第21話 VSゾンビライダー(前編)

 俺様こそが最速最強。俺様より速い奴はこの道に存在しない。

 なぜなら俺様は不死身のゾンビライダー。

 今夜もハイウェイを駆け抜ける・・・。


 ◆


「結局何も分からなかったですねー」

「何度も言わないでくださいよニニカさん・・・。だから言ったじゃないですかぁ・・・、何にもないですよって」


 わたしは別に文句を言ったわけではないのだが、イトさんは相変わらず気弱そうに自分に落ち度がないことをアピールしてきた。


 今日はメアリさんとイトさんがゾンビになった現場の調査に来たのだ。ここはイトさんの職場の施設ということで、基本的には部外者立ち入り禁止。なのでイトさんが、人がいないタイミングを見計らってコッソリ入れてくれた。


 ただ、イトさんが以前言っていた通り、事件後に職場の人がこの施設に入った時には、荒らされた形跡こそあれどメアリさんが殺したゾンビ達の痕跡などは残っていなかったらしい。荒らされた形跡とやらも、職場の人が片付けてしまったので、今日自分たちの目で見てみても何も残っていなかった。あまり使われていない場所ということでうら寂れてあまり生活環は無いが、それ以外におかしなところは無い。


「まああの事件からちょっと時間経っちゃってますからね」

「しょうがないじゃないですかぁ。皆さんをコッソリ中に入れてもバレないタイミングが中々なくて・・・」

「いやいや、責めてるわけじゃないですよ。むしろ無理をお願いしてすいません」


 アピリス先生とイトさんは、今日何度目かの同じようなやり取りをまた繰り返している。


「メアリさんは気分は大丈夫?もう落ち着いた?」


 わたしはわたしで、浮かない顔をしているメアリさんを気遣った。これも今日何度目かだ。ここはメアリさんにとっては場所。トラウマになってても仕方ない。


「ありがとう。大丈夫だよ。怨敵ダンテ・クリストフを地獄に叩き落すことを改めて誓っていたところ・・・!」


 うーん、大丈夫かどうかよく分からないけど、やる気は満ち溢れてるみたいだしまあいいか。


「じゃあもう帰りましょうか。だいぶ遅くなってしまったし」


 周囲はすっかり日が落ちている。わたし、アピリス先生、メアリさん、ジョージさんは、アピリス先生の軽自動車に乗り込んだ。イトさんはここでお別れ。とは言えイトさんは診察のため時々病院に来るので、ちょいちょい会うのだが。


 ◆


「結局何も分からなかったですねー」


 狭い車の中で、わたしはまた同じ感想を呟く。狭いと言うと失礼かも知れないが仕方ない。軽自動車の中に4人乗り込めば少々窮屈ではある。メアリさんは自分のスクーターを持っているのだが、今日の目的地はかなり遠いため、みんなで車に乗って来たのだ。診療所がある繁華街から、海辺に長く伸びる高速道路を1時間ほど走る必要があった。そんな中をアピリス先生が運転しながら私に答えてくれた。


「ダンテ達の痕跡でもあればよかったんですが、事件直後も何も痕跡が無かったというのは不可解ですね。そもそも、奴らはこれまでは廃墟とか、人が寄り付かない場所を選んできたはずなんですが、あそこは人の出入りがある施設だったのも変です」

「まあでも、普段はあまり使われないって言ってたし、見た目廃墟っぽかったから、単に間違えたのかも」

「まあそうかも・・・。とりあえずこの件は振りだしですかね」

「私も夜の街をパトロールしてますが、今のところ手掛かりはありません。私を襲った天井張り付きゾンビも見ないですし」


 わたしの隣に座るメアリさんが窓の外の景色を見ながら悔しそう声を漏らすと、それに答えたのは助手席に座るジョージさんだった。


「天井張り付きゾンビかぁ・・・。もうちょっとマシな呼び方無いのかな」

「じゃあ動きがトカゲっぽかったからトカゲゾンビで」

「じゃあそれで」

「トカゲタイプのゾンビかぁ。マイナーだけど結構いい映画があるんですよ」


 わたし達は勝手に命名の儀式をしていたが、アピリス先生は何も言わなかった。最近はアピリス先生も、他人がゾンビ呼びする分には黙認することが増えた。自分では頑なにそう呼ばないけど。ゾンビって呼んだ方が分かりやすいし楽だと思うんだけど。「患者」とか呼ばれても、いまいち分かりにくいんだよね。


 そんな事を思っているとアピリス先生が話しかけてきた。


「ネットの噂とかはどうなんですか?気になるものがあれば調べに行きたいですが」

「うーん、ネットは色々ですね。ゾンビの目撃情報は結構多いけど、流行りの都市伝説に便乗した嘘っぽいのも多いから、本物をどう見分けたらいいか分かんないです。あとは・・・」


 わたしは最近見た噂を思い出しながら喋る。


「女だけを襲うイケメンゾンビとか、ゾンビのメイドカフェとか、生まれ変わったらチート能力持ちのゾンビになれる秘密の儀式とか、夜な夜な高速に現れるゾンビライダーとか・・・」

「何かちょいちょい変なの混ざってない!?」

「都市伝説なんてそんなもんですよー」


 アピリス先生に突っ込まれたが、わたしは調べた通りを言っただけだ。


「そのゾンビライダーってのは?」


 ジョージさんが最後の話に興味を示してきた。


「最近、ここら辺の高速道路に夜な夜な現れる暴走族みたいですよ。派手なバイクに乗ってスピード勝負を仕掛けてくるんですが、『俺はゾンビライダーだ』って名乗ってるらしいです」

「どんな見た目なの?」

「何か黒い大きなバイクで、ヘルメットやライダースーツ、バイクにゾンビっぽいペイントがされていて、所々光っていて、信じられないスピードで危険運転するとか」

「それって本当にゾンビなのかなぁ?ゾンビっぽい恰好をしているだけのただの暴走族かも」

「そんな事わたしに言われても。そんなの分かんないですよ」


 わたしがブーたれているとアピリス先生が困惑した声で話しかけてきた。


「ニニカさん、さっき言ってたライダーって・・・」


 アピリス先生はチラチラとバックミラーを見ている。


「あんな感じの見た目ですか?」


 先生の言葉の意図を察して――――わたしたちはバッと後ろを振り向いた。わたしたちの車の後方から、ゾンビっぽいペイントのヘルメットとライダースーツの人物が跨った、ゾンビっぽい模様の描かれたバイクが迫っていた。

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