眼鏡が嫌いだった

緋雪

コンタクトにしたかった

「なんで、そんなにコンタクトにしたいの?」

顔をしかめながら、母が言う。

「いいじゃん、もう高校生だよ?」

「色々買ったから、お金残ってないわよ。自分で買うならいいけど?」 

「え〜」


 こうして、私の高校入学時でのイメチェン計画は脆くも崩れた。



 そういうわけで、私のコンタクトデビューは、お年玉を貰った後の、高校1年生の3学期に持ち越された。

 実は、中学時代から2年上に凄く苦手な先輩がいて、高校も一緒になったのだが、なんと、私は、あろうことか、その先輩とよく間違えられていたのだ。髪型もまあ似てるといえば、似てるかもだけど、原因はこいつ!


 そう、「眼鏡」だ。


 眼鏡の子でも可愛い子はいた。そう、いっぱいいた。

 でも、私はド近眼。眼鏡をかけたら、めちゃくちゃ目が小さく見えてしまう。人間、顔じゃないよ? なんて言うけど、女子高生は、絶対的に顔なのよ、お母さん!!



 コンタクトに変えると世界は一変した。めちゃくちゃ良く見える。 

 その上、友達からも、可愛いね〜って言われていい気になっていた。もうあの先輩と間違えられることもない。それどころか、クラスで可愛いと人気者の、しいちゃんにまで間違えられたりもした。


「よっしゃあ!!」 である。



 高校2年生の夏、告白された。


 正広まさひろは、クラスでも人気のあった男の子。私も仲の良いグループの仲間としていつも一緒にいたけど、実は意識していた。


「なんで私がよかったの?」

正広に聞いてみた。

「だってあやちゃん、可愛いじゃん」


 もう、聞いた? 世界中の皆さん。私、男の子に可愛いって言われたっ!!

 コンタクトの神様、ありがとうございます!

 私は何かよくわからぬ神に感謝したのだった。



 ところが。

 ところが、である。


 あろうことか、ある日、コンタクトを落としてしまったのだ。

 家の洗面所だった。排水口にホールインワンしたらしいそれは、もう二度と帰ってこなかった。

 仕方なく、その日は眼鏡で登校した。


「あれ? 絢、今日は眼鏡?」

「うん……。今朝落としちゃって」

「ふーん」

正広が私の顔を眺める。

「眼鏡だと、超ブスでしょ、私?」

「うん」

おい、ちょっとはフォローしろっ!

「でもさ、そっちの方がいいな、俺」

正広が呟くように言う。

「絢がモテると、心配でしょ。俺は絢のホントの顔を知ってるから、いいじゃん」

「えっ?」

そうなんだ。そういう考え方もありなのか〜。



 かくして、私の眼鏡生活は、再開したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

眼鏡が嫌いだった 緋雪 @hiyuki0714

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ