一度時計を見る。時計の針は「十一時五十一分」カレンダーは『WED(水曜日)』を示していた。休講日ではない。やはりおかしい……
おかしいとは思ったのだが、私は何故か「まあ、こんな日もあるだろう」と目の前の違和感と、異常を自己解決し、頭の隅へと追いやってしまった。
今でも何故、このような心理に至ったのか、自分ですらわからない。
違和感をどこかへ追いやると、私は誰もいない学食に妙な圧迫感を覚え、足早に外に出ることにした。
天気は快晴、風は心地よく、草木は葉の黄色と、太陽の柔らかい光が合わさって、金色に輝いている。
いつもの講堂がどこか絵画のように見えた。
次の講義まで時間もあるし、どこかベンチにでも座って、ゆっくりと過ごそうかとでも考えていると、どこかから、大勢が騒ぐ声が聞こえてきた。
ワーワーとキャーキャーと祭りのそれとよく似た喧騒が。
私は「はて、こんな時期にイベントでもあっただろうか」と不審に思った。ハロウィンにしては少し早いし、それ以外の催し事もないはずだ。
もう一度時計に目をやる。
「十一時五十八分」
これくらいなら外に出ても大丈夫だろう。
私は騒ぎの方へ足を向けた。
校門を出ると騒ぎの元は、すぐ目の前にあった。道に人がごった返していた。
人々はスパムの缶詰のようになりながら、口々に「さっさと前に行け」「進め」「早くしろ」などと言っている。
この道がこんなに混む事などまず無い。大学とあとは学生が住まう寮や安アパート、それに、やけに安い定食屋と古本屋、胡散臭い占いの露店(こうは言っているものの、私も何度か占ってもらったことがある)しかない学生街が、この辺が、このように混むことなど今まで見たことがない。
私は目の前の光景に困惑したものの、通りの人々がどこか一方向に行こうと焦っているのを見て、何となく、どことなく危機感を覚えた。
災害かそれとも事故でも起きたのではないかと思い、誰か事情を話してくれる人はいないかと通りに目を凝らす。
すると、群衆の中に周り比べて明らかに異様な風貌の男を見つけた。赤ヘルに角材、口を手拭で覆うという格好の男を。
私は直感的に、あの人ならこの状況について話してくれるだろうと思い、彼のところへと向かうことにした。
体を無理矢理、人混みのなかに捻じ込む。足を踏まれ、倒れそうになったが、なんとか、人と人のあいだから、赤ヘルが見えるくらいの距離まで近づけた。
私は赤ヘルの男にむかって、少し背伸びをしながら、手を彼の方へ出して声をかける。「すみません!」目一杯大声を出す。
「なんだ?」赤ヘルの男がこちらを向く。どうやら気づいてくれたようだ。
「聞きたいことがあるんです!」私は人混みを何とか掻き分けようと、何とか彼の隣へ、話せるところへ行こうと、人と人の間に腕を伸ばす。
すると彼は私の手首をつかみ、無理矢理、人混みの中から彼の元へと私を引き寄せた。
「何を聞きたい」彼は無表情で、一言だけ冷たく言い放つ。
私は内心、彼のあまりにも緩急のある立ち振る舞いに戸惑い、彼の表情や口調からおじけづきそうになったが、すぐに質問をした。
「この騒ぎはなんですか?地震ですか?」
すると彼は、先ほどとは対照的に、妙に気持ちの悪い笑顔を浮かべ、
「これかい?これは革命だよ」と、そしてすぐに興奮冷めやらぬ口調で
「今に見給え、皇居前広場は人民広場に、帝国議事堂は人民議事堂に変わるよ」と言った。
眩暈がした。現実感が足元から崩れ去っていく。
私は右派でも左派でもない。そもそも政治やら経済、ましてや天皇制になんて全く興味のない、所謂、ノンポリと言われる人間だ。
気にすることがあるとすれば、煙草税の増税くらいだ。
だが、宗教が習慣や無意識となって、その人間の行動や思考に影響するように、学校で教えられた規範が、身に染みついて離れないように、私にとって「天皇」や「民主制」「非暴力」といったものは、それらと同様の、謂わば「常識」であった。それが今、なんの前触れもなく、犬笛の音もなく、目の前で突然、壊れようとしている。まるで、紙魚に食われた古書のように。
その、持ち上げただけで散り散りになろうとしている古書と、それを持ち上げ、更には破いて屑籠へと放ってしまおうとする者とを見て、私の現実感は足元から崩れ始める。
遂には、現実感をほぼ完全に喪失してしまった。
民主制と非暴力が、天皇制が、451℉の炎に焼かれ、灰になろうとしている事実に、漠然とした恐怖と嫌悪感を抱いていた。
しかし、何故だろうか?同時に、目の前の光景に妙な、形容しがたい高揚感も抱いていた。
私は震える声で赤ヘルの男に問う。
「この人だかりは……何処へ向かっているのですか……?」
「皇居だよ。そこに黒五類の連中が磔にされてるのさ。そいつらを、ここにいる全員でいたぶり殺してやるんだ。君も来るかい?」
私は吃るばかりで返せなかった。声にならない音がでるばかりだった。
脳裏に六十四卦の十二番目、天地否が浮かぶ。
人の道がまともに行われない。君子がいかに貞生を守り、事を行うとしても行えない。大人が追い出され、つまらぬ小人がのさばっている時だからである————
「なに、怖がることはない。今から俺たちは右だろうが左だろうが、帝国議事堂で惰眠を貪るだけの能無しどもを、処刑台にかけて我々の欲する正義と、理想郷を手にしようとしているだけだ」
さっきから、たじろぐばかりの私を見かねてか、赤ヘルの男がアジテーション……なのか、彼らの目的と手段、そして勧誘と安心させるための、なだめる文言を並べた。
「あそこに山車が見えるだろ?それに乗って、一緒に議事堂まで行かないか?」
赤ヘルの男は、自分の背後に親指を向けながら、また誘う。彼の後ろ、群衆の中に、荘厳な金色の山車があった。山車からは鈴と太鼓、篠笛の音が聞こえる。
私は茫然としながら、ただ、ある一つの考えに埋没しながら、虚ろに一言「はい」と返し、赤ヘルの男に手を引かれ、山車へと乗せられた。
山車の中へ連れられ、大勢に引っ張られても、まだ私は埋没から抜け出せなかった。或る一つの考えが、眼前の処理を妨げていた。
貞生を守る大人とは、恐らく大元帥と議会の良心のことだろう。そして、つまらぬ小人とは、赤ヘルの男が言うような、能無しどものことだろう————。
しかし、小人はそれだけなのだろうか?赤ヘルの男、大衆、そして私————これらが小人だということも……
そもそも、能無しどもが本当に小人だというのも……
私は、答えの見えぬ問いの迷路に右往左往しながら、赤ヘルの男と、山車の中に敷き詰まった、「七生報国」、「北朝打倒」と書かれた鉢巻きの男たちに天上へと担がれる。
山車はゆっくりと、ヨーロッパの投石器のように、群衆と共に都心へと、皇居へと向かう。合戦前の戦象のように、ハンニバルの軍団のように。
まわりを見回すと、私と同じように茫然と、或いは巻き込まれてしまったといった、困惑した顔の人々がいた。
山車は、初めて猟銃で獲物をしとめた子供のように、銃をほうり投げて、恐る恐る獲物に近づく子供のように、ゆっくりと、のろのろと、さらに雅楽を奏でながら、動いている。
私は、インドネシアのトゥクトゥクから見るような、窮屈で不便そうでのろまで、だが妙に活気づいた景色を、上の空で眺めるだけだった。
祭りは参加者を増やし、都心へ着くころには、どの大名行列にも勝る、百鬼夜行ができていた。百鬼夜行は、国道から、裏路地まで、あらゆる道という道を埋め尽くしている。
たぶん、空から見たら、私たちは都心を這う、ヤマタノオロチに見えるだろう。
私は、最初こそ戸惑い、混乱していたが、時間のお陰か、今はこれを「普通」と思いつつあった。
もっと言えば、「流れに身を任せよう」といった具合であった。何なら、「流れに乗るのもありだな」などとも思っていた。
この熱狂の中、「以前の普通で」あろうと務めるのは、ほぼ自殺行為だと思ったから。
また、いつもの無関心が、便乗精神が、私の美徳がそうさせた。
「止まれ!」
前方の先兵達がそう叫ぶと、群衆は行進をやめた。山車も慣性に逆らいながら、軋む音を立てながら止まる。
木の軋む音、最後の太鼓の音、雑音が止む。
それから、前方から人のか細い、隠し事するような、手のひらを口の横に置く、話し声が前方からリレーのように流れてきた。
話し声の波が丁度、山車を過ぎると、下のほうから粗暴な、はしゃぐような足音がこちらへと向かってくる。
足音の主は、天上の扉を大げさに開け、私の肩に手を置く。
「サアサアサア!皆さん、着きましたよ。旧皇居前広場、現コンコルド広場、そして、未来の人民広場へ!」
振り返ると赤ヘルの男が、私の肩に手を置きながら仰々しく、バスガイドと為政者の中間のような調子で、天上にいる全員へ、そう呼びかけていた。
天上にいる人々が、ぞろぞろと下へと降りていく。
赤ヘルの男が、次は私に、
「今からオモシロイものが見れるぞ。来るんだ」
と、ゆっくり、私をうながすように外へ案内しながら話した。
広場の中心には、粗末な舞台と、舞台の前に二台、柱と木枠の腐った、しかし刃の輝いたギロチンがあった。その周りには、真っ黒な制服と真っ赤な腕章の、SS(ナチ党親衛隊)によく似た格好の男たちが囲んでいる。
ギロチンと舞台。このセットの見栄えを良くするためなのか、広場の、見事な桜は跡形もなく切られていた。
私は、切られた桜を見ながら、「なんて勿体ないことをするんだ。咲けば、まだ綺麗なのに」と、無念に思っていた。
すると、一人の男が、群衆に罵倒され、引きずられながら、舞台へと、晒し者として上げられた。
男の方に目をやる。男は、所々破れたスーツを着ており、長い三角帽を被らされ、胸からはプラカード、足には鎖と丸い鉄塊を下げられていた。
プラカードには、「売国藁男!」と書かれている。
群衆は、男が俎上に上げられたのを見ると、野太く、甲高い、純正の悪意が籠った絶叫を揚げる。
内容は様々、「処刑を熱望する」ものから、「街中で引きずり回して晒し者にしよう」というものまで。百人いれば、その百人全員が、千人いればその千人全員が————というほど多くの、違う内容の叫びが聞こえた。
しかし、これだけ多くの声があっても、「彼を生かそう」「彼に温情を」という声は無かった。
私は、檀上でじっと口をつぐんでいる彼のことなど、全く知らなかった。だから、最初は恰好だけ、ぱっと見だけ、この広場の多数派に見えるように、非難めいた視線を彼へ送ることしかしなかった。
すると、赤ヘルの男が、山車を出てから意識の範疇に居なかった彼が、再び、唐突に私の意識と認識に入ってくる。
「どうだい、実に愉快で楽しくて、そして良いストレス発散だろう?」
私は、この言葉に、どう答えて良いかわからず、ただ、ここでも周りに合わせようと、そして間違わぬようにと、こくり、と一回だけ頷いた。
「ギロチンにかけろ!殺せ!————ハハハ、良いね。大変よい。どうだい?君も叫んでは?」
更に困る問だ。どうすべきか————
周囲を見回す。
「嬲り殺しのほうが見栄えが良いぞ!」
「そうよ!石を投げて、それで殺しましょ!」
「火炙りにしよう!」
「いやギロチンだ!人道的にそうだ!」
「輪転機に詰めて殺そう!」
殺すという意見が多い。赤ヘルの彼もその意見だ。
どうやら、ここでは殺すという意見に賛同した方が良いらしい。じゃあ————、
「ギロチンで処刑しよう!」
私は思い切り叫ぶ。その後も数回、同じセリフを繰り返す。ギロチンで、ギロチンでと。
ギロチンを選んだ明確な理由は無い。ただ、なんとなく響きがよかったから、この中で聞いていて、一番、耳触りがよかったからそうした。
私は一通り叫び終わると、息を切らしながら、酸欠の頭で、周囲と赤ヘルの男の反応に注意を向ける。
周りは、先程と変わらず叫び続けている。赤ヘルの男は————
赤ヘルの男は笑っていた。満面の笑みを、しかし歓迎や賞賛ではなく、嗜虐趣味者が、そういうビデオを見るときのような、悪趣味な笑みを浮かべていた。
「いいじゃないか!素晴らしい!」
と、黒い眼を輝かせながら、そして、
「ギロチンで処刑しよう!ギロチンで処刑しよう!ギロチンで処刑しよう!————」
私のセリフを、イントネーションまで完璧に真似て、繰り返し叫んだ。
不適な笑みで、大声で、舞台の方へ何度も。
彼が叫ぶのを止める。すると、大袈裟に、演劇のように体を私の方へ捻り、
「さあ!もっと言おう!訴えよう!」と。
私はまた、同じセリフを繰り返した。広場に溶け込むように。
広場の熱狂はすさまじいものだった。過去のどんな暴動も、このシュプレヒコールと劇の前では、整然とした、冷静なものに映るほどに。
私は、場の狂気にただ従うしかなかった。周りに合わせて、知らない人間の、知らない罪状を連呼し、処刑を要求する。私の癖が、傍観がそうさせた。
酸欠になりながら、息を求めて上を向きながら、あごから大粒の雫を落としながら、何度も叫んだ。
私は、檀上が今どうなっているか、それすら分からなくなるほど、身を震わせながら、必死に叫んでいた。
ふと気づくと、檀上に先程の男、知らぬ彼はいなかった。
代わりに、ギロチンによって裁断された、彼の頭と体、彼の被っていた三角帽、「売国藁男!」と書かれたプラカード。
そして、同じような、しかし男女も年齢も異なる死体と、装飾品がギロチンの両脇に、うず高く積まれていた。
彼とその後続の消えた壇上には————よく知る人物がふたりと、そして————よく知っていた顔が一つあった。
二大政党ブロックを構成する二党の頭領と、そしてこの国の象徴。
壇上に、その二人と一つが晒されていた。
二党の頭領は、やつれたワイシャツと穴のあいたズボンに身を包み、麻縄で上半身を、手を後ろに縛られ、檀上の左右に立たされている。
その中間に————檀上の中央に————大元帥の首が、祀られているような、貶されているような、そんな二義の間の、曖昧な様子で晒されていた……
嗚呼!なんてことだ!このままでは本当に————本当に民主政と、正統が潰えてしまう!
民主政という意志決定プロセスと、正統という過去性、模範が消えてしまえば、そこに生じるのは無秩序だ!集合意識の消失だ!
『我々』という共同体の出自も、自我を形成する基盤も、我々の中にある『約束』も、それらが、正統という背景が————民主政という契約が、ギロチンと石、輪転機で、反転してしまう!対義語になってしまう!
私は崩れた現実と普通の再建を、破壊の阻止を哀願した。
私のクオリアはやっと彼岸から此岸へと帰ってきた。
目の前の、これから起ころうしている、更なる惨状を嘆くよう、止めるよう、祈っている。
しかし、思考が正常になっても、できるのは祈りのみ。助命を請う叫びを、私は上げられなかった。
確かな意識はあるのに、その意識が行動にでることはなかった。
冷静は、狂気の前ではあまりにも無力で、弱々しいものなのだ。
群衆の誰かが、一つ、こぶし大の石を壇上へ投げた。
石はどちらの党首にも、大元帥の首にも当たらなかった。だが、
ほどなくして、石の波が舞台を襲う。壇上を飲み込む。
党首は石に打たれ、倒れこみながらも、身をよじらせ投石を避けようとする。だが、その賢明な努力も虚しく、右へ往けば右へ、左へ往けば左へ、後ろへ遠ざかろうとすれば放物線に、石は方向と距離を変え、絶え間なく彼らへ降り注いだ。
いつしか、群衆から向かって右側に立たされていた党首は、動かなくなった。
てらてらとした血液と、白みがかった脳を晒して死んでいる。
そして間もなく、向かって左側の党首も死んだ。
彼は細長い腸と、形もわからなくなった、肝臓なのか膵臓なのか腎臓なのか、それすらわからない臓物を溢しながら徐々に動きを止め、死んだ。
大元帥の首は石が数発あたったのか、倒れはしたものの損壊は免れていた。
生が一切奪われ、途絶えた舞台に、SSのような格好の男が数名あがる。
遺体を両脇から持ち上げ、檀上から引きずり下ろす。そして、ギロチンに無理やり、もう死んだ党首らを、もうこれ以上殺す必要のない死体を置いた。
制服の男たちがギロチンの横に立つ。刃を下ろそうとしている。
広場は先程とは打って変わり、静まりかえっていた。が、狂気は健在のようだ。
目を爛々とさせた群衆が、スタンディングオベーションを構えるような、吉報を待ちわびるように身を小刻みに震わせている。ギロチンを大きく見開いた目で凝視していた。
頼む、やめてくれ。
そして、動いてくれ叫んでくれ————私よ……。
ストン————
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