人生最初の告白は

そばあきな

まだまだ諦められない恋


 その日は、言おうとしていたことの半分以上が頭の中で消えてしまうくらいには緊張しっぱなしで。


 でも、今言わなければ、きっと後悔してしまうと思ったから。

 そしてそのまま、彼女とはもう二度と会えないかもしれなかったから。

 だから俺は、勇気を振り絞って伝えようとしたのだ。


「ヒナちゃん、あのね――」

 小学生時代、たまに公園で出会って遊んでいた女の子に伝えた言葉。


 それが、俺の人生最初の、告白だった。



 *



 五年ぶりに戻ってきた地元に、俺の初恋の人はいた。


「……もしかして、ヨウちゃん?」


 夢にまで見たヒナちゃん――辻井雛海つじいひなみちゃんは、俺の顔を見て戸惑うように口を開く。


 五年前の思い出の中の彼女は、ショートカットの髪をなびかせた快活で元気な印象だったけれど、目の前の彼女はそれとは真逆の見た目をしていた。


 分厚い眼鏡に、あの頃より伸びた髪を結んだちょっと重ための三つ編み。

 それで彼女の可愛さが半減されることはないけれど、随分イメチェンしたな、という思いが浮かんだ。


 おそらく、彼女から見た俺も、かなりのイメチェンをしたように映っているとは思うけれども。


「うん、そう。こっちの高校に通いたくて、一人暮らし始めたんだ」


 眼鏡ごしに俺を見つめる目が、明らかに宙を泳いでいる。

 まあ、彼女にとっては俺は決して良い思い出の中の人物とは言えないのだろう。



 告白した時の記憶がよみがえる。

 俺の人生最初の告白に対する第一声は、こうだった。


「え、ヨウちゃんって、女の子じゃないの……?」


 どうやら、公園で会うくらいしか接点のなかった俺は、好きな子に今まで性別を間違われていたらしかった。


 確かに当時の俺は今より髪が長かった。加えて泣き虫でいつもオドオドしていた。  

 だから、彼女が当時の俺を女の子だと思っていても不思議ではない。


 それでも、俺の人生最初の告白は、こうして出鼻をくじかれた。

 ただ、それで諦めるほど、俺は彼女に対して本気ではないわけがなかった。


 悲しさと同時に、決意したのだ。

 いつか絶対、振り向かせようと。


 そして俺は現在の彼女に手を差し出し、宣戦布告のように口を開く。 

 


「――知ってるとは思うけど、俺は檜山ひやまよう。久々に戻ってきて不安だから、色々教えてくれると嬉しいな。だから辻井さん、俺と友達になってください」



 まずは友達からでいい。彼女だって、昔の知り合いとはいえ、いきなり友達面をしてきても戸惑うだろうから。


 ――まあ、友達で終わらせる気はないけれど。

 だって俺は、初恋の子に会うために転校して一人暮らしを始めるような重たい人間だから。


 俺の手の上に、彼女はおずおずといった感じで自身の手を載せる。


 たったそれだけの動作で心臓は容易く跳ねたけれど、それを表に出さず、俺は彼女ににこりと笑いかけた。



 これは、まだまだ諦められない恋なのだから。

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