黒縁眼鏡の刑事
広之新
プロローグ
私はある青年を追いかけていた。夜の暗闇に包まれた静まり返った街に2人の足音のみが響き渡っていた。前を行く青年は私をまこうと必死に逃げるが、私が逃がすわけがない。やがて彼は息が切れてきたようだ。しかもこの先は行き止まりだった。
彼はまもなく壁に阻まれた。もう逃げられない・・・振り返った彼の顔には恐怖の色が浮かんでいた。
私はやっとその青年を追い詰めた。捕まえるのはもうすぐだ・・・。だがその私の前に一人の男が立ちふさがった。その顔は暗い電灯に照らされて闇に浮かび上がった。
「橋本さん!」
私は驚いて声を上げた。彼は橋本刑事だった。私を通すまいと道をふさいでいる。
「頼む。見逃してやってくれ!」
「それはできません! 橋本さん。そこをどいてください!」
「いいや。どくことはできない」
橋本刑事はきっぱりと言った。その後ろで青ざめた顔をした青年が頭を抱えて震えていた。
「それなら無理にでも通ります!」
私は彼の横をすり抜けようとした。すると橋本刑事は拳銃を抜いて私に向けた。
「来るな! 日比野。動かないでくれ。ここからそっと立ち去ってくれ!」
橋本刑事は必死だった。
「橋本さん!」
私はその行動に驚いた。そこまでしてその青年をかばおうというのか・・・。だが私は彼の言う通りにはできない。
「そんなことはやめてください。橋本さん」
「いや、俺は本気だ!」
橋本刑事はトレードマークの黒縁の眼鏡をはずして投げ捨てた。彼の目は私を鋭く見据えている。怖いほど真剣な目だった。本気で私を撃つつもりかもしれない。私は彼の動きを目で追いながら、左手で肩さげバッグの留め金具を密かに外した。
「さあ、行くんだ!」
橋本刑事が私を追い払うように拳銃を振った。だがその隙に私はバッグから拳銃を抜いて構えた。
「拳銃を下して、道を開けてください!」
橋本刑事は私のその行動に驚いたようだ。
「日比野・・・」
「橋本さん。あくまでもかばうというなら私は撃ちます!」
私は橋本刑事を狙った。お互いが相手に向けて拳銃の引き金を引こうとしていた。
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