犯罪者の暇潰しは人生謳歌

とーじょう

第1話 プロローグ

 五歳。俺が初めて人を殺めた時の年齢だ。しかし、何も感じなかった。罪悪感なんていうのは存在しなかった。俺には常人ではあり得ない才能があるみたいだ。


『不平等』


 生まれた瞬間から将来が約束されているほどの才能のことらしい。ありとあらゆることが出来るとか。ギフテッドとはまた違うみたいで、それの副作用で髪の毛の色が真っ白になってしまっている。


 それを聞いた瞬間、俺は喜んだ。何でもできる。何にでもなれる。サッカー選手にでもなっちゃおうかな~。それとも、実業家になってお金を沢山稼ぐのもアリだな。……なんて考えていたが、そんなものに対する興味はすぐに無くなっていた。いや、無くなっていった。


 ……というよりも捨ててしまった、と言った方が適切か。


 それは、俺が居た環境が起因していた。俺が居た場所。それが最悪だった。


 犯罪者集団『折り紙』


 日本政府が黙認している日本最高峰の犯罪者集団。現在は俺を含めて六人が所属している。この国を裏から支える役割を担っており、依頼を受ければどんな仕事だってこなす必要悪だ。当然だが、そんな環境にいれば、サッカー選手も実業家も無理である。


 そもそも、俺には選択肢なんてものはなかった。俺がそこにいれたのは、犯罪者になるためだったからだ。


 約一〇年、俺は研鑽に研鑽を重ねた。訓練で死にかけたことなんて数千回はあるし、怪我をした回数は記憶力が良い俺ですら覚えていられないほどだ。全てはこの国を、大切なものを守るためだ。


 犯罪者と聞けば、危なっかしいとかサイコパスを想像するだろうが、そんなことはない。折り紙の人間は基本的に優しい。彼らと一緒にいられることは俺にとって幸せだった。もはや、家族同然だ。


 折り紙には様々な分野の頂点が在籍している。暗殺者、詐欺師、医者、料理人、教祖。全員が裏社会でその名を轟かせていた。俺は、全員から知識、経験などを教わり、そして、不平等の特異性を用いた人体実験を個人的に行うことに、ほぼ全ての時間を費やした。


 俺が十五歳になる頃には、実力も彼らに並んだ。いや、それ以上の犯罪者となっていた。


 それだけ。ただそれだけの人生だ。特になんて事のない普通の人生を歩んでいる。


 え?普通じゃないって?いや……普通だ。俺にとっては普通なのだ。


 犯罪者になって後悔したことは一度もないし。辞めたいと考えたことすらない。もちろんそれは、才能込みなのかもしれないけど、個人的には最高に楽しい。犯罪者は俺にとって天職だったのだ。


 今日もそんな最高で当たり前の日常を送るつもりだ。



 ところで話は変わるけど、キミにとって暇潰しとは何かな?


 ふむふむ、ゲームね。うんうん、音楽を聴くことか~。いいね。面白そうだね。やっぱり暇潰しは、独善的なものであったほうがいいよね。


 でもそれって、趣味でよくない?って、昔の俺は考えていたわけだよ。そんなに変わらないしね。


 だけど、全く違かった。暇潰しっていうのは、時間に余裕があるからやっているだけであって、時間に余裕がなくても、絶対にやりたい!というやつが趣味。全然違う。


 じゃあ、俺の暇潰しについて語ろうか。俺にとって暇潰しは………。


 ………ごめん、思いつかなかった。


 俺は今まで、暇なことなんて一日たりとも無かった。訓練で忙しかったからね。


 朝は訓練、昼は訓練、夜は訓練。依頼が無い日や、時間が少しでもあったら訓練。一秒たりとも無駄にしてこなかった。だから、家族との思い出もかなり少ない。


 それが唯一の心残りだね。でも、それでも良かった。


 才能がある俺が無理をすれば、家族が折り紙に居る意味が無くなって、必然的にみんな折り紙を辞めていく。そういう算段だ。


 それ位には家族を大事にしてきたはずだった。


 だが、それを失った日に俺はこう言われた。それは運命のようで。


「ねえ、学校に行ってみない?」


 十五年間生きてきた中で、最も衝撃を受けた言葉。あの一言で、俺の人生は多少変わろうとしていた。後ろめたい気持ちになったが、俺にとって魅力的ものだった。たまには、他人の幸せよりも、自分のことを優先してみようかと思ってしまった。



 それが、暇潰しの始まり。


 おっと、そういえばまだ自己紹介をしていなかったね。


 俺の名前は、時之宮鳴海ときのみやなるみ




 とりあえず、覚えといて。

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