2-2

 「えー、では当館を志望した理由を聞かせてください」


 「はい!私にとってエル様が人生だからです!!」


 「…………」


 「あ、あのう…………握手してもらえますか……?あ、あと、これ手作りなんです。愛情いっぱい込めて作ったんです――だ、大丈夫です!!別に変な物とか入れてませんから!!本当です。だから――――」


 「申し訳ない。今は面接中だから――あと、規則で食品等の差し入れは原則禁止しているから受け取れ――――」


 「どうしてですか!!??」


 「え?いや、今規則でって――」


 「何でですか??私!こんなに一生懸命作ったのに!!もしかしてエル様も私が頭おかしくなったって思ってます!?違います!!私はただあなたを愛しているだけ……エル様だって、ねえ……?あの日の事憶えてますよね??」


 「え……?いや、あれ?僕たち初対面だよね……?」


 「嘘だっ!!!……そんなはずない……!!こんなのエル様じゃない!!!!……お前偽物だな!!??あ……?もしかして、あの女に……?」


 女は虚ろな視線をエルハルトの隣に座るメイリに向けると、今日も手元のスマホで世界を救っていたメイリはその視線に気づいて顔を上げた


 「え?私?」


 「そのスマートフォンから今すぐ手を放しなさい!!」


 「それはそう」


 エルハルトは今日初めてこの女に共感した。


 「そのスマホでエル様を操ってるんだ!!そうに違いない!!……エル様?そうですよね??今私が助けてあげますからね??」


 しかし、エルハルトはすぐに彼女が自分の理解を超える人物だと気付いた。

 もう限界だ。エルハルトは狂気を孕んだ視線で、片手で抱えた小包を持ちながら迫る女性に、かなりの恐怖を覚えて、彼女の後ろに控えていたミーシャに目線で救難信号を送った。


 「はーい、ごめんなさいねー、時間なので退席お願いしますー……結果は後日メールでお伝えしますのでー……はい……あと、もし玲瓏館より、あなたから何らかの迷惑行為があったと通達がありましたら、あなたの玲瓏館および村全域の立ち入りが制限されてしまう可能性がありますので、ご理解のほどよろしくお願いいたしますー」


 エルハルトの救難信号にミーシャは一つ頷くと、エルハルト達には絶対に見せない、堅苦しい言葉遣いをしながら、的確に仕事をこなし、エルハルトに迫る“雇用希望者”を引きはがして、共に面接室の代わりとした別館の応接間から退室した。


 「あ、私、ミーシャさんのサポート行ってきますね」


 「あ、ああ……頼む」


 そして、メイリの隣に座っていたメアも立ち上がる。こんな時でもメアは働き者だ。でも大丈夫かな……あれの相手をさせて……教育に悪いんじゃないかな。

 しかし、エルハルトもそこまで考える余裕はなかったようだ。次々と訪れる多様性あふれるモンスターたちに、疲労困憊になって、面接室に設えた長机に突っ伏した。


 「あーもう、毎度のことだけど玲瓏館の面接、まともな奴が来ないな……」


 「まあ、今のところ、外見か中身のどっちか、もしくは両方がやばいやつしか見てませんからね」


 しっかりとエルハルトの隣を確保して座るメイリが、スマホ片手に手元の履歴書を眺めながらいった。


 「いや、お前もちゃんと僕を助けろよ!!画面の奥の救援行ってんじゃねえ!!もっと助けるべき相手がいるだろ!!」


 「大丈夫ですよ、今日はミーシャさんが居ますから……それに――――こっちはもうあと三分しか時間が無かったんです!今過疎ってるマルチだから誰もいないんです!私しかいないんです!」


 「いや、知らんがな」


 「はっはっは――良きことではないですか、個性的で」


 事務職求人という、玲瓏館にとっては最高難易度の職務に嘆く館の主を見ながら、エルハルトを挟んで、反対側に座る、ロマンスグレーという言葉が完璧に似合いそうな頭髪と、綺麗に切り揃えられた口ひげを持つ男性が、その渋い声を鳴り響かせるように笑った。


 「じいや、さっきのは事務職希望で、別館が主な職場であるお前にとっても他人事じゃなかったんだぞ」


 「おやおや、私は彼女のあまりの殺気にてっきり、ダンジョン希望者かと思いましたぞ」


 「いや、返しが適当過ぎるんだよ。そんなこと一ミリも思ってなかっただろ」


 「はっはっはっは」


 館に主人がいて、メイドもいるなら、執事もいる。それが玲瓏館の真の主たる創造主の言葉だった。

 彼の名前はアレクサンダー。アレクサンダー・ウィトゲンシュタイン。しかし彼の名前を玲瓏館の仲間たちが呼ぶことはない。何故なら彼には“じいや”という神に授かりし“あだ名”があるから……ていうか、みんなもう彼の本名覚えてないんじゃないんすかね。


 「まあ、お前にとったら、あんなのなんの問題にもならないか……なんかお前強そうだもんな、なんかガン〇ムファイト前回大会優勝者みたいな声してるもんな」


 「はっはっはっは」


 そして、彼が戦うところをエルハルトは一度も見たことがなかった。彼は創造主の最古参のネームドの一人でありながら、ダンジョンに配置されたことは一度もない。なぜなら彼の役割はどこぞの似非メイドのように戦うことではないからだ。今日までもそしてこれからも彼は創造主の言いつけ通りに、玲瓏館の別館の執事業務を全うし続けることだろう。

 ……でも絶対強い、よくわからんけどめっちゃ強い。多分……


 「僕じゃなくてこいつをダンジョンに配置しろよ――――……はあ、もうじいやのことはいいや……創造主様(母上)への文句しか出てこない――」


 そういうとエルハルトはその奥に視線を移して、じいやとは比較にならないほどの問題児に声を掛けた。


 「一応こっちも構っとくか……おい!起きろ!!テオ!!!お前だよ!!」


 エルハルトは長机の奥の、大柄のじいやの陰に潜むようにして机に顔を伏せる彼に届くように、首を長くして、声を張り上げた。


 「んん……どうした、エル……もう終わったのか?」


 彼の名前は玲瓏館の地下に潜む錬金術師(アルケミスト)、テオス・プラストス、通称テオ。

 テオはその不健康そうに目の下に隈を浮かべた顔を持ち上げた。


 「うおっ……お前ちゃんと寝てんのか……?研究もいいけどちゃんと夜は寝ろよ……ってそうじゃなくて――――おい!!違う!!今は寝るな!!起きろ!!一応お前だって他人事じゃないんだ。研究を邪魔するような奴が来たらいやだろ?」


 「そんな奴、少しだけ永い眠りについてもらうからなんでもいいよ」


 「いや、駄目ーーー!!お前そういうとこだぞ!!もう時代が違うんだよ!!お前が人を眠らせたら、次はお前が長い眠りにつかなくちゃならんことくらいわかってるだろ?」


 「ああ゛、もう、もうめんどくせえな……わかった。おい、その紙貸せ」

 

 「ふむ、良いですぞ」


 「おい、じいや――」


 「はい、全部採用ーー」


 「おい、待て待て待て、そのハンコから手を放せ!!お前本当に今までの面接見てなかったんだな!!こいつら採用したら、お前の研究所ごとダンジョンが吹き飛ぶぞ」


 「いや、逆にダンジョン吹き飛ばせる新人ってなんだよ」


 「すまん、盛った。でもそれに近いことは起こる……たぶん……そうなったら、お前、我慢できんのか?」


 「――――……我慢する」


 「出来るわけねえだろ!!お前自分が何でここに捕まってるかわかるか?前にいたダンジョンのバイトを薬漬けにした後に“ねこがいる”としか言えなくしたからだろ!!」


 「いや、あれは俺のせいじゃない。俺はむしろ――――いや、まあ、あいつはDクラスだったしいいか」


 「何言ってんだお前!?そういうとこだよ!!」


 エルハルトはその話題に、なんだか気軽に首を突っ込んではいけないような、不穏な気配を感じて早々に会話を切り上げた。


 「――――とにかく!!……毎回言ってるが、この採用面接はお前たちにとっても無関係じゃないんだから真面目にやれ!!……毎回こんなんで、問題が起こった時だけ全部僕に責任を押し付けようとしてくるの、本当どうかしてるよ!!」


 エルハルトはあまりに悲惨な玲瓏館の中枢組織を嘆いた。もしここが底辺大学の一番後ろの席だったとしても、もうちょっとましな面子が並ぶだろう。


 「はあ、もう次だ次!!とにかく、まともそうなやつが来るまで数をこなすぞ!!メア、ミーシャ、帰ってきてくれたところで悪いが、次の希望者を呼んでくれ」


 出るまで回せば100%。誰が言ったか、どんな確率が低いガチャでも、気合と金で何とかなるのだ。

 エルハルトは仕事を終えて、部屋のドアをくぐったばかりのメアとミーシャに声を掛けて、次なるモンスターを呼び出す。


 「えー、それでは当館を志望した理由を聞かせてください――――」


 

 ――――――――


 ――――


 ――…………



 そして、無為な数時間が過ぎた――――


 「おいおい、やべえよ。もう日が暮れるよ……何でこんなモンスターしか来ないわけ?どっから湧いてくるの?むしろ見つけてくる方が難しいよね?」


 「ストーカー、なんか霊が見える人、なんか霊が見えて、なんか憑依してる人、壺を売りつけようとしてくる胡散臭い宗教信仰者、情報教材を売りつけようとしてくる聞いたこともない企業の社長、プロ市民、迷惑系ようつ~ばー、自称ハイパーメディアクリエイター、自称国際派経営コンサルタント――――うーん、大入りですね」


 充電が切れて、スマホに充電器を差し込んだまま、それでもまだスマホを手放さないメイリが、積みあがった履歴書類の中から、適当に引っ掴んで眺めた。


 「ていうかほとんど詐欺師!!まだ捕まってないだけの詐欺師!!」


 「はっはっはっは……良いではないですか、個性的で」


 「お前そればっかりだな。それで乗り切ろうとするなよ、お前、姿勢はいいけど、それ以外は一番酷いぞ」


 「はっはっはっは」


 じいやはこの長丁場でも揺るがぬ体幹と姿勢で、高らかにその低く、渋い美声を部屋に響き渡らせた。


 「でもなんか許せちゃうんだよなー、いいなー、僕もあのメンタルと声欲しい――――……それに、あと、もっと酷い奴も隣にいるけど……まあこいつはもういいや。彼は死ぬほど疲れてる」


 そしてエルハルトは死んだように長机に顔を埋めるテオを一瞥して、それ以上の言葉を投げ掛けるのを諦めた。彼もまた死ぬほど疲れていた。


 「もう、ダンジョン志望者は前半で十分集まってるからいいんだよ……この無為な後半戦は何だったんだよ。普通でいいんだよ、未経験でもいいんだよ……もう時間がない。頼むぞ……でなきゃ、あの魑魅魍魎から事務員を雇うことになる……!」


 そう、「出るまで回せば100%」……ではあるが、彼にはそれをする時間が無かった。

 ダンジョンの中途採用は、就職希望者の安全性の観点から、原則エリア管理者――今回ではミーシャ――の立ち合いが必要であり、その都合上、こうして面接を行える機会は限られていた。具体的に言うと、玲瓏館に許された面接の機会はこの一日限りであり、次に行えるのは、ミーシャの贔屓があったとしても、少なく見積もって三か月後、もっと悪ければ半年後となってもおかしくはなかった。そして、その千載一遇の限りある一日は、大半が過ぎて、残された時間はあと一人がやっとという時間帯に差し掛かっていた。


 「次が恐らく最後になる……真面目に働いている玲瓏館の皆のためにも……!」


 エルハルトは長机に連なるメア以外の面子の顔を見て、大分気概が削がれたが、彼はそれを見なかったことにした。


 「――――頼むぞ……!ミーシャ、次の希望者を頼む」


 「はーい。次が最後の希望者だよ」


 「ああ、わかった」


 そして、気付けば残す履歴書もあと一枚になっていた。正真正銘これが最後だ。


 ――――――………


 ―――……


 『なんか……普通ですね』


 『普通……ですな』


 『ぐぅ…………』


 「それでは当館を志望した理由を聞かせてください」


 「えーと、はい!、貴館のことは以前から存じており、とても美麗な装飾とこだわり抜かれた意匠に、繊細な心遣いとおもてなしの心を感じて、いつか自分も携われたらと思っていたところ、こうして中途採用のお知らせを見掛け、これは二度とない機会だと思い、志望させていただきました」


 『うわー、可愛い女の子ですね!あ!あの耳……エルフさんでしょうか……?私久しぶりにお見掛けした気がします……!』


 『そうね……ここら辺には彼女らの里は無かったから……そして――ふふ、さすがエルフね。あなたの言う通り確かに可愛いわ……でも、メア、あなたの方が何倍も可愛いわよ』


 『お、お姉さま……!そんなことは……それに、お姉さまだって……』


 『うるせえな!面接中に念話でいちゃつくなよ!――――……まあ、でも、メアの方が可愛いのは事実だ』


 『そんな……!エルハルト様……!』


 『はっはっは……なんだか目の前のお嬢様が不憫でございますな』


 『ぐぅ…………』


 「あのぅ……?」


 「ああ!すまない!先に言っておくが、我々は念話である程度の打ち合わせをし、次の質問をする、もしかしたら不快な気持ちになってしまうかもしれないが、それはご了承いただきたい――――……ああ、もちろん、この端で寝ている男も本当は起きている。なんかいい感じに面接に参加している。だから安心してくれ」


 エルハルトはエルフの少女の視線が彼の両隣に並ぶそれぞれに向かって、最後に長机に突っ伏すテオに注がれた事に気付き、慌てて苦し紛れの虚言をのたまった。


 「え?あ……はい!もちろん大丈夫です!」


 エルハルトの虚言が通ったのかどうかはわからないが、少女はふるふると首を降って、若い新緑色の、色素の薄い、綺麗に手入れされた首筋までの髪を揺らした。


 『健気ですなあ』


 じいやはその姿を見て、感慨にふけるように念話上でそう呟いた。


 「えーと、アルスティアさん……でしたっけ」


 「あ、はい!」


 まだ幼さの残る顔立ちと、受け答えの彼女が、一番最初の自己紹介で名乗った名はアリア・ミリ・アルスティア。履歴書の年齢の欄には83とあるが、恐らく彼女の容姿と受け答えを見る限り、彼女らの種族の中では若年のうちに入るのは間違いなさそうだった。しかし、残念ながらエルハルトはエルフとかいうマイナー種族にはあまり親しみがなく、彼女が果たしてエルフたちの中で、どの年齢層にいるかエルハルトはいまいち掴むことが出来なかった。


 (ずいぶん若そうだし……うーん、新卒......ってことでいいのかな?この履歴書……なんか空白期間長くてよくわからん。でもエルフだしなあ……普通とは違うんだろうな……聞いた方がいいよな……いや、待て……それって種族差別とかになっちゃわないか……?)


 「…………」


 「…………」


 エルハルトはじっとエルフの少女を見つめる。エルフの少女は耐えきれなくなって、その翡翠を思わせる、透き通るような深い翠の瞳を地面へ向かわせた。


 (やべ、どうしよ……なんか話さなきゃ……でも、この感じ久しぶり過ぎて何したらいいかわかんない……真面目にやっといた方がいい……よな……?)


 そしてエルハルトは健常者との面接に親しみがなかった。


 「えーと?……自己PR……?とかってありますか?」


 「えと……はい!私は全エルフ簿記検定1級を取得しており、他書類作成ソフトの検定も取得しております。それらの取得には長い歳月が必要でしたが、日々コツコツと少しづつ勉強をすることによって、忙しい学生生活の中でも取得することが出来ました。私の強みはその日々の積み重ねだと思っています。貴社に入社した際にはこれらの資格や経験を活かすとともに、さらなる努力を続けていきたいと考えています」


 「え?……ああ、はい」


 『え?何で?何でこの娘突然流暢に自分語り始めたの?こわい。資格持ってますだけで良くない?』


 『それはエルハルト様が自己PRを聞いたからでございます』


 『え?あれってそういうもんだったの?ていうか、貴社って何?うち別に会社とかじゃないんだけど、あと全エルフ簿記検定って何?1級ってすごいの?』


 『…………』


 肝心なことは誰も教えてくれない面接24時。


 「あのぅ……」


 「ああ、ごめん、ごめん。偉いね、すごい頑張ったんだね。ありがとうね、うち受けてくれて」


 「え?――――ああ、はい……その……こちらこそ?ありがとうございます?」


 『ああ、なんか駄目そう。やばい、この娘たぶん普通の娘だ。誰か助けて』


 『…………』


 メーデー!~面接事故の真実と真相~


 (落ち着け、エルハルト。僕は何年もダンジョンの面接をやってきたんじゃないか、普通でいいんだよ普通で。普通のこと聞けばいいんだよ)

 

 「えーと……この、アルステリア308番地3番目の樹の上……この住所はご実家でしょうか?」


 「え!?――――は……はい」


 しかし少女は聞かれたくない話題だったのか、エルハルトの問いに細い悲鳴のような声を上げた。


 (え?なんかまずいこと聞いたかな?通えるか聞きたかっただけなのに……)


 しかしエルハルトは聞いてしまった以上話を続けなくてはならない。


 『えーと、アルステリアってどこかわかるやついるか?遠いのか?』


 『ええ、そこまで遠いとは言えませんが、通うには難しい距離であることは間違いないと思います』


 『なるほど……』


 (なるほど……少し遠い場所だから不安になっちゃったんだな。うん、きっとそうに違いない。でも安心しろ。僕はその為に聞いたんだ)


 「そうか、なら通いでは少し不都合があるかもしれない。もしよければ当館に下宿してもらっても構わないがどうだろうか。その為の部屋もまだ空きがある」


 「え?いいんですか?……その、私、まだ住む家とか決まってなくて、その……」


 「ああ、女子寮もあるから安心しろ」


 「よ、よかった~――――……あ、ごめんなさい。まだ採用決まったわけじゃないですよね」


 (……!?……え?何この流れ……これはいける……のか……?もう僕は駄目だと思ってたのに……普通だったらこんなやばい面接する就職先、すぐ辞退するぞ……)


 エルハルトはこれまでの面接の経緯から、相当自信を無くしていた。これからは選ぶ時代ではなく選ばれる時代という、ドキュメンタリーのテロップが頭の中に流れた。


 「…………」 


 「……あの…その…ごめんなさい、私――――」


 (いや?待てよ?これに乗じてノリと勢いで押せば、これまでの失敗もなかったことになるのでは……?)


 エルハルトはやっと訪れたSSR確定演出に、気が逸るのを抑えられなかった。


 「いや、君は採用だ!今すぐ契約しよう!――――……まともに会話できるだけで十分だ」


 「え……?」


 エルハルトの言い知れない雰囲気と、彼がぼそっと呟いた不穏な一言に、少女のその深い翠色の瞳の奥が不安の色に染まった。


 「おい、ミーシャ決まったぞ、契約の準備を進めて……ミーシャ?」


 「ごめんね、エル君、ちょっと履歴書見せて……」


 「ん?どうしたんだ?」


 扉のすぐ近くに控えていたミーシャはつかつかと長机に歩み寄って、メイリから履歴書を受け取ると、履歴書と少女の顔を交互に見比べた。


 (83歳……確かに身分証と差異はないけど、問題はこの娘がエルフだっていう事なんだよね……えーと……アルステリア……?あそこの成人年齢っていくつだっけ……なんか最近変わったとかだっけ……いや、そもそもエルフって基本的にいくつから成人なんだっけ……?あれー?これ大丈夫?)


 「おい、ミーシャ、どうしたんだ、何か不都合でもあったのか」


 (えーと……確かエルフの雇用規定は……里の成人規定による……か……どうしよ……ていうかこの種族閉鎖的すぎるよ、なんかよくわからない里いっぱいあるし、それぞれ全然別の規定だし、そもそも滅多に里から出てこないから事例も少ないし……ていうかこの子他の種族で例えると何歳くらいなんだろ……本当に未成年とかじゃないよね……?)


 「おーい、ミーシャ?」


 ミーシャは不安げに指先に視線を落としながら、時折ちらちらこちらを伺う少女を注意深く観察した。エルフ特有の整いすぎた顔の造形と、透き通った肌の質感は彼女の年齢感の特定を困難にしていた。


 (あーもう、全然わかんない。エルフって大体みんな顔一緒に見えるし、年齢も若い時のまま止まるから全然わかんないんだよね……でも明らかに若いよね……書類でもまだ二桁だし……大人っぽくはない……かといって子供でも……うーん、しかもこの娘、住む家決まってないって言ったよね……エルフが里から出てくることも珍しいし、もしかして、家出……?とか?)


 ミーシャもエルフとかいうマイナー種族に対してはあまり親しみがなかった。ミーシャが世界中を旅していたのは遥か昔の出来事である。彼女はもちろんその旅の中でエルフともそれなりに交流を果たしたが、それは大昔のことで、長命のエルフたちであっても、これほど長い時が経てば、規則や生活スタイルが変わっていてもおかしくはなかった。


 (でもなあ……学校っぽいところ卒業して十年くらい経ってるっぽいし大丈夫かな……でもエルフって良くわかんないんだよね……もし、未成年を働かせて、しかもそれが家出少女とかになったらさすがにまずいよね……)


 「なあ、ミーシャ頼むよ。俺達にはこの娘しかいないんだ」


 「…………」


 (どうしよ……これ、エル君に言った方がいいのかな……というかそもそも……)


 「ねえ、えーと……アリアちゃんだっけ?」


 「え!?あ、はい!」


 「アリアちゃんはここで働くの嫌じゃない?」

 

 「え……?まあ、その……自分から応募してますから……はい……」


 「まっ、そうだよね……」


 (……もし家出だとしたらどうして……そもそもエルフって滅多に里から出たがらないもんね……うーん……アリアちゃんどう見ても非行少女って感じじゃないし、冒険者って感じでもない……何か事情があるのかな……よし決めたっ……)


 「アリアちゃん……もし何か困ってることがあったら必ずお姉さんに言うんだよ。あっ、ええと、私はこのエリアのダンジョンを管理している、エリア管理者のミーシャ。ダンジョン雇用者のサポートをするのも私たちの仕事なの。だからね、困ったときは、その番号に電話するか、村のエリア管理事務所でミーシャって言えば絶対すぐに駆けつけるからね、あっ、もしかして魔法は使える?使えるんだったら念話でも大丈夫だよ」


 ミーシャは懐から名刺を取り出すと、アリアに渡した。


 「あ……えーと、そのアリアです。よろしくお願いします。魔法は少しだけなら使えます。でもごめんなさい魔紋を教えるのはちょっと……」


 「いいよ、いいよ。私のだけ覚えてくれれば……はい、それ私の魔紋ね……覚えた?」


 ミーシャは手のひらを伸ばしてアリアに手のひらを重ねると、力を込めて、念話の通話相手の識別に必要な“魔紋”と呼ばれる、形のない識別コードをアリアの脳に送り込んだ。もし相手が魔法を行使できる者であるならば、滅多なことではそれを忘れることはない。


 「大丈夫です……」


 「おいおい、どうしたんだ?いつもはそんなことしないじゃないか、やっぱ問題があるのか?もしそうなら……」


 「いえっ!!大丈夫です!!」


 エルハルトの問いに答えたのはミーシャではなく、エルフの少女アリアだった。


 (……この娘、何か事情があるのは間違いなさそう――――……ごめんねエル君。もしかしたらちょっと面倒なことになるかもしれないけど、彼女たちの一生は限りあるものだから……)


 ミーシャは彼女の態度を見て、確信を強めた。ミーシャの中には揺るぎない絶対的な天秤がある。それは彼女にとっては何事にも優先されることで、この姿こそ彼女の本来の姿だった。


 「これからよろしくお願いします!!」


 「そうか、ならさっさと始めるぞ。おい!!起きろテオ!他のみんなも――――」


 「じゃあ、アリアちゃん、これに名前を書いてね」


 ミーシャが懐から出したのは一枚の羊皮紙と――――


 「え、あ、はい」

 

 複雑な魔法陣が幾重にも重なって刻印された、正円のペンダントだった。手のひらに収まるほどの、少々凝ったつくりのアクセサリーは、ともすれば少し小さめの懐中時計のようにも見え、開けばその中にも複雑な魔導式が刻まれて、中心には一粒ほどの鮮やかな碧色の結晶がはめ込まれていた。


 「これはね、あなたを守るためにあるものなの。これがあれば、ネームドからの直接的な被害を防ぐことが出来るの。例えば攻撃魔法とかね。他にもエリア管理事務所への転送機能もあるから、もし危険を感じたらすぐにこの魔導式を起動してね。魔法使えるならわかるよね?」


 「大丈夫だと……思います」


 「よし、皆書けたな、ミーシャ、これでいいか?」


 「うん、大丈夫だよ」


 「私も書けました」


 アリアはミーシャに渡された、すでにインクをしみこませた古風な羽ペンを使って、羊皮紙の空白を自らの名前で埋めた。


 「じゃあ始めるからね。えーと青色の炎はこっちで、赤色の炎はこっち……」


 ミーシャは手持ちの鞄から、青と赤の火の玉がそれぞれ収められた、二つの摩訶不思議な瓶を取り出した。ミーシャはその瓶にはめ込まれていたコルクをきゅぽっと抜くと、先ほどアリアと玲瓏館のネームドたちが名前を記した羊皮紙を、その空いた口から入るように丸めて、それぞれアリアのものを青色の、ネームドのものを赤色の炎が収められた瓶の中に押し込んだ。


 「うん、燃え切ったね、で、しばらく火が消えるまで待って、靄(もや)みたいなのになったら二つを混ぜて……」


 押し込まれた羊皮紙が燃え尽きて、それを食らった炎が満足したかのようにそれぞれの色の、重く沈殿する靄のようなものを残して徐々に消えゆく様を見届けたミーシャは、その片方を持ち上げて、それをもう片方の瓶の中にその靄を流し込むと、もう一度コルクの蓋をして指でつまむと、ふるふると降った。


 「で、これを開けたペンダントの中に流し込む」


 ミーシャは混ざって、深い紫色のような色合いになった瓶の中身を、ペンダントの中の結晶の周りに掘られた窪みに、流し込んでいった。流し込まれた靄は結晶に吸い込まれるように中心に集まっていき、やがて溢れ出た靄はその密度を高めて、結晶を囲む紫の液体となった。


 「で、これが固まったら完成……ちょっと待っててね。固まったら蓋があかないように接着するから」


 「ほう、上手くなったもんだな」


 エルハルトはミーシャの手際を見て、謎に上から目線で評価した。


 「え、エル君……!?……そりゃあ、いっぱい作ってますから――――ていうか前も同じこと言ってたよね?」


 「ん?そうか?まあ最近じゃあ、規制も緩くなってきて、ダンジョンの短期労働者やアルバイトなんかでは作らなくても良くなって来てるからな……実際作ってるのを見るのは久しぶりだったから、ついな」


 「ええ、最近ではあの完璧な勇者ミーシャの唯一の弱点が見られなくて、寂しい思いをしてましたから」


 「もう!メイリさんも!……ほら、見てたでしょ?私、結構頑張ったんだから――――と、もういいかな」


 そしてミーシャは完全に固まったペンダントの中身を確認すると、ふちに開けられた溝に透明な液体を流し込んで蓋を閉じ、更に外側から同じ液体を淵に空いた隙間に流し込んで完全にペンダントを密封した。


 「よし終わった。これは肌身離さず持っててね。もちろんお風呂の時もだよ」


 「へ……?あ……はい!ありがとうございます――――」


 さすがに気疲れしてしまったのか、その不可思議な光景をぼけーとした表情で見つめていたアリアは、突然ミーシャに話しかけられて、焦ったように声を絞り出した。


 「ふふ、どういたしまして――――っと、あ、言い忘れてた。えーと……このペンダントはね、ダンジョンの機構とは違って、完全にネームドの善意の上で成り立ってるの。もし、これを悪用して、ネームドを故意に傷つけようとしたり、ネームドの不利益になるような事柄に使用した場合は、すぐにダンジョン管理協会に通達が行って、ペンダントの効果が得られなくなるから注意してね」


 「はい」


 「えっと……はい、詳しくはこの紙に書かれた規約を読んでね。あと、他人に譲渡した場合や、紛失してしまった場合についても、それなりの罰則があるからね。まあ、この魔法の性質上、他の人が使ってもなんの効果も無いんだけど、世の中そういうものを欲しがる人がいるからね、くれぐれも無くさないように注意してね」


 「……はい」


 「ごめんね、長くなっちゃったね。今日帰る場所はある?」


 「いえ、その……まだ宿をとれてなくて……」


 「うんうん、それなら仕方ないね――――ねえ、エル君、申し訳ないんだけど、この娘の泊まる部屋、今日からでも使わせてくれないかな?」


 「えーと……メア、アルスティアさんの使う部屋、今日からでも問題ないか?」


 「ええ、もちろんでございます。こんな事もあろうかと、お部屋は三日ぐらい前から準備させていただいております!」


 「ええ……?それはそれで怖いよ」


 少しメアはワーカーホリックのきらいがあるかもしれなかった。


 「じゃあ、メアちゃんあと、よろしくね」


 「はい、ミーシャさん私にお任せください」


 ミーシャから襷を受け取ったメアはアリアに向き合って、教科書通りの完璧なお辞儀をした。


 「初めまして、アリアさん、私、女子寮の管理、およびダンジョンのアートディレクターおよび、その他諸々の雑務を担当しております、メアと申します。これからよろしくお願いしますね」


 もうこの時点で役職が多いのに、彼女が請け負っている“その他諸々の雑務”にまとめられたすべての役職を記すには、恐らく文庫本サイズで1ページぐらいの余白が必要だろう。


 「あ、あの、アリアです。よ、よろしくお願いします!」


 アリアはちょっと緊張した面持ちでメアに向かう。きっと彼女の中ではこの娘に嫌われたら職場に居場所がなくなる、という本能的な直感が脳を埋め尽くしているに違いなかったが、それは見当違いな心配だ。何故なら、有史以来メアが嫌った人類など存在せず、仮にそんなことがあったとしても、居場所がなくなるのは、この職場だけでなく、この世界全てでの居場所だろうから。


 「今日はもう遅い。アルスティアさん、ちゃんとした自己紹介はまた明日にして、今日は部屋でゆっくり休むといい」


 「はい、ありがとうございます、えと――――」


 「ああ、僕は――まあ、知ってると思うけど――この館の主、エルハルト・フォン・シュヴァルツベルグだ。メア達みたいに様付けは抵抗あると思うから、そこらへんは自由にするといい」


 「はい、えと……ありがとうございます、エ――――」


 「ただし、エル様だけはやめろよ」


 「え?……あ、はい……エルハルト……さん……?」

 

 「うん、それでいい――――では、アルスティアさん、来たばかりで申し訳ないのだが、明日から仕事を頼めるか?もちろん本格的なものではなく、軽い職業体験のようなものになるように取り計らうつもりだが……」


 「えと……はい。大丈夫です――」


 「そうか、すまないな。では明日からよろしくな、アルスティアさん――――それじゃあ、メア、後は頼んだ」


 「はい、お任せください、エルハルト様」


 「えっと、その……こちらこそよろしくお願いします!お疲れさまでした!お先に失礼します!」


 「ふふ、では参りましょう、アリアさん。玲瓏館の女子寮は――――」

 

 返すべき挨拶の種類に迷ったアリアは、何とかそれっぽい単語をひねり出して急場をしのぎ、そのままメアに連れられて、面接室を後にした。


 「エルハルト様、絶対あの娘にやばい奴だって思われてますよ」


 「えっ?そうなの?好き勝手やってたお前らより……?」


 「ふふん、私は大丈夫ですよ。特にやばい発言もしてませんし、いい感じにスマホも隠してましたから」


 「はっはっはっ……外見をどう取り繕っても、結局はその心の在りようですぞ、お二人さん」


 「お前が言うと説得力があるな。なんせ、お前は見た目ばっかで、中身はすっかすかだからな」


 「はっはっはっは」


 「まあ……僕たちもこいつに比べればましか――――おい!起きろ!!地べたで寝るな!!ちゃんと部屋に帰ってから寝ろ!!」


 「……あと五分……」


 「こ、こいつ……!」


 「まあまあ、テオさんはきっと自分の部屋に帰ったら、研究に明け暮れると思いますから、まだこの地面の方がましだと思いますよ、エルハルト様」


 「ううむ……!なんて厄介な奴……!」


 エルハルトは土足の床に直に頬を付けて眠りこけるテオを、恨みがましく見つめた。


 「――――午後の採用者はあの娘一人だから……うん……これで良し――――じゃあ、エル君、私もう帰るからね」


 一人だけ黙々と、残った書類仕事をこなしていたミーシャが、立ち上がって荷物の整理を始める。


 「おう!今日はありがとな、ミーシャ。お前も久しぶりだったけど、何事もなさそうで良かった」


 「え?……ああ……おかげ様でね……今日は仕事スイッチ入ってたから……」


 「ん?よくわからんが、元気そうでなりよりだ――――あ、そうだ、あと折角だから……その……飯でも食ってくか?今日の当番はメイリだから美味いぞ」


 「――――なんかエルハルト様、田舎のおじいちゃんみたい……」


 とか言いつつも、メイリはエルハルトから直接、お前の作る飯は美味いと言われて、内心浮ついた気持ちになっていたことは言うまでもない。


 「え?いいの?……でも、うーん……なんか悪いな……」


 「大丈夫ですよミーシャさん。田舎のおばあちゃんは帰ってきた娘に料理を振る舞う事だけが生きがいなんですから」

 

 「何言ってんの!?メイリさん!?逆にこんな田舎のおばあちゃん居たら怖いよ!!しかも何気に私も娘扱いされてるし」


 「まあまあ、若いのに固いことは言わん方がいいですぞ、お嬢さん」


 「いや、まあ見た目はそうかも知れないけど、実年齢はじいやさんと私そんなに変わらないからね、たぶん……」


 「はっはっはっは」


 「もう夜になるから、その笑い方やめろ。近所迷惑だから……――――あと、ミーシャ」


 「えっ?何?エル君……」


 「もし、僕と食事するのが嫌だったら、メイリと二人で食べるといい。僕は時間をずらすから……」


 「え、エル君……」


 「――――少しよろしいでしょうか、エルハルト様」


 「え?どうしたメイリ、ちょっと怖いんだけど――――……え?なに?二人っきりはまだ気まずいから、皆でって……?」


 「…………」


 「えーと、すまない……諸事情でな……うちでは食事は皆一緒に食べることになってるんだ――――こういう……くそ引きこもりを除いてな……」


 エルハルトは地べたに寝そべるテオを、靴の先で小突いた。


 「だから、まあ、それでよければ……その……――――我々と共に食事を摂らないか、勇者ミーシャよ」


 「ふふっ……エルハルト様ちょっと照れてる……」


 「う、うるさいっ!」


 「ぷっ……ははっ……こっちこそごめんね。ちょっと野暮だったね。じゃあ、お言葉に甘えて今日はありがたくご馳走させてもらおうかな」


 「うむ、それでよい」


 「キャラぶれてますよ、エルハルト様」


 「はは……――――あっ、そうだ、アリアちゃんにも声掛けていいかな?」


 「え?アルスティアさんを……?別にいいが、なんかその……気まずくならないか……?いや、あの娘の方が……」


 「いや、まあ、そうなんだけどね、でも、たぶんあの娘、今日食べるものとか無いと思うから……」


 「ああ……それはそうか。うちに泊まるってことは村に帰れないってことだからな。そりゃあ、食うもんなんてないか」


 「そうそう、そういう事……それになんだか私、あの娘のこと気に入っちゃってさ……」


 「え……?ミーシャさんやっぱりそういう趣味が…………」


 「……?……って、違うよ!!メイリさん!!そういう事じゃないよ!!ていうか、やっぱりてなに?メイリさんなら知ってるでしょ!?――――って、あ……」


 「勇者ミーシャ……すまない、気付いてやれなくて……」


 「え、エル君……?」


 「英雄色を好むとは聞いていたが……まさかそこまでとは思わなかった……だけど僕も現代に生きる者として、その性的志向を否定することはできない……そして否定する気もない。お前は恩人であり、友だからな……」


 「え……?違うよ?エル君、違うからね……?」


 「だがっ!!!」


 「んん……あと五分……」


 床のテオスがエルハルトの大声に反応して呻いた――――近所迷惑だと思うから大声を出すのはやめた方がいいと思う……


 「アルスティアさんはもう、歴とした玲瓏館の従業員だ。もし、限度を超すようなスキンシップが見受けられた場合、僕とそして玲瓏館は君と距離を置かなくてはならない!!頼む!!勇者ミーシャよ……!君も大人として、節度ある態度と距離感であの娘と付き合ってほしい!!」


 「エル君、違うの、違うんだよ……」


 何か取り返しのつかないすれ違いに、その間違いを上手く証明できない自らに絶望を感じて、ミーシャは頭を抱えた。


 「おいたわしや、ミーシャさん……」


 「はっはっはっは」


 「んん……すやあ……」


 「頼む!ミーシャ!僕は君という友人を失いたくない……!!」


 「いや、違うからねーー!!!」


 結局みんなで普通に食事した。

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