雨が好きな僕と雨が嫌いな君と

@utagekotobuki

第1話

雨は流す涙を隠してくれる

雨はすすり泣く声を雨音でかき消してくれる

雨は沈んだ気持ちを流してくれる


僕はこんな雨が好きだ。

でも、君はそんな雨を否定した。




夕暮れ時。僕は公園のベンチに座り空を眺め絵を描いていた。美しい夕焼けにうっすらと見える月と時間が経つと見えてくる星たち。美しいがどこか望んでいるものとは違う。

そんなことを考えていると隣から声が聞こえてきた

「絵、描いてるの?」

急になんだと思ったが絵を描いている時に話しかけられるのは初めてだったのでとりあえず声の主の方を見ずに適当に返事をする。

「あぁ…うん」

「君、よくここで絵、描いてるよね。この前なんてキャンバスで油絵描いてたよね」

「うん…」

「なんでそんな素っ気ないのさ!同じ中学出身だし3年間同じクラスだったんだからもうちょっと仲良くしてよ!」

同じ…中学…?

僕は声の聞こえる方に勢いよく顔を向けた

「お、やっとこっち向いてくれた」

その声の主は…

「えっと…誰でしたっけ?」

「な?!酷い!一応同じ高校通ってるんだよ?たまに見かけるから手を振ったりしてるのに…」

手を振ってくる…あっ!

「晴間…さん?」

彼女は晴間…さん。下の名前は忘れてしまったが中学の頃クラス委員長に半分押し付けられる形でなっていて、最近はたまにすれ違う時に手を振ってくる…変な人だ。

「そうそう!良かったぁ…同じ高校まで言って分からなかったらどうしようかと思ったよ」

「すみません。人の名前覚えるの苦手で…晴間さんはよく僕のこと気にかけてくださるので覚えてました」

「そっかぁ…むふふぅ」

「なんですか。急に気持ち悪い笑い方して」

「いやぁ…なんか嬉しいなぁって」

変な人だな…と思いつつ絵を描くのに戻る僕。すごく長い沈黙の中晴間さんが

「もうそろそろ帰らなきゃ。君も絵を描くのはいいけど暗い中描いてると目が悪くなるよ!」

なんて、物語の中のお母さんのようなことを言ってきたのでそのまま僕らは別れた。僕はその後も黙々と絵を描いていたがやはり鉛筆画は難しくて上手く描けないし暗くなってあたりが見えなくなってきたので僕も家に帰った。


家に帰っても両親はいない。僕らが小さい頃に交通事故で亡くなった。即死だったらしい。 だから、お姉ちゃんと弟と3人暮らしだ。

でも、別に不満に思ってるわけじゃない。

奇跡的に母方のおばあちゃんとおじいちゃんがお金持ちだったらしいからローンを支払い済みの家に住んで、弟の小学校の分のお金もおばあちゃん達に払ってもらって。僕は高校生だからバイトで何とか頑張って、僕が家事をしてお姉ちゃんはお金を稼いできてくれて弟は家事を手伝ってくれて。他の家とほとんど変わらない。

ひとつ変わることとしたら休みの日に家族でお出かけみたいな事が出来ない事ぐらいだ。

あ、ちなみに母方のおじいちゃんとおばあちゃんが数年前まで一緒に住んでくれていたのだが、1年前に病気で2人とも亡くなった。父方のおじいちゃんおばあちゃんは子供が好きじゃないという理由で家にはほとんど来ないし、お金持ちな訳でもないからほぼ他人みたいなものだ。

「あ、兄ちゃんおかえり!!」

「ただいま。ナツキ。いい子にしてたか?姉ちゃんは?」

「いい子にしてたよ!ほら、部屋綺麗にしたんだ!姉ちゃんは今日も遅番だって」

「ありがとうなぁ…綺麗になってるよ。じゃあ夜ご飯作るな」

「うん!ありがとう!兄ちゃん!」

「ナツキ、手伝ってくれるか?」

「んー、手伝いたいんだけど…今日ね学校の図書室で本借りてきたから読みたいんだよね…」

「そうなのか。いいよ。読んでて。ごめんな。いつも手伝ってもらってるからたまには休息も必要だよな」

「ううん。俺もごめんね。今日手伝えなくて。読み終わったら手伝う!」

「ははwじゃあゲームでもするか?」

「え?」

「お兄ちゃんが作り終わるのが先かナツキが読み終わるのが先か。賭けをしないか?景品は…何がいい?」

「賭け?!するする!楽しそう!景品は〜兄ちゃんが描いてる油絵が欲しい!あの、雨の絵、大好きなんだ!」

「そんなんでいいのか?じゃあ、お兄ちゃんは自分が作り終わるのが先だと思うな。」

「じゃあ、俺は自分が読み終わるのが先!」

「よぉし!よーい、スタート!」

僕らは黙々とそれぞれの作業を続けた。

勝敗は…

「よし!お兄ちゃん!俺読み終わったよ!!」

「え?!早いなぁ…じゃあ、仕方ないな。お兄ちゃんの油絵をやろう」

「やった!この前描いてた雨と虹のやつがいい!」

「分かった分かった。よし、じゃあ手伝ってくれるか?」

「うん!もちろん!そういえばこの賭け、兄ちゃんが勝ったら賞品はどうなってたの?」

「んーナツキには渡さずにお兄ちゃんがずっと持ってたかナツキに他の油絵を渡してたかもな」

「兄ちゃんにメリットないじゃん!」

「そうかもな。でも、お兄ちゃんはナツキが笑ってくれるならそれでいいよ」

それから僕とナツキで晩御飯を作り雑談をしながらご飯を食べそのまま寝る準備をして眠りについた。


翌日。いつもと変わらない朝。

「よし!兄ちゃん!行ってきます!!」

「行ってくるわね。雄」

「行ってらっしゃい。ナツキ、姉ちゃん」

「うん!行ってきまーす!」

「いつも家事ありがとね。今日も遅番だから夜はナツキのことよろしくね」

「うん。任して。行ってらっしゃい」

静かに扉が閉まっていく。僕は通信制の高校に通っているので正直学校に行かなくてもいい。が、この先、できるだけいい生活をナツキにさせてあげたいので毎日欠かさず学校に行っている。

それにちょっと…いつも手を振り返さないけど振り返してあげようかなって思ったし…

って、もうこんな時間か。バイト行かなきゃ






「雨霧くん!3番テーブルの清掃お願いしていい?」

「はい!分かりました!」

「あ、雨霧!それ終わったらこのサラダ1番テーブルに頼む!」

「はい!」

僕はレストランのホールのバイトをしている。

自分の性格上頼まれたことは全て受け入れてしまうタイプなため自分が言うのもなんだが結構仕事を頑張っているように見えていると思う。

「ん?」

清掃が終わり1番テーブルに向かう途中見慣れた顔が視界に入った

「あれは…晴間さん?」

5番テーブルで見知らぬ男性と談笑しながら食事をしている。

(彼氏か?まあ年頃の女子高生だもんな。そりゃいるか)

そのまま通り過ぎようとしたら晴間さんがこちらに気づいて手を振ってきた。

(彼氏といるんだよな?なんでこっちに手を振ってくるんだよ…気まずいだろ…)

手を振り返さず僕はそのまま無視をする形で厨房に戻った

(えっと…次はサラダだったか?1番テーブルだよな…)

僕がサラダを手に取り1番テーブルに運ぼうとしていた時に注文を知らせるベルがなった。

「あー、雨霧!悪い!サラダはいいから注文とってきてくれ!誰か代わりにサラダ持ってってやってくれ!」

誰かが返答する声を聞きながらどこからの注文かを確認すると…

なんと5番テーブルからだった。

(えー…気まず…サラダ運ぶ方が楽だったんだけど…)

断ることも出来ないのでなるべく顔を上げずに5番テーブルに注文を取りに行った

「あ!雨霧く」

「ご注文をお伺いします!!」

「え、えっと…じゃあ…このAランチを…お願いします」

晴間さんの声を遮るように注文を聞くと彼氏らしき男性が困惑したようにAランチを注文した。

「桜は?」

ズキッと胸の奥が痛むのがわかった。何故だろう。そういえば晴間さんの下の名前『桜』だったな…

「むぅ…じゃあ同じので」

固まっている僕には気づかず晴間さんは注文を入れる。

「かしこまりました」

僕は自分に動揺しながらも素早く厨房に戻り注文を伝えてから休憩時間になったのでバックヤードに戻った




(無理やりすぎたかな…)

バックヤードに戻り、晴間さんがせっかく話しかけてくれたのに遮ってしまったのを今更後悔している。

それに最近なんだかおかしい。あの時、あの公園で、晴間さんが話しかけてくれた時から晴間さんの事が頭から離れない。それに…さっきの彼氏らしき男性が晴間さんの事を「桜」と読んでいたことに何故かモヤモヤしてしまう。

考えを振り切るようにふと窓の外を見る。

今日は雨だ。少し気分が良くなった気がする。

晴れは嫌いだ。快晴なんて大嫌いだ。明るいとやる気を損なわれる。

世間はみんな晴れの方が好きだという。

僕を異端者だといい僕の方がおかしいのだという。時には厨二病だとも言われた。人と少し好みが違うだけなのに

嫌な思い出を振り払うように首を振り休憩時間が終わったので厨房に戻った。

だが、この後の仕事はあまり集中出来ず店長に

「どうした、雨霧。体調悪いのか?さっきから集中できてないぞ。お前は頑張りすぎなところがあるからな。今日は帰れ」

と言われてしまったので現在帰宅している途中だ。この後は家で昼ごはんを食べたあと学校に行く。

学校のことを考えると少し楽しい気分になった





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨が好きな僕と雨が嫌いな君と @utagekotobuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ